第129話 ついに到着・世界樹の元へ!
エイミさんを説得した翌日。
【固有魔法・時空】で、昨日進んだ場所、ルナワンの町へとやってきた。
出発前、ルナワンと聞いたアイシャに頼まれて、大量に集まったスライムオイルを冒険者ギルドに売りに行ったんだ。
彼女の予想では、恐らくまだオイル不足は解消していない筈なので、きっと困っているだろうとの事だった。
アイシャの予想は的中で、実際にギルドに売りに行ったところ、獣人の受付嬢さんに無茶苦茶喜ばれたんだ。
今回、持ち込んだオイルの総数は、取りあえず手持ちの1/3程の10,000個である。
受付嬢さんも、その数を見た瞬間、その動きを止めたのだが、流石はプロだった。
ぎこちなくも「こんなに沢山、とても助かります!」と笑顔で僕に言いはなったのである。
うん、ルーカスで納品したときは、この1/10程度だった。
その数ですら、アイシャが驚いていたもんね。
それを考えれば、この受付嬢さんの反応は凄い事だと思うよ。
思った以上に高値でオイルを買って貰えたので、また今度持ってきますと言うと流石に動きが止まっていたけれどね!
……ちなみに、ここでもわっふるは大人気だったのは、言うまでも無いだろう。
そんな出来事があった後、再び僕はわっふるを背に乗せて一路、世界樹の迷宮へ向かい移動を開始した。
道中、フェンリル様に、エイミさんがユミル様に会う為に、世界樹の迷宮に来る事を了承した事を連絡した。
すると、予想以上にフェンリル様は喜んだ様子を見せた。
僕は、神獣様というのは人間達の暮らしや争いごとに対して、興味が無いと思っていた。
実際に過去、僕等人間族(ヒュームやエルフ、獣人族の総称)に介入した事は殆ど記録として残っていない。
一番、大きな出来事は、記憶にも新しい事もあるのだろうが、ユミル様のウィルズ国殲滅の記録となっている。
フェンリル様にその事を尋ねてみると、僕の考えていた通り、人間族の間の起こった事など全く興味は無いとの事。
神獣様たちの関心は、神様から連絡をされた事だけだそうだ。
……ちなみに“僕”については、わっふるの命を助けた事も理由の一つではあるが、神様が神獣十柱に対して規格外の存在だと告知した事が大きな理由になっているらしい。
神様がそう言ってのける僕という存在に神獣十柱は、興味津々だったと言う事らしい。
そんな僕がわっふるを救った事で、現在の状況になったらしいんだよね。
ヨルムンガンド様が、何で好意的だったか、少し不思議ではあったんだけど、後からこの話を聞いて納得したんだ。
……うん、話が少し逸れたね。
それで、フェンリル様がエイミさんの件で何故喜んだのか、だけど……。
実は、神獣十柱の総意として、エルフ族の現状を何とか改善したいと思っているらしいんだよね。
僕が思っていた以上に、ユミル様の所行は問題視されているみたいだ。
わっふるがちらっと言っていた「叱られてた」という表現は、どうやら随分可愛い表現だったみたいだね。
『よくやってくれたね、そのエルフの娘には安心して来るようにと伝えておくれ。
ユミルが何かしたら、私が責任もって処罰するからね』
言葉の節々から、フェンリル様がユミル様に怒っているのが分かるよ。
自業自得というか、僕等人間族からすれば、巻き添えなんてふざけるな!って話なんだけど……。
なんでだろうか、ユミル様が可哀相になってきたよ。
神獣十柱の総意と言う事は、多分残りのフェンリル様以外からも相当怒られていると思う。
……ユミル様の立場からしてみても、早くエイミさんに謝罪をしたいんだろうね。
早く解決しないと、きっと立場が弱いんだろうね。
これなら、きっとエイミさんも、怖がる必要もないかもしれない。
『わふ、まいん!みえてみたぞ、あれがせかいじゅだ!』
うん?わっふるはそう言うけど、僕には見えない。
【視力強化・中】を使って辺り一面を見てみるけれど、世界樹なんで姿形も見えない。
目に映るのは、廃墟と化した町並みだけだ。
『わっふる、どこに見えるの?まったく見あたらないけど……』
僕の問いにわっふるは首を傾げて答えを返す。
『めのまえにあるぞー、まいん、めがわるくなったのか?』
……う~ん、目の前?目の前……。
『目の前には何もないよ?』
『わふ?』
こんな時はフェンリル様に聞くのが一番良さそうだね。
『フェンリル様、フェンリル様』
『ん?どうしたい?着いたのかい?』
早速、わっふるも交えて、今の状況を説明する。
『かーさん、まいん、めがわるくなったぞ!』
『いやいやいや、そんな事無いから、急に目が悪くなる事なんてないから!』
『……ああ、それは世界樹に住んでる神獣の結界だろうね。
待ってなさい、今話をつけてあげるからね』
結界!?そんなのあるのか!
流石、神獣様だね。
……けど、やっぱり、どの神獣様なのかは全く見当が付かないよ。
一体、誰なんだろうね。
足を止めて、そんな事を考えながら、目の前を見ていると不意に景色が揺らめいた。
ブンッと低い音が辺りに鳴り響き、徐々に景色が変わっていく。
一分程、経過すると目の前の景色は全く違う物へと変わっていた。
そう、わっふるが言うように、恐らく世界樹なのだろう。
巨大な……それこそ天まで届きそうな樹木が目の前に現れたのだ。
「こ、これが……世界樹」
初めてみる世界樹は僕の目から見ても、神聖な物を感じ取れる事が出来る。
……これを、どうにかしようなんて、ウィルズ王はなんて大それた事を考えたんだ……。
世界樹の姿を見て、僕は何となくユミル様の気持ちを理解した。
“怒り”きっとユミル様のその時の感情は、それだけだったに違いない。
この世界樹を人間などが蹂躙したと言うならば、そんな気持ちになるのはやむを得ないだろう。
そう、思わせる何かを間違いなく、この世界樹は持っていたんだ。
しばらく世界樹の放つ、神聖な物に呆気に取られていたが、わっふるに促されハッと我に帰る。
「ああ、こんな所でぼぉっとしている場合じゃないね。
急いで、根本まで行かなきゃね!」
気を取り直し、僕は再び走り出した。
世界樹が、余りにも巨大過ぎて、目に見えてはいても、その根本まではまだ相当距離がある。
気を抜いている場合じゃないよね。
そして、更に全力で疾走する事、実に三時間。
僕とわっふるは、ついに神木・世界樹の元に辿り着いたのだ。
お読み頂きありがとうございました。
お友達に書いて貰ったユミルのイラストを載せてみました。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/01/26
・全般の誤字を修正。