第140話 再会
世界樹の迷宮から、帰って二日ほど自宅でのんびりと寛いでいる。
当初の予定では、移動出来る場所を増やすべく、色々な場所に行こうと計画していたのだが、世界樹での出来事があまりにも濃密すぎて流石の僕も疲れてしまったからだ。
シルフィとアイシャの二人も慌てる事は無いと笑って言ってくれたので、その言葉に甘える事にしたんだ。
「……ふぅ、気持ちいいね!」
ぷかぷかと仰向けになって、お湯の上を漂うわっふるに話しかける。
そう、今僕達はお風呂に入っているのだ。
『わふ~♪』
わっふるが発明?したお湯の温度を保つ策のおかげでお風呂の温度は適度に熱い状態を常に維持している。
温めのお湯に長時間浸かるのも気持ちがいいが、僕は熱いお風呂の方が好きなようだ。
温めのお風呂といえば、少し面白い事が起こっている。
我が家で熱めのお風呂を好むのは、僕とわっふる、そしてアイシャの三人?(二人と一匹)だ。
反対に温めのお風呂が好きなのは、シルフィとエイミさん。……そして、なんとクゥだったりする。
好みがわかれているので、今は毎日交代で熱い日と温い日を入れ替えているんだ。
そんな中、毎日一緒にシルフィとクゥがお風呂に入っているのが切っ掛けだったのか、この二人。
びっくりするほど仲良しになってしまった。
『今日も気持ちがいいな』
『きゅきゅ、そうですね、しるふぃおねえさま!』
わっふるが、僕の頭を好んで乗っかるように、最近のクゥはシルフィの肩の辺りでふよふよ浮いているのが多くなってきた。
シルフィは元々面倒見がいい事のもあるのだけど、クゥをかまっている光景は中々見ていて和むのである。
名前:クゥ
LV:52
種族:神獣
性別:♀
状態:フォルトゥーナ家の妹。
なんと、クゥを鑑定すると僕の妹(?)となっていた状態欄がフォルトゥーナ家の妹(断定)に変わっていたのには本当に驚いた。
すっかりとうちに馴染んできたと言う事だよね、うん。
ちなみに、クゥはアイシャとも仲がいい。お風呂の趣味からシルフィと一緒にいる時間が多いというだけである。
アイシャは基本可愛い物好きなので、わっふるとクゥのどちらも大好きなようだ。
暇を何とか工面して、どちらかと一緒に遊んでいる姿をよく見かける。
「マイン君、お客様がお見えになったわよ~!」
お風呂の外からアイシャが声を掛けてくる。
『お客様?一体誰だろう?……わっふる、僕出るけどわっふるはどうする?』
『おれは、もうすこし、はいってるぞー』
相変わらず、お風呂に仰向けに浮かびながら僕にそう答えを返すわっふる。
器用に尻尾を舵にして、縦横無尽に風呂を漂う姿は実に愛らしいのである。
『んじゃ、お先に出るね!のぼせないでよ?』
『わふ、だいじょうぶだぞー』
……だけど、うちにお客様って珍しいよね。
一応、貴族という扱いにはなってるけど、ほとんど名前だけだし……一体誰だろう?
親方かな?それともギルド長?……いや、ギルド長な訳ないよね。
もし、ギルド長だったら用事はアイシャかシルフィ宛であって、僕の訳が無い。
それに知ってる人だったら、アイシャも呼びに来たときに伝えていくと思う。
う~ん、考えても全く心当たりがないや。
取りあえず、急いで服を着て居間に向かわなきゃ!お客様を待たせたらダメだしね。
急いで身支度を整え、居間に向かうとそこに居たのは、全く予想外の人物だった。
「お久しぶりです、マイン殿」
そう居間で、僕を待っていたのは王都ですごくお世話になった騎士団長さんだった。
「すみません、寛いでいらっしゃったのに突然お邪魔してしまって」
相変わらずの丁寧な口調で、僕に話しかけてくる。
「お、お久しぶりです!お元気でしたか!!」
思わず、クロードとの神霊の森でのゲームを思い出す。
あの時は、色々迷惑を掛けてしまったな……。
「そう言えば、フェンリル様のお子さんはどうしたんですか?」
……あれ?僕、騎士団長さんにわっふるの正体教えたっけ?確か狼だって話した気がするけど……。
「ふふ、不思議そうな顔をしてますね?国王様から教えて頂いたのですよ」
ああ、なるほど。国王様から聞いたのか!
……って、ええええええええ?何、話してるの?国王様っ!!!!
確かに騎士団長様は信頼出来る人物だとは思うけど、気軽に話していい話じゃないよね?
「驚かれてますね?」
僕の驚きようとは全く正反対に、騎士団長さんはいたずらが成功した子供のような嬉しそうな表情を見せる。
「いい加減、旦那様をからかうのはよしておけ」
僕と騎士団長さんの会話を聞いていたシルフィが顔を顰めて割り込んでくる。
「はっ!シルフィード殿下、失礼致しました!」
「……何度も言うが、もう殿下では無いぞ」
「自分にとっては、殿下は殿下です!」
「……はぁ、まあいい、好きにしろ。それより旦那様に伝えねばならない事があるのだろう?
まずはそちらを済ませてしまった方が落ち着くだろう?」
うん?やっぱり何か用事があるんだよね?……そりゃそうだ。そうじゃなかったら騎士団長さんなんて忙しい人がこんな所に来る訳がないもんね。
……けど、なんだろう。クロードの時のような厄介事かなあ?すごくドキドキするよ。
緊張しながら、僕が騎士団長さんを見ていると、いきなり騎士団長さんは立ち上がって、僕に向かって直立不動の姿勢を取る。
「本日付より、私フランツ・ワークスは王の命により、フォルトゥーナ家の近衛騎士に任命されました。
以後、宜しくお願いします」
……え?
「つまりだ、簡単に言えば父上が言っていたエイミの護衛役と言う訳だ」
きょとんとして立ちすくむ僕にシルフィが補足で説明を入れてくれた。
ああ、そう言えば……国王様からそんな話しを聞いてたよね。
なるほど、だから国王様はわっふるの事を話したんだね。
うちと密接に関わってくるなら、確かに知っておいた方がいいだろう。
人格的にも問題ない人物なのは分かってるし、僕とシルフィとも面識があるしね。
と言う事はエイミさんの正体も聞いてるという事なのかな。
「一応、所属としては国王様の近衛扱いとなりますが、実際はフォルトゥーナ家の近衛騎士団長兼務となります」
けど、国王様は何人か派遣すると言ってたよね?
ここにいるのは、騎士団長さん……フランツさんだけだ。結局、一人だけなんだろうか?
それに今、不穏な言葉が入っていなかったかな?
「国王様からは、何人かクランの職員を派遣するって聞いてるんだけど……」
疑問に思った事を聞いてみる。
「ええ、今日の所は私だけですが、近日中に騎士があと二名、文官が二名やって参ります。
到着次第、ご挨拶に伺うと思います」
何でも、クランハウスが出来上がる前後辺りにあわせて、残りの人達はやってくるようだ。
そして、そのクランハウスも親方達と魔法建築士の方々が頑張ってくれたおかげでもう少しで完成するところまで来ている。
今、現在も頑張って作業をしてくれている事だろう。
「わかりました!騎士団長さん、いえフランツさん!若輩者ですがどうぞ宜しくお願いします!
……ところで、フォルトゥーナ近衛騎士団って何ですか?」
そう、一体いつそんな物が出来たんですか??
お読み頂きありがとうございました。
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