第141話 フランツと近衛騎士団
「……ところで、フォルトゥーナ近衛騎士団って何ですか?」
僕がそうフランツ団長に尋ねると、もの凄い真面目な顔でこう言った。
「マイン殿、旗下の騎士団ですが?」
……いや、そんな事は聞いていないよ?そんな騎士団いつ出来たの?って言う事なんだけど。
僕の心の声が聞こえたのだろうか、続けてフランツ団長はこう続ける。
「ご自覚下さい、マイン殿はシルフィード殿下を娶り、貴族となったのです。
王族を迎え入れたと言うのに、自己防衛を含めた近衛を持っていないと言うのはあり得ません。
エイミ殿の護衛も勿論、任務のうちですがマイン殿やシルフィード殿下を影ながらお守りするのも我々の仕事です」
……どうやら、知らない間にそんな話が決まっていたみたいだ。
何でもフランツ団長は、直接国王様からエイミさんの護衛の打診を受けたらしい。
その話が決まった後、お義兄さんが可愛い妹と義弟の為だと、フォルトゥーナ家に近衛騎士を用意する事を決めたらしい。
お義兄さん、せめて僕に一言くらい下さい……。
そんな事を考えていたが、今回の件、実はお義兄さんにはそれ以外にも大きな目的があったみたいだ。
シルフィがこっそりと教えてくれたんだ。
今回の人事、事情を知らない他の人間達から見れば、フランツ団長は左遷にあったと捉えられかねない。
そこで、左遷では無いのですよという、対外的なアピールをする必要があった。
そこで白羽の矢が立ったのが国民に圧倒的な人気を誇る元第一王女だ。
つまり、シルフィが嫁いだ先であるフォルトゥーナ家を守るというお題目を用意したと言う事だ。
更にフォルトゥーナ家を守るという大きな任務に皆の目がいけば、エイミさんの正体を隠すにも有効だろうと判断された訳だ。
……なるほど、そう言われれば、確かに納得はいくのかな。
確かに僕はシルフィと結婚し、形的には王家の一員となった訳だけど、別に僕自身が偉くなった訳ではない。
貴族というけど、正直言うと僕自身はどうでもいいと思っている。
……僕の望みは一つだけ、家族水入らずで仲良く暮らせるだけで僕は良かったんだ。
こんな大袈裟な事は望んではいなかったんだけど……。
だけど、エイミさんを守るという意味合いでは、これ以上望む事が出来ない対応だと思う。
人材としても団長のフランツさんの人柄、実力は折り紙付きだし、その他にも二人も腕利きの騎士が来てくれる。
その二人だって、団長自ら選抜した人物だから、恐らく人格、実力共に問題ないだろう。
更に、文官も来てくれるというのならば、受付業務や会計処理などを任す事が出来る。
エイミさんの負担も大きく減るだろう。
まさに至れり尽くせりと言ったところだろう。
「よく分かりました!これから宜しくお願いします。
ところで本日付って言ってましたけど……宿とかどうされるのですか?
残念ながら、まだクランハウスは完成していないですし……」
そう、流石に僕の家に泊まると言う訳には行かないだろう。
かといって、フランツ団長ほどの立場の方にその辺の宿に泊まって貰うわけにもいかない。
さて、どうしたらいいんだろう。
「ああ、ご心配なく。実は家族でルーカスに引っ越しをしてきましてね。
陛下より、住居を用意頂いておりまして……この後、そちらに赴く予定なのです」
ああ、なるほど!完全にルーカスの町に生活の場を移すんだね。
確かに、エイミさんの護衛にウチの家の騎士団の仕事をするとなれば、王都から毎日通う訳には行かないもんね。
流石に僕の【固有魔法・時空】は易々と人に見せる物では無いし……。
ん?【固有魔法・時空】……なんか、忘れている事があるような……なんだっけ……。
…………
………
……あぁ、すっかり忘れていたよ!!
国王様から、遠距離移動出来る扉を作ってくれと言われていたんだ。
色々あったから、すっかりと忘れちゃってた!
きっと、国王様も待ってるよね?
フランツ団長が帰ったら、取り掛かってみようかな。
多分、収納袋と同じようなイメージで、やれば何となくだけど作れそうな気がするんだよね。
これが完成すれば、移動が本当に楽になるからね。
ちょっと気合いをいれて、実験してみよう。
そんな事を頭で考えながら、クランハウスが完成した後の生活をどうするかを打ち合わせる為、この場にいないアイシャとエイミさんを呼び寄せる。
その結果、クランハウスに住む事になるのはエイミさんと文官さん2名。
文官さんは二名とも女性との事だ。そして、やはり女性の騎士さんを含めて計4名となった。
残った一人、男性の騎士さんは、フランツ団長の家のすぐそばに家を借りる事になるらしい。
流石にフランツ団長のように国から住居を与えては貰えないみたいだえど、家賃の八割を国が負担するらしい。
……まあ、そんな条件でも無ければ、王都からルーカスに移り住もうなんて思わないよね。
「わふわふ、わふ~♪」
ん?わっふるの声だ。ああ、やっとお風呂からあがったみたいだね。もの凄くご機嫌みたいだ。
体からホクホクと湯気をたてながら、居間に入ってくるわっふる。
そして、僕の背中に飛び乗り、定位置の頭の上まで登ってくる。
そして上機嫌のまま、ペシペシと僕の頭を叩いて、じゃれついてくる。
「……お久しぶりです、神獣様」
神獣と言うには、余りにだらけきったわっふるの姿を見て、苦笑をしながら声をかけてくるフランツ団長。
そこで、やっとその存在に気が付いたようで、右手をあげ、その柔らかな肉球を見せつけながら「わふっ!」と挨拶をする。
「ああ、そう言えば名前をつけてあげたんです、わっふるって言います。
これからはわっふるって呼んであげて下さい!」
僕がそうフランツ団長に告げると、すぐに「よろしくお願いしますね、わっふる様」と頭を下げた。
ああ、そうか。フランツ団長にとっては”神獣様”だもんね。当然、こんな反応になっちゃうか。
僕等はすでに家族という認識しかないから、全然意識してないもんね。
子フェンリルというより、”わっふる”だもんね。
『わっふる、覚えてる?神霊の森にいた騎士団長さんだよ。
これからルーカスの町で暮らすんだ、それでエイミさんの護衛もしてくれるんだって。
わっふるの事だから全然心配はしていないけど……一応言っておくね、仲良くしてあげてね!』
『わふ!わかったぞ!』
わっふるの登場で場の空気がすっかり和みはじめた時……。この場に居ない家族の一員が居ない事に僕は気が付いた。
「……あれれ?ところでクゥは?」
周りを見回しても、何処にもいない。
『わっふる、クゥ何処に行ったの?』
せっかくフランツ団長が来てくれているんだ、今後顔を合わせる事に絶対なるわけだし、この機会にクゥも紹介したい。
……だけど、一体どこにいったんだろうね?
『くぅなら、ねてるぞ』
……え?寝てるの!?こんな時間に?
う~ん、ご飯の事もあるからね、そろそろ起こさないと駄目かな?
『わっふる、クゥを起こしてきてくれる?』
僕がそう言うと『まかせろ!』といって僕の頭から飛び降りて、クゥが寝ているであろうシルフィの部屋へと走っていった。
その様子を見ながら、フランツ団長が僕に尋ねる。
「クゥってどなたですか?」
「ああ、クゥ?んとね……神獣ケートス様の娘だよ」
「……え?なんですって!?神獣様の子供がまだいるんですか!?」
うん、一波乱ありそうだね。
お読み頂きありがとうございました。
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【改稿】
2017/02/12
・全般の誤字を修正。