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第131話 ユミルの心情

覚悟を決めたといっても、やはりそう簡単に割り切れる物ではない。


エイミさんは【固有魔法・時空】の作りだした黒い渦を通過して、一瞬にして到着した“神霊の森”の雰囲気に、体を強張らせている。


「……此処がフェンリル様のいらっしゃる……神霊の森ですか」


エイミさんがそう呟くと、その背後からフェンリル様がヌッと姿を現した。


「ヨク来タナ、エルフノ娘ヨ」


突然、姿を現した巨大な狼の姿に彼女は思わず「ヒィっ!」と腰を抜かして、その場に座り込んでしまった。


『……フェンリル様、もう少し彼女を気遣って頂けると……』


僕が思わずそう言うと、やっと自分の出現方法がエイミさんを驚かしてしまった事に気が付いたみたいだ。

……まあ、神獣様だからね……人間族相手なんて自分より格下の存在なのだから、気を使う事なんて今まで無かっただろうから、仕方ないんだろうけど……。


「アア、驚カセテシマッタカ?ソレハ、スマナイ。

 コレデモ、大分、気ヲ遣ッタノダガナ……」


確かに、いつもフェンリル様から感じる神気というのだろうか。

神々しいオーラのような物は今日は感じる事が出来ない。


きっと、エイミさんが少しでも緊張しないで済むようにという配慮なんだろう。


前言撤回、なるほど……確かに気を遣ってもらってるのは間違いないみたいだ。

ごめんなさいフェンリル様。


フェンリル様の気持ちが通じたのか、エイミさんもすぐに立ち上がり、挨拶をする。

うん、挨拶は何よりも大事だよね!


「……し、失礼しましたっ!初めてお会い致します、ハイエルフのエイミと申します!

 私なんかの為にお気を遣って頂き、あ、ありがとうございましゅっ!」


……あ、噛んじゃった。

緊張してるもんね、仕方ないよ……うん。


「クククッ、ソウ緊張セズトモヨイ。

 自己紹介ヲ、必要カ?マァ良イ、私ガ、フェンリルダ」


そう、フェンリル様が話した瞬間、フェンリル様の体がうっすらと光り輝く。


ああ、これは……アレだ、加護だよね……きっと。



名前:エイミ

LV:11

種族:ハイ・エルフ

性別:女

年齢:121歳

職業:族長の一人娘


【スキル】

固有魔法・木

魔法・回復大

錬金術

獲得経験十倍

隠蔽


【世界樹の加護】

世界樹の祝福


【神獣の加護】

念話 ≪フェンリル≫ new!



うん、やっぱり……契約では無く、加護だったね。

ちなみに、こっそりと【獲得経験十倍】【隠蔽】を付けておいたのは内緒だ。


『私の加護を今授けたよ、これで何処に居ても私と話をする事が出来るからね。

 何かあったら、いつでも相談しな』


いきなり脳内に響いたであろうフェンリル様の声を聞き、キョロキョロ辺りを見回すエイミさん。

そりゃ、驚くよね。僕も驚いたし……。


「え、え?な、何?え?」


混乱するエイミさんに僕がフォローを入れておく。


「大丈夫ですよ、エイミさん。

 フェンリル様の加護を今、貰ったんですよ!

 頭の中に聞こえてくるのは【念話】と言う加護の能力です。

 これがあれば、どんなに離れていてもフェンリル様と話をする事が出来るんです」


僕の説明を聞き、ようやく落ち着きを取り戻した彼女はフェンリル様に頭を下げ、お礼を述べた。


「ありがとうございます、私なんかに神獣様の加護を頂けるなんて……」


『声に出さなくとも、良いのだぞ』


エイミさんとフェンリル様が話しているのを見る事に集中してて、すっかり忘れてたけど、わっふるは何処だ?


はっと気が付き、辺りを見回す……すると……。



「「「わっふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ♪」」」



あああああっ!?


わっふる三兄弟が、猛烈な勢いで僕に突っ込んできた。


「うぐっ!!」


……い、いつもの事とはいえ……もう少し穏やかに来てくれないかな……。

わっふるを含めた三匹の子フェンリルが、激しく僕にまとわりつき、顔をペロペロと舐め、抱きついてくる。


「か、可愛い……」


僕がわっふる三兄弟に押し倒されてる姿を見て、エイミさんの目がハートマークに……。

……いや、見てないで助けて下さい。


『坊や達、マインが来て嬉しいのは分かるけど、これからピクニックに行くよ。

 ほらほら、マインを離してあげなさい』


フェンリル様にそう言われ、渋々と僕から離れる子供達。


そして、わふっと一鳴きしてわっふるが僕の頭の上に、そして次男?が右肩に、最後に三男?が背中に飛びついてくる。


「むむむ、流石にちょっとバランスが……」


『ふう、仕方ないね……、マイン悪いけどそのまま坊や達を頼んだよ。

 さあ、さっさと世界樹に繋いでおくれ、ユミルのじーサマはもう居る筈だからね』


ユミル様の名前が出た瞬間、エイミさんの動きが一瞬止まった。


『わっふる、エイミさんにごー!』


僕がわっふるにそう言うと「わふっ」と僕の頭からジャンプしてエイミさんの胸へと飛び込んでいく。


「あわわっ」


飛んで来たわっふるを慌てて、よろめいているが、何とか抱きかかえる事に成功したようだ。


これで少しは気が紛れるんじゃないかな。


よし、じゃあ世界樹に行こう!



【固有魔法・時空】を使用し、いつも通りの黒い渦が目の前に現れる。


さあ、この渦を越えれば、神獣ユミル様と初対面だ!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



≪前 日≫



『……そんなに早く会わなにゃならんのか?』


『なんだい?会うって約束しただろう?ありゃ嘘かい?』


『嘘なもんか、会うさ……儂もあの時はやりすぎたと思っておるからの』


『だったら、さっさと覚悟を決めるんだね!』


儂の名はユミル、神獣ユミル。

神がこの世界に己の代行者として、遣わした十柱の中で巨人を司る一柱である。


そして、目の前でプリプリと怒っておるのは、十柱の中でもリーダー的な役割を果たしているフェンリルじゃ。


コヤツが、持つ力は月と重力なのじゃが……。

儂ら神獣から見てもやっかい極まりない力でな、コヤツが切れれば実に厄介なんじゃ。


まったくいい年して、すぐに切れよる。

もっと儂のように、心穏やかに暮らすべきじゃろうに。


『……ん?アンタ、今変な事を考えなかったかい?』


『いやいやいや、何も考えてはおらんよ、何も……』


『へえ、そうかい……てっきりあたしの悪口でも考えてたんじゃないかと思ったよ』


『違うと言っとるじゃろう!!!』


ふぅ、危ない危ない……。なんて勘が鋭いヤツなんじゃ……。


そもそも、何で儂がコヤツに虐められてるかというとじゃな。

十年ほど前に世界樹(ユグドラシル)を害しようとした愚か者が現れたからの、丁度手が空いておった儂が断罪してやったのじゃよ。


神から授かった世界樹(ユグドラシル)を害するなぞ、決して見過ごす訳にはいかんからな。


……じゃが、神獣の儂もたまにミスをする事がある!

ついつい熱が入りすぎて、愚か者達だけではなく、辺りに一緒におったエルフ族まで巻き込んでしまったんじゃ。


これが非常に不味かった。

何の罪もなかったエルフ族が滅びの一歩手前まで進んでしまったからの。


エルフ族の一部は、世界樹(ユグドラシル)を管理しておったゆえ、神からも仲間の神獣達からも総スカンじゃ。

その中でも特に怒り狂っていたのが、目の前におるフェンリルという訳じゃ。


アヤツめ、何も十柱達の前だけじゃなく、奴らの子供達が居る場所でわざわざ儂を叱りよったんじゃよ!

おかげで子供達への儂の威厳が形無しじゃわい!!


『まあ、いいさ。とにかく明日だ、明日奇跡的に生き残ったエルフ族の少女が来るからね。

 悪いと思ってるなら、しっかりと謝るんだよ』


謝る気持ちは勿論あるんじゃが、やはり神獣が人間族に頭を下げるのはのぉ。


まあ、悪いのは儂じゃからな……覚悟を決めねばならんな。



お読み頂きありがとうございました。

今後ともどうぞ宜しくお願いします。



【改稿】


2017/01/26

・全般の誤字を修正。


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