第148話 王宮にて(1)
すみません、予約時間を間違えていました!
どうやら国王様は、今すごく忙しいらしく、この前クランの名前を報告しに来た時とは違ってかなりの時間、部屋で待機している。
何でも、冒険者ギルドを通じて出していた依頼の報告を聞いているらしい。
依頼の内容は、教えて貰う事が出来なかったけど、これだけ時間が掛かっているんだ。
きっと、重要な話し合いをしているんだろうと思う。
そういえばアイシャも冒険者時代に、王家から依頼を受けてたって言っていたもんなあ。
そんな取り留めもない事を椅子に座りながら考えていると、ドアをノックする音が聞こえた。
ああ、やっとかな?そう思って腰を上げた瞬間、ドアが静かに開いた。
そして、部屋の中に入ってきたのは、予想していたメイドさんでは無く、シルフィとエアリーの二人だった。
ああ、どうやら二人の方が早かったみたいだね。
「旦那様、ただいま。その様子だとまだ父上には会えていないのかな?まあ、父上も何かと忙しいから仕方ないか」
「うん、何でも冒険者ギルドに出していた依頼があって、その報告を聞いているみたいだよ」
メイドさんから王様との謁見が遅れている理由として聞いた事をそのままシルフィに伝えると、形の良い眉をしかめ、いきなり大きな声を出したのだ。
「……何っ!?ギルドからの報告だって!?」
一体、何事!?と僕が尋ねると、恐らくと前置きをしたうえで、シルフィは話をしてくれた。
何でも、魔人国が他国へ侵略戦争を仕掛けてきた可能性があるらしい。
馬鹿げた噂話なのだが、もしもこれが本当だったら、とんでもない事になる。
その噂が本当なのか、真偽を確かめるために、国から冒険者ギルドに依頼を出していたそうだ。
この依頼はシルフィが僕との結婚を決めて、一度王都に戻った辺りのタイミングで出されたそうなので、結構な時間が立っている。
……魔人国ってそんなに遠い場所にあるんだね。
「場合によっては、私達も何かしらの対応をせねばならないかもしれない」
あれれ?まてよ……魔人国の侵攻?ん?どこかでそんな言葉を聞いた気が……。
ああっ!思い出した!!!そうだよ!あの時の事か!
ヨルムンガンド様の背に乗り”牢獄の迷宮”へ向かって飛んでいた時に、ヨルムンガンド様がそんな事を言っていた!
実際に侵攻されて滅びかけている町を見たじゃないか!
「シルフィ!その話は本当だよ!魔人国に新しい王が誕生したんだってヨルムンガンド様が言っていた!」
「なっ!?だ、旦那様っ、それは本当か!」
「間違い無いよ!僕も見たんだ、燃えさかる町並み、積み重なる屍、オーク達魔族の集団……まさに地獄のような光景だった」
自分の旦那から、思いがけない報告を聞き、シルフィが驚きの声を上げる。
ギルドへの依頼のタイミングを考えると魔人国自体は、僕達の住むオーガスト王国から相当な距離があるのはわかる。
実際、高速で飛ぶヨルムンガンド様の背に乗って移動しても、かなり時間があった記憶がある。
つまりそれだけ離れている訳なので今の所は、直接の脅威とはならないのだが……。
僕とシルフィがそんな話をしていると、扉をノックする音が聞こえてきた。
「マイン様、お待たせ致しました国王陛下がお待ちになられてます、どうぞこちらにお越し下さい……あら?姫様方もお見えでしたか」
先程まで居なかったシルフィとエアリーの二人を見て、軽く驚いた様子を見せたメイドさんですが、すぐに立ち直りを見せる。
うん、流石やり手のメイドさんだ。
「では、参りましょう。姫様方も一緒に行かれますか?」
「ああ、勿論だ」
「当然ですわ!」
シルフィ、エアリーのダブル王女(シルフィは元だけど)の答えを聞き「では、ご一緒に参りましょうか」そう言って、部屋を出ていく。
僕の頭にわっふるが乗り、シルフィの肩の上辺りにクゥが浮かんでくっついていく。
すると、エアリーが目を大きく見開いて、こう声を上げた。
「……お、お姉様……そ、その肩のピンクの子はなんですの?」
エアリーがクゥを指さして、恐る恐るシルフィに訪ねる。
「ん?ああ、神獣ケートス様の娘でクゥだ」
「ケ、ケートス様ですって!?」
ああ、予想通りの反応だよ……これは国王様やお義兄さんも似た反応になりそうだね。
クジラ族なんてあまり馴染みの無い種族で、かつ神獣様の娘となれば、当然の反応だとは思うんだけど……。
自分の事が話題になっている事に気をよくしたクゥが尻尾をビタンビタンと動かしている。
どうやら、かなり嬉しいらしい。
「きゅ、きゅきゅー!」
そして、エアリーに向かって、鳴き声を上げて挨拶をするクゥ。
「……何て言ってますの?」
「『クゥです、よろしくお願いします!』だって」
僕がそう教えてあげると、エアリーは嬉しそうに笑顔を浮かべ、こちらこそ!と挨拶を返す。
「お姉様はクゥちゃんと話は出来ないのですの?」
「ああ、私とアイシャはケートス様とは会っていないからな」
エアリーとシルフィがそんな話をしているうちに、メイドさんの姿が完全に消えてしまっていた。
「メイドさんが行っちゃったよ!急いでいこう」
僕がそう声を掛けて、少し早めに歩いて扉に向かうと、二人とも併せてついてくる。
部屋を出て前を見ると、少し進んだ所でメイドさんが待っていてくれているのが目に入った。
「ご歓談中に大変、失礼致しました」
メイドさんは深々とこちらに頭を下げてきた。
「いえ!こちらこそ、ごめんなさい!」
メイドさんはさっさと進んで行ってしまった事、僕は遅れてしまった事をお互い詫び、改めて国王様が待つ執務室へと向かう。
「来たか、入れ」
ドアをノックすると中からお義兄さんの声が聞こえてくる。
言われるまま、扉を開けて中に入ると国王様とお義兄さん、宰相のモルグさんが揃って出迎えてくれた。
「随分待たせてしまったな、火急の用件があってな。すまなかった」
国王様がそう言うと、僕が返事をするまえにシルフィが声を出す。
「……父上、その火急の件というのは……例の魔人国絡みの話なのか?」
シルフィの声を聞き、国王様、お義兄さん、モルグ宰相、三人共が緊張の面持ちを見せた。
「……ああ、その通りだ」
「なるほど、……私も先程知ったばかりなのだが、うちの旦那様が有力な情報を持っていたぞ」
「なに!?マインがか?有力な情報とは一体なんだ?」
僕は先程、シルフィに話したヨルムンガンド様とのやり取りと実際にこの目で見た町の様子を報告する。
話を進めるたびに、三人の顔がどんどん曇っていくのが分かる。
「……なるほど、ヨルムンガンド様が仰ったのか。ならば、間違いは無かろう」
それだけ国王様が言葉を発し、部屋の中は静まりかえる。
そして、しばらくして、再び国王様が声を出した。
「また、その話はゆっくりと聞かせてもらうとして、お前達の用件はどうした?
まさか、さっきシルフィが知ったと言うのだ、今の話が用件という訳ではあるまい?」
恐らく国王様は気を遣ったのだろう、極力明るい声で僕にそう尋ねてきた。
うん、僕もその意図に乗っかって元気に話そう。
……けど、この場にモルグ宰相がいるからね、具体的な話は出来ないよね。
ちらっと、モルグさんを見た後、僕は報告する。
「ああ、そうです。すっかり忘れてました。先日頼まれていました物が完成しましたので報告に来ました」
「なに!?本当に完成したのか!でかしたぞマイン!」
こうして、僕の作った移動扉に話題は移っていくのだった。
お読み頂きありがとうございました。
※若かりし日の国王様視点のスピンオフを投稿しております。
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【改稿】
2017/02/19
・全般の誤字を修正。




