第147話 CASE:エアリー
「エアリー、私だ!シルフィードだ」
ドアをノックする音と共に、シルフィお姉様の声が聞こえてくる。
「お姉様!」
私は慌ててドアを開けるべく、走り出した。
……だけど、急な運動を行うとどうしても息切れしてしまい呼吸が苦しくなる。
先日、伺ったお姉様のご自宅のお風呂のおかげで一時的に体調が良くなった。
しかし、あれから結構時間が経過してしまっているので、すっかり元通りの病弱な私に戻っている。
私がドアに辿り着くよりも早く、お姉様がドアを開けて部屋に中に入ってきた。
「……!エアリー何してるんだ!走ったりしたら駄目だろう!」
「……お姉様ごめんなさい、嬉しくてつい走ってしまったんですの……」
シルフィお姉様は心配そうに私を見ています。
ごめんなさい、心配を掛けるつもりはなかったんですの。
「ほら、エアリー掴まれ」
私はお姉様が差し出した手を取り、深呼吸を行います。
すぅ、はぁ、すぅ、はぁ……。
大分、呼吸が落ち着いてきました。これでお姉様も心配しないですみますわね。
「もう、大丈夫ですわ!心配を掛けてしまってごめんなさいです」
「ああ、とにかく無理はしては駄目だからな……あんまり心配をさせないでくれ」
ああ、いつもお姉様は優しい。だからこそ、心配をかけないで済むようになんとかこの病気を治したいと思う。
マインお義兄様の見立てでは、私の体は他の人達より体に蓄える事が出来る魔力の量が少ないそうだ。
そのおかげで、体調が良くならないらしい。
逆に一定量以下になる事も無いので、病状がこれ以上悪化するという事もないらしいのだが……。
……しかし、理由が分かっても治療方法がわからないのだ。
だが、マインお義兄様のおかげで、対症療法だけは見つかった。
その治療方法とは……マインお義兄様とお姉様が住むフォルトゥーナ家のお風呂である!
お風呂が治療方法だと言われても、一体なんの事だか、わからないだろう。
このお風呂、普通のお風呂とは全然違うのだ。正確に言うのならば、この風呂に使われている水が特別製なのである。
実はこの水、お義兄様のスキルを使って、供給されている。
そしてそのお水を沸かしてお湯にしているのだが、なんとこの水……魔力が多大に含まれている魔力水なのだ。
慢性的な魔力不足と診断されたポンコツな私の体でも、このお風呂に入る事が出来れば、不足する魔力を一時的ではあるが、体に補充する事が出来るのだ。
実際に先日、お義兄様の家に泊まりにいった時にその効果の程は確認出来ている。
そこで、私はお義兄様とお姉様達が立ち上げたクランに目をつけた。
お義兄様達のクランに所属すれば、当然私もルーカスに住む事になるだろう。そうすれば件のお風呂に毎日入る事が出来るという訳だ。
お義兄様にこのアイデアを話したら、王宮に風呂を作るとか言いかけていた。
だけど、私としては体が自由に動くのならば、今までずっと部屋に引き籠もっていた無意味な時間を何とか取り返したいと思う。
その為には、王宮から飛び出て体が自由に動くという幸せを思う存分に満喫する事が必要だと思うのだ。
だから、お義兄様が言いかけたように、王宮になんかお風呂に作られたら、とても困ってしまう。
あくまでも私はお義兄様の家のお風呂で療養したいのだ。
幸いにして、マインお義兄様も、私の実の兄姉達と同じくとても優しい。だから、とっさに私はお義兄様に泣きついてしまったのだ。
「……お義兄様は、私が嫌いなんですの?」
……そうしたら、条件付きではあったが、私のクラン入りを認めてくださいました。
その条件とは……“お父様とお母様から許可を取る事”でしたわ。
両親は二人とも私にすごく甘いので、この条件はすぐに達成出来ると思っていましたが……予想外の反応が返ってきたのです。
「ダメだ。許さん」
「私も許しませんよ」
私が最初に二人に話したときに、両親の回答がこれだった。
この返事が返ってくるのに要した時間は、なんと0コンマ5秒。まさに一瞬の出来事だった。
「なんですの!?お義兄様の所にいけば、私の体も治るのですよ!」
思わず、両親に大声で言い返してしまう。
「確かに、魅力的な話だろうとは思う。だが、あくまでもコレは対症療法だろう?
ならば、体の調子が悪い時に何かあったらどうする?王宮とは違ってメイドはいないのだぞ?
それに、マインに頼んで王宮にその風呂を作って貰えば、事は済むだろう」
くぅ、お義兄様と同じ事を言われるなんて……。
その後も色々と説得を試みたのだが、結局お父様もお母様も頑として首を縦に振らず、説得する事は叶わなかった。
「……どうした?エアリー、体がつらいのか?」
ああ、いけない……思わず思い出して考え込んでしまったですの。
「いえ、お姉様大丈夫ですの、ちょっと嫌な事を思いだしてしまって……」
「ふむ?何かあったのか?私で良ければ相談に乗るぞ?」
お姉様に心配を掛けてはいけませんわ、話題を変えなくっちゃ駄目ですわ!!
「……大丈夫ですの、お姉様!それより今日は一体どうなさったのですか?いきなりいらっしゃるなんて」
「……そうか?まあ、言いたく無いのなら構わないがな。
今日は旦那様が、父上に報告があってこちらに来ると言うので、エアリーの様子を見に連れてきてもらったのだ。
間もなく、クランハウスが完成するからな、うちのクランに入ると言っていただろう?
あの後、何も言ってこないから心配になってな、どうだ?父上と母上は説得できたのか?」
まさに今考えていた事だった。偶然とはいえ、流石はお姉様だ。
「……流石ですわ、お姉様。実はさっきの考え事はまさにそれなんですの」
こうなったら、お姉様に相談してみよう。きっと何かいいアイデアを出してくれるかも知れないですわ!
「ん、察するに二人とも猛反対なのだろう?」
「……当たりですの」
「まあ、父上も母上もエアリーには、かなり過保護の所があるからな。
何となく予想はついていたよ、今までずっと体が悪かったんだ、二人の気持ちも分かってやるべきだろう」
そんな事はお姉様に言われなくても分かってますわ!
そうじゃないの、私がお姉様から貰いたい意見はうまく私がクラン入り出来る方法ですわ!
「何かお姉様にはアイデアはありませんの?」
「ふむ……アイデアは無いが、ひょっとしたら解決するかもしれんぞ」
アイデアは無いけど解決する!?一体どういう事ですの!?
そんな方法があるというなら、是非教えて欲しいんですわ!!
「お、お姉様!!どういう事ですの!?うまくお父様とお母様を説得出来る方法があるんですの!?」
「ああ、旦那様が父上と話す内容によって、という所だな。これから旦那様の所に戻るんだが、エアリーも一緒に行くか?」
お義兄様が!?一体なんの話かしら?
何はともあれ、私がクランに入る事が出来ると言うなら、当然ついて行くに決まってるのです!
「はい!是非私も連れて行って欲しいですの!」
お読み頂きありがとうございました。
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【改稿】
2017/02/18
・全般の誤字を修正。