第138話 フェンリルの問い
『みんな怪我とかしてない?』
カブト虫の素材とロウバスト・シールドを収納袋に入れながら念のため、確認をしてみる。
『『『わふっ!だいじょうぶだぞー』』』
『おにいさま、くぅのことをしんぱいしてくれたのですね!うれしいです!』
『はい、怪我とかは全くないです』
どうやら、みんな無傷みたいだ。良かった。
しかし、子供とはいえ神獣が4匹もいたら、フロアボスも形無しだよね。
僕が止めをさしたけど、正直僕がいなくても問題無く倒せたような気がするよ。
普通の冒険者なら、多分あの硬い外殻に苦戦したんだろうけど……。
力の迷宮でも思ったけど、もっと深い階層でも問題なく進めそうだよね。
わっふる三兄弟とクゥが追いかけっこをしているのを見ながら、迷宮攻略について考えをまとめる。
「何か、気になる事でもお考えでしたか?」
エイミさんが僕の様子を見て、声を掛けてくれる。
ああ、突然黙り込んで顰め面をしてたから、心配を掛けちゃったのかも……。
「いえ、大丈夫です!迷宮の事を考えていただけですから!」
「……そうですか?何か心配ごととかあれば、言ってくださいね!
マインさんやわっふるちゃん達には、すごく助けられましたので今度は私の番ですから!」
もの凄く、爽やかな笑顔で話しかけてくるエイミさん。
うん、大分吹っ切れたのかな?ユミル様との対面もうまくいったし、ケートス様がいるので世界樹のお世話の事も気にしなくて良くなった。
そして何より、僕の頑張り次第ではあるけど、エルフ族を助ける事が出来る可能性もある事が分かった。
今回の件で、きっとエイミさんの心にはきっと大きな希望がわいていると思う。
神獣様の協力もあるんだ。いつになるかは、わからないけれど……必ず【鑑定・全】ともう一つの組み合わせを探し出してみせる。
そして、エルフ族の悲劇をひっくり返してやるんだ!
と、まあ力を入れてみたけれど……どちらにせよ、すぐの話では無い。
今は予定通り、神霊の森に帰る事にしよう。
『ケートス様、聞こえますでしょうか』
神霊の森に帰ると言うなら、きちんとケートス様には挨拶をしてから帰らないとね。
お願いをされたとは言え、大事な娘さんを預かったんだ。
しっかりと挨拶をしなきゃダメだよね!
『ん、マインかい?どうしたんだい』
『いえ、目的の1階層のボスを倒しましたので、帰るまえにご挨拶をしたいなと思いまして!』
『フェンリルに聞いた通り、律儀な子だね……。まあ、いい事だよ。
気をつけて帰りなさい、うちの娘の事を宜しく頼むよ』
『はい!わかりました!』
ケートス様への挨拶も済んだし、神霊の森に戻ろうか。
『みんな、帰るよー!』
いまだに、元気よく走り回って、じゃれあっている神獣軍団に声を掛ける。
すると……『『『わふわふ』』』『きゅー』と一斉に僕の所に向かって走ってきた。
ああ、またコレか!!!
勢いに任せて、わっふる三兄弟に押し倒され、顔をぺろぺろと舐められ、体を擦りつけてくる。
もふもふして気持ちいいんだけど、もう帰るんだからね!
そして、今回はクゥもいる。何故かクゥは僕の頭の上で変な踊りを踊ってるだけなんだけど……。
このままでは何時になっても帰れない。
僕は寝転がったままで【固有魔法・時空】を使用する。
『はい、みんなそこまで!帰るよ!』
僕がそう言うと、わっふるが最初に黒い渦へと飛び込んでいく。
次にクゥ、めーぷる、るーぶるの順番だ。
「ふぅ、えらい目にあったよ……」
僕がそう言いながら立ち上がると、エイミさんはふふっと笑いながら、黒い渦に向かい歩いていく。
「じゃあ、先に行ってますね!」
ふう、やれやれ……。
僕も溜息を一つついて、渦へと足を向ける。
そして、渦に入る前にくるっと世界樹の迷宮を見渡して、お辞儀をする。
「……また、来ます!ありがとうございました!!」
そして、僕は神霊の森へと続く渦の中に飛び込んだのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
黒い渦を通り抜けて、真っ先に僕の目に飛びこんできた物は……。
「わふっ!」
……そう、わっふるでした。
そして、これまた何時も通りに僕の頭の上によじ登り、大きな欠伸を一つ。
めーぷるとるーぶるはフェンリル様の頭の上に乗っかって、やっぱり大きな欠伸をしてる。
すごく眠そうにしてるよね、さっきまで僕に飛びついていたとは思えない緩み方だよ。
……どうも、三匹ともはしゃぎすぎたみたいだね。
特にめーぷるとるーぶるはホームに戻ってきた訳だから、一気に気が緩んだんじゃないかな?
僕は苦笑しながら、フェンリル様に挨拶をする。
『ただいま、帰りました!』
『ああ、ご苦労だったね。子供達も満足したみたいだ、ありがとうよ』
そう言いながら、自分の頭の上でゴロゴロと寝転がっている子供達を優しく見つめるフェンリル様。
エイミさんもその様子を見て、にこやかに微笑んでいる。
『さて、マイン……どうだったかい?世界樹の迷宮は』
『あ、はい!ケートス様にお会いしました!』
僕がそう言って、クゥを見ると嬉しそうに結構高い所をふよふよと浮いていた。
『ああ、ケートスの娘だね。なんだい結局、預かる事にしたのかい?』
あれ?なんでケートス様とのやり取りをフェンリル様が知ってるんだろ?
『そんな不思議そうな顔をしなくてもいいよ、うちの子がお前の所にお邪魔してる事を話したら、自分も預けると言い出していたからね』
……ああ、フェンリル様……知ってたんですね?
知っていたなら、教えてくれればいいのに。
そんな僕の心の声をいつもの如く、読み取ったようにフェンリル様が話す。
『最初に話してたら面白くないじゃないか?どうだい、楽しかっただろう?』
いえ、全然楽しくないです……。
僕が心の中でそう呟くと、フェンリル様は「そうかい」とクククと笑っている。
目論見が上手くいったからだろう、随分と機嫌が良いようだ。
『……ところでフェンリル様が言われていた面白いスキルって……【スキルの種】の事ですか?』
『ん?ああ、そうだよ。うまく取って来れたかい?』
『はい、けど……これ何に使う物でしょう?鑑定しても訳がわからなくて……』
そう、鑑定しても風の魔力としか出ないんだよね。
これだけじゃ、さっぱりわからないよ。
『私もよくわからないんだよ、神様が例の【鑑定・全】と組み合わせる別のスキルを話した時に聞いただけなのさ』
むぅ……、フェンリル様でもわからないのか。
本当に一体、なんなんだろう。
『ただね、神様に言われた事があるのさ。マイン、お前に伝えるようにってね』
え?神様が!?一体、何を?
『その前に【カット】してきたスキルの種は誰に貼り付けたんだい?』
『えっと、僕に一つ。残りはこの小石に貼り付けました』
収納袋から小石を一つ取り出して、掌にのせてフェンリル様に差し出す。
少しの間、じっとその石をフェンリル様は見つめて、こう尋ねてきたんだ。
『その小石を鑑定してみたかい?』
え?【スキルの種】を貼り付けた小石を鑑定?どこかに貼り付ける事が無いから、まだ試していないけど……。
名前:小石
【スキル】
【風の種】×8
【水の種】×12
うん、特に何もおかしなところ無いけど……。
『別に何も無いみたいですけど……』
僕は首を傾げながら、フェンリル様にそう答えを返した。
『……本当に、何もおかしい事は無かったのかい?』
フェンリル様がここまで念を押して聞いてくるって事は、きっと何かあるんだろうね。
……何だろう、一体……。
もう一度、鑑定してみる。
名前:小石
【スキルの種】
【風の種(大)】(2)
【風の種】(3)
【水の種(大)】(2)
【水の種】(2)
う~ん、何もおかしいところは無いと思うんだけど……。
………………。
…………。
……。
…。
……!!!!
あ、もしかして……!
僕は収納袋から、もう一つの小石を取り出した。
僕の予想が正しければ……!!!!ああ、やっぱりそうだ!
フェンリル様が言ってるのはコレだったんだ!
お読み頂きありがとうございました。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
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咲夜@小説家になろう:@ID73yQraHGjolTq
基本的にリプは行わない予定で、何かしらの報告事項があった時につぶやきます。
また随時行っております、名前募集等の読者様参加イベントの告知などもつぶやく予定です。
※今まで通り活動報告にも告知は致します。
※若かりし日の国王様視点のスピンオフを投稿しました。
不定期更新となりますが、宜しければこちらもお読み下さい。
http://ncode.syosetu.com/n2978du/
【改稿】
2017/02/11
・のーぶる→るーぶるに修正。
・全般の誤字を修正。
2017/03/20
・全般の誤字を修正。