第127話 世界樹の役割
僕は今、わっふると共に全力で街道を走っている。
身体強化系のスキルを掛けれるだけ掛けて、走っているので馬車で移動するよりも、ずっと高速で移動出来ている。
……ちなみにわっふるは、僕の背中に【ペースト】で貼り付いている。
出発前……。
『おれ、まいんのせなかに、くっついていくぞー』
身体強化系スキルが、僕ほど充実していない事を理由にわっふるがそう宣言する。
『え!?どうして?わっふるも早く走れるよね?』
小さくても、わっふるは神獣だ。
スキルが無くても、僕より早く走れると思うんだけど……。
『だって、すごくとおくまでいくんだぞ、すごくつかれるぞ、おれ、まだこどもだぞ』
……結局、本人の子供だぞという主張を尊重し、希望通りに僕の背中に乗せていく事になった。
わっふるを背中に乗せて全力で走ったら、捕まりきれずに落ちそうになったのを見て【ペースト】を使用したという訳だ。
『世界樹の迷宮とは面白い場所に目を付けたね』
今、念話で話している相手はフェンリル様だ。
わっふるが今回の事を連絡をしたみたいで、フェンリル様から僕に念話が送られてきたんだ。
そして、その第一声がコレだったんだ。
面白いって……一体どう言う意味だろう?
素直に聞いてみるのが一番だね!
『面白いって何がでしょう?』
『そうだねえ……そもそも世界樹って何か知ってるかい?』
『……神様から授かった神木としか、分からないです』
そう言えば、詳しい事をエイミさんから聞かなかったな。
『神様が地上にもたらした物と言うのは分かってるんだね?
ああ、ハイエルフの娘から聞いたんだね?
……あれはね、この世界の全てに魔力を供給してるのさ』
魔力を供給……どういう事だろう?
『この世界に生きとし生ける物は、空気中に含まれている魔力を吸収して生きているんだ。
これを吸収出来なくなれば、スキルやアビリティは一切使えなくなるのさ。
普段、お前が、バカスカとスキルを使えているのは世界樹のおかげという事さ。
ついでに言うと、これがあるから魔物が存在出来るって事なんだがね』
!!!
え?それじゃ世界樹が無くなったら、スキル使えなくなっちゃうの?!
そんな事になったら、世界中の人達が困っちゃうよ。
え!?という事は何?
あのウィルズ国王が、やろうとした事って……。
『じゃ、じゃあ……エルフの国に攻め込んだという王様のせいで……大変な事になる所だった?』
『ああ、そうさ、お前の考えた通りさ。
世界樹に手を出したと言う事は、十分に私達神獣が出張る案件だったと言う事さね。
あの時、手が空いていたのはユミルだけだったからね……。
私か弟が行ければ、エルフ族はあんな目には遭わなかったんだがねえ』
……ああ、なんて事だ。
色々、繋がってきたけれど……。
エルフ族の境遇が悲しすぎるよ……。
『マイン、いいかい?世界樹だけは、必ず守らなければならない物だからね。
お前の親戚になった人間の王に良く伝えておくんだよ』
『……分かりました、この事ってみんな知ってるんですか?』
『いや、知らないだろうね。
そもそも、神獣と縁を結んだ人間はお前が初めてだからね。
こんな話をする相手は今まで無かったのさ。
エルフの娘がお前の所に来なければ、こんな話にはならなかっただろうしね』
帰ったら、国王様に話さないといけないね。
この事実を知れば、世界樹に手を出す人間は居なくなるだろう。
『一応、今は世界樹に神獣の一柱が常駐しているよ。
私のように子供と一緒にね。
お前が行くと言う事はちゃんと伝えておいたからね』
……あ、危なかったよ!
何も知らずに世界樹に近づいたら神獣様と戦う事になったかもしれなかった。
わっふるがフェンリル様に連絡してくれたのは、そう言う事だったのかな?
僕がそう思って背中のわっふるに顔を向けると「わふ?」と首を傾げながら尻尾を振っていた。
『なに、心配する事はないよ。
私達の中では一番穏やかな心の持ち主だからね、クククッ』
何なんでしょう、心配しか無いんですけど……。
一体、神獣様の誰がいるんだろうね。
穏やかというから、ヘル様では無いと思うんだけど……。
だめだ、全く想像がつかないや。
『ああ、それからマイン。
悪いが世界樹についたら、ハイエルフの娘を連れてきてくれないか。
ユミルが詫びたいと言ってるんでね』
へ?神獣様がエイミさんに直接謝りたいって……。そんな事あるの?
僕が不思議に思ったのが分かったのか、わっふるがこっそりと教えてくれる。
『……わふ、ゆみるじいちゃん、かーさんにむちゃくちゃおこられてたんだぞ』
……ああ、そう言う事なのか。
なんか、凄く大事になってきた気がするな。
エイミさん、神獣という事でわっふるにも最初恐怖感を覚えていたみたいだし……。
ユミル様に会ったら、どうなっちゃうだろう……。
想像がつかないよ……。
なんか、気が重いよね。
『エイミさん、ユミル様に恐怖を抱いているんですけど……大丈夫でしょうか』
『……まあ、それは仕方ないね。
じゃあ、一度うちに寄っておくれ、私も付いていこう』
……神獣様が二体になったら、余計に怖がるんじゃないかな?
世界樹に常駐している神獣様も合流する事になれば、計三体だ。
ちょっと、きついんじゃないかな……。
『大丈夫だ、うちの息子には大分慣れたのだろう?
それならば、私にはそれほど恐怖を感じぬだろうよ』
まあ、フェンリル様がそう言うなら……。
『わかりました、本人に話して落ち着く時間だけ、貰えますか?』
『ああ、構わないよ』
……ん?あれ?そう言えば本題が変わっていないかな?
『フェンリル様、それで世界樹の迷宮の何が“面白い”んですか?』
うん、この話をしていた筈なんだ。
なんで、あんな話になっていったんだろう。
『ああ、そうだったね、話がそれてしまってすまないね。
そんな訳で世界樹というのは、魔力の密度が凄い場所でね。
濃密な魔力を吸い、過ごしている魔物達がわんさといるのさ。
だからね、あいつらは変わったスキルを持っている。
お前には天国だろうよ』
『一体、どんなスキルなんですか?』
『気になるなら、中まで入ってみればいいじゃないか。
行ってからの楽しみという事にしておきな』
うーん、気になっちゃうよね。
フェンリル様が変わったスキルという位だ。
きっと凄いスキルなんだと思う。
住んでいるという神獣様は怖いけど……
急いでいく事にしよう!うん、楽しみだね!
お読み頂きありがとうございました。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/01/22
・全般の誤字を修正。