第135話 わっふるのともだち
世界樹の迷宮に足を踏み入れた僕達の目に、巨大な魚?の姿が飛び込んできた。
『『『わふ!けーとすおばちゃーん!!』』』
空中に悠然とプカプカと浮かんでいる巨大な姿を見て、僕もエイミさんも言葉が出てこない。
唯一、わっふる三兄弟だけが、はしゃいでいた。
……え?待って今なんて言った?……けーとす?神獣ケートス様なのか!?
「アァ、フェンリルン家ノ坊ヤタチカイ?……ト言ウ事ハ、コノ子ガ、マイント言ウ人間カ?」
『おー!そうだぞー!!まいんだぞー!おれのしんゆうだぞー!』
わっふるとケートス様が会話をしてるんだけど、上を見上げて話すのは端から見ていると、どうにも大変そうだ。
……尤もわっふる達はケートス様に会ったからなのか、嬉しそうに尻尾を振っているので、苦にしてはいないようだけど。
「ヘェ、オ前ガ、マイン……、ソッチガ、エルフノ娘カシラ?」
わっふるから僕の事を聞いたケートス様は僕とエイミさんに顔を向け、声を掛けてきた。
「ケートス様、はじめまして!マインです」
「は、はじめましてハイ・エルフのエイミと申します」
僕は何時も通り元気よく、エイミさんはちょっと遠慮気味に挨拶をする。
僕達の挨拶を聞き終わったケートス様の姿が薄い水色に輝き始めた。
……この感覚、多分これは加護だろう。
名前:マイン
LV:63
種族:ヒューム
性別:男
年齢:15歳
職業:狩人
【神獣の加護】
念話 ≪ケートス≫ new!
名前:エイミ
LV:11
種族:ハイ・エルフ
性別:女
年齢:121歳
職業:族長の一人娘
【神獣の加護】
念話 ≪ケートス≫ new!
うん、やっぱりそうだったね。
これで僕は神獣十柱のうち四柱から加護を貰った事になる。
今の所、加護には該当神獣様との念話しか効果は無いみたいだけど……。
加護に他の役割や何か別の意味があるのだろうか?
先程のフェンリル様の話では、十柱全員が目的完遂の為に力を貸してくれるらしい。
……今までの経緯を踏まえると加護も最終的には十柱全員から貰う事なるのかもしれないね。
本来なら神獣様の加護なんて、簡単に貰う物ではない。
そもそも、貰うどころか存在すら知らされる事はない筈だ。
そんな加護を余りにも簡単に貰いすぎている。
やはり、この加護が今後の僕に何かしら必要になる事態が起こるんじゃないかな?
それに十の加護が集まれば、フェンリル様の言う過去に戻る為の何かの手がかりが手に入るかもしれない。
何となくそんな事を考えていると、ケートス様が話しかけてきた。
『お前が噂のマインか、ふ~む、思ったよりも貧弱なんだね』
確かに僕は小さいけど……面と向かって貧弱と言われるとちょっと傷ついちゃうよね……。
僕がケートス様の言葉で、こっそりと傷つきながらも会話は進んでいく。
『さて、そこの子が呼んだから分かってはいるだろうが、きちんと名乗ろうか。
私の名前は海洋族を司るケートス、見ての通りクジラの神獣だよ』
クジラ?クジラって何?
エイミさんも、え?って顔をしてるので多分知らないのだろう。
『ああ、クジラを知らないのか。なるほど、海を見た事があるかい?
その海に棲んでいる生物で、海の王様とも呼ばれているからね!
……まあ、どうでもいいよ、そんな事はね、私みたいな姿がクジラって覚えておきなさい……』
せっかく名乗ったのに、自分の姿の説明をしなければ成らなかったせいか、ケートス様はしょんぼりとした様子を僕等に見せる。
……いや、だって、仕方ないよね!?
僕、海なんて見た事もないし、クジラなんて聞いた事無いし!?
ああ、けどケートス様……まだ、しょんぼりしてる!?
ごめんなさい、ごめんなさい。
僕とエイミさんは、必死になってケートス様に謝り続ける。
……しばらく謝り続け、何とか気持ちを立て直したケートス様が再び話し始めた。
何かすごく変わった神獣様みたいだね……。
他の神獣様同様に圧倒的な存在感を感じるのだけれど、何処となくのんびりした感じで、会話の雰囲気だけで考えると近所のおばちゃんみたいだ。
『エイミ、世界樹の事は安心なさい。私がしっかりと管理をしていたからね』
そうか……例の事件の後、エルフ族はその数を大きく減らし、生き残った者も散り散りとなってしまった。
世界樹をお世話していた種族が居なくなってしまったのに、今もこうしてしっかりと存在しているのはケートス様が居てくれたからなんだ。
きっとエイミさんはお世話を実際にしていた者として、里から出て十年の間、世界樹がどうなったか心配だったに違いない。
ケートス様はエイミさんのそんな想いを理解していたんだろうと思う。
だから、こうしてエイミさんに話しかけているんだろう。
『本当にありがとうございます、ケートス様……安心しました』
ケートス様がエイミさんと話しているのを眺めていると、僕はある事に気が付いた。
どうやらわっふる三兄弟も同じように気が付いたみたいだ。
ケートス様の背中?に小さな影が何やらごそごそと動いているようなのだ。
「わっふっ!!!」
わっふるはもの凄く嬉しそうに尻尾を激しく振りながら、ケートス様の体をよじ登っていく。
どうやら、発見したその小さな影に向かって走っているようだ。
その小さな影とは……。
「きゅーきゅー!」
「わふわふー!」
小さなピンク色の……クジラだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『まいんー、こいつおれのともだちだぞ!』
わっふるが小さなクジラをペシペシと肉球で叩きながら紹介し始める。
『きゅきゅ!はじめましてー』
うう、何て可愛いんだ……。
『はじめまして!マインって言います!』
僕達が挨拶を交わしていると、エイミさんと話していたケートス様が僕等の様子に気が付いたようだ。
『その子は私の娘だよ、どうだい私に似て美人だろう?』
……ごめんなさい、よく分からないです。
名前:ケートス(幼体)
LV:23
種族:神獣
性別:♀
【スキル】
神獣の突撃
神獣の守り
バブリブルシャワー
【アビリティ】
次元浮遊
水中牢獄
うん、何か凄そうなスキルを持ってるね。
わっふるみたいに小さくても強そうだ。
『マイン、すまないが私からお願いがあるんだけど、聞いてくれるかい?』
ケートス様が僕にお願い?一体なんだろう?
『その子も外に連れて行ってくれないか?
昔から外の世界が見たい、見たいとうるさくてね、だけど世の中物騒だろう?
だから、私が外に行くのを禁止させていたのさ』
好奇心旺盛な神獣の子……身近にいるから何となくケートス様の気持ちが分かるな。
『けど、マインが預かってくれるならば、話は別さ。
お前がその子を見ててくれるなら、あたしも安心出来るってもんさ。
フェンリルのトコの坊やとも仲がいいし、きっとお前の役に立もつだろうさ。
どうだい?連れて行ってやってくれないか?』
……う~ん、気持ちは分からないでもないけれど……。
けど、わっふると違って、外見的に色々問題が出ないかな?
わっふるはちょっと変わった狼と言う事で通す事が出来ているけど、空中に浮かぶ見た事も無い生き物をどうやってごまかせばいいのかわかんないよ。
それにクロードのような悪い奴だって外の世界にはいっぱいいるんだ。
珍しい魔物なんて言えば、そう言った輩を呼び寄せて、攫われてしまう可能性だって無い訳じゃない。
勿論、預かるとなったらそんな事が無いように全力を尽くすけれど……。
絶対にとは中々言えないよね。
だから、僕の答えは当然……。
『いやいやいや、ケートス様!?そんなの無理です!!』
ケートス様に僕の考えを話し、どうにか思いとどまって貰うように説得を開始する。
本当に、申し訳ないのだけど、こればっかりは難しいよ。
『……まいんー』
僕が改めてケートス様に断ろうとすると、わっふるが涙目で僕の名を呼んでくる。
……どうやら、わっふるは賛成のようだ。
ケートス様の娘さんもわっふるの隣で、じーっと僕を見つめてくる。
ああ、駄目だ……この二人からこんな目で見られると決心が鈍ってしまうよ。
『いや、けど……』
僕のその様子を見て、チャンスとばかりにケートス様が再び口を開く。
『マインの心配は尤もだね、だが仮にも私の子供だからね。
人間如きに遅れは取らないさ、フェンリルんとこの坊やも一緒だしね。
あと、クジラ型の魔物が確かに珍しいだろうが、居ないわけではないよ。
水の迷宮辺りに入った事がある人間なら見たこと位はあるはずさ』
そう話ながら、僕等と一緒に戦いの経験を積む事は財産となるし、何よりもわっふると一緒に居る事で神獣同士の繋がりも強化出来ると言う事でケートス様としてはどうしても受けて欲しいとの事だ。
『……わたし、おじゃまですか?』
うるうると涙を溜めたつぶらな目で子ケートスに見つめられ、邪魔かと聞かれると心が痛む。
『……分かりました、お預かりします』
こうして、我が家に新しい家族が加わる事になったのだ。
お読み頂きありがとうございました。
と言うわけで、二匹目のペットはケートス(くじら)でした。
詳細は活動報告にて!
今後ともどうぞ宜しくお願いします。