第144話 閑話・わっふるとクゥの大冒険 <後編>
クゥが張り切って、森の奥へと飛んでいく。
まいんがこの森にはそんな強い魔物はいないっていってたけど油断は禁物だ!
くぅは俺がまもるんだからな!まいんと約束したんだ!
俺達は、周りを気にしながらも、大きな芋虫や羊を次々と倒していく。
ああ、確かにまいんが言う通り、強い魔物は全くいないな。
……これなら、特に心配しないでもよさそうだな?
『きゅきゅ!?おにいさま、あれあれ!』
うん?クゥが何かを見つけたみたいだ。クゥの示す方角を見てみると……人間の男がうつ伏せになって倒れてるぞ!
その人間を守るように小さな鳥が、羊と戦っている。
『たすけよう!』
俺がそう言うとクゥも頷いて、戦闘の現場へと急行する。
『わふ、たすけにきたぞ!』
俺が小鳥に向かってそう言うと『ちゅんちゅん、ありがとう!』と安堵したような声で返事を返す。
『バブリブルシャワー、きゅー!』
俺達が会話している間に、クゥが羊に攻撃を開始する。
クゥのスキル【バブリブルシャワー】を喰らった羊はその一撃で地面に崩れ落ちた。
実に呆気なく、戦闘が終わりクゥは不満気味みたいだが、仕方ない。
最初からまいんに弱い魔物しかいないって言われてたからな。
それより、問題はこの小鳥だ。
怪我はしてないみたいだけど……色は黄色と違うけど、体に俺達と同じような布を巻いていた。
そう、まいんが俺達がまいんの獣魔だと言う証明だとつけてくれた布だ。
と言う事は、この小鳥はそこに倒れている人間の獣魔という事なのか?
『助かりましたちゅん!僕は雀型の魔物、ちゅん介です!
そこで倒れて寝ているのが、僕のご主人様なのでちゅん!』
やっぱりそうか!はじめて見たぞ、これがテイムって奴なのか?
『きゅ、なんでそのご主人様は寝てるの?』
そう、ちゅん介が必死に戦っているのに寝てるなんて、主人の風上にもおけないやつだ!
俺達が居なかったら、きっとちゅん介は死んでたぞ!
『羊のスキルで寝かされちゃったのでちゅん……』
そうか、なら仕方ないな。起きたら俺がガブッとしてやろうと思ったけど許してやるぞ。
俺達にそう言って、ちゅん介は寝ている人間の所に飛んでいき、その頬に嘴でちゅんちゅんと突っつく。
『ごしゅじん、おきてほしいのでちゅん!』
必死になって、ちゅん介がつついているが、怪我をさせないように力加減をしているせいで中々目覚めない。
そんな中、目を覚まさない人間にクゥが痺れをきらして、そのお尻に尻尾を叩きつけた。
「痛っ!!!!な、なんだ!?俺は死んだのか!?」
『ごしゅじん、ごしゅじん、きをたしかにするちゅんよ、このふたりがたすけてくれたちゅん。ちゃんとおれいをいうでちゅん』
ちゅん介と人間がなにやら会話をしているが、俺達には何を言ってるか分からない。
何か疲れてきたな……家に帰ってお風呂に入りたいぞ。
取りあえず、ちゅん介達は放置して、クゥに帰る事を相談しよう。
『くぅ、よわいやつしかいないし、つかれてきたから、そろそろかえろう』
『きゅ、そうね。いえにかえって、しるふぃとおふろに、はいることにするわ』
俺達が家に帰るのを決めて、まいんと合流する場所を探しにいこうとすると、突然さっき助けた人間が大声で叫び始めた。
「な、なんだこの魔物は!二匹とも見た事が無い魔物だぜ!へへへっ、俺にも運が回ってきたな!」
ん?何だ、こいつ。
「こいつらをテイムすれば、クランでの俺の立場は間違いなくあがるはずだ!そうと決まれば……くらえ【テイム】!」
わけのわからない事を言いながら、何かスキルを使ったみたいだ。
【テイム】……なんだってー!?俺達を獣魔にするつもりなのか!?
神獣である俺達にそんなのが効く訳ないけど、気分はよくないぞ。
「ぐるるるぅ」
せっかく助けてやったのに、何なんだ!こいつは!
俺が唸り声を上げて威嚇すると、ちゅん介が俺達と自分の主人を交互に見ながら狼狽えてる。
『ごしゅじん、ごしゅじん、だめちゅん!だめちゅんーーー!』
う~ん、こんなやつでも、ちゅん介のご主人様か。
仕方ない、ちゅん介に免じて命だけは助けてやるぞ。
俺は【重力の魔眼】を発動し、その場に沈み込ませる。
メキョメキョと何かが軋む音が周りに響きながら、ちゅん介のご主人は膝を地面につく。
「こ、これは、な、なんだって言うんだ、体が急に重く……それになんでコイツら【テイム】出来ないんだ!?」
『ご、ごしゅじんーっ!』
ちゅん介が慌てて、この失礼な人間に向かって飛んでいく。
あ、だめだぞ!ちゅん介も【重力の魔眼】を喰らってしまう。
力を押さえて、弱めてはいるとは言え、ちゅん介の小さな体でこれを喰らったら死んじゃうかもしれない。
慌てて【重力の魔眼】を使うのを止める。
『わふ!ちゅんすけ、はなれてろー。そのすきるで、そのにんげんは、しなないぞ』
俺がそう言うと、ちゅん介は急ブレーキをかけて、人間の側から離れていく。
「ち、一体何なんだよ!こんなスキルを使うって事は、普通の狼じゃないな!絶対に俺の物にしてやるぞ!」
……あの人間、全く懲りてないぞ。
ちゅん介も離れた事だし、再び【重力の魔眼】を使用する。
「がああ、またかよっ!!!一体なんだっつーの!」
『くぅ、かえろう!』
俺達は森の更に奥へ奥へと走り出す。
そう、まいんが以前オーク・キングと戦ったという集落の跡に向かってだ。
俺達が走り去る姿をちゅん介が後ろから見ている。
「ごめんなさいちゅん!たすけてくれてほんとうにありがとうでしたーーーー!」
うん、ちゅん介はいいヤツだ。
俺達は振り向いて、ちゅん介に向かって手を振った。
……クゥは尻尾だけど……。
『まいん、まいん、いま、オークのしゅうらくにむかってるぞ!むかえにきてくれー!』
念話でまいんにそう伝えると、すぐに返事が届く。
『分かったよ!すぐいくね!』
俺達は、まいんの獣魔で本当に良かったぞ!さっきの奴みたいなのだったら凄く困る。
まいんに心から感謝だな!わふっ!
よし、オークの集落が見えてきたぞ!あっ!まいんはもう来てるみたいだ!しるふぃとあいしゃいる!
『くぅ、まいんたちがきてるぞ!』
『おにーさまーーー!くぅは……くぅは、ぼうけんしてきましたーーー!』
こうして、俺達は“家族”達と一緒に家に帰るのだった。
さあ、楽しいお風呂の時間だ!わっふふ!!
「畜生!!!!!俺は諦めないからなあ!!!!」
『ごしゅじん……』
お読み頂きありがとうございました。
ツイッターを【咲夜@小説家になろう:@ID73yQraHGjolTq】を見て頂いている方は
既にご存じと思いますが、分割された143話の続きです。
予定よりも少しばかり加筆を加えました。
お待たせしまして申し訳ありません。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/02/18
・言い回しを修正。




