第126話 目指すは、知らない迷宮
『わふっ♪』
お風呂からあがり、機嫌良さげなわっふるを頭に乗せて、居間へと足を踏み入れる。
「旦那様、おかえり」
僕が戻ってきたのをシルフィが確認し、声を掛けてくれた。
「うん、ただいま!」
アイシャとエイミさんは、どうもまだご飯を作っているようだ。
「なんだか、わっふるの機嫌が妙に良いみたいだが……」
「うん、お風呂の新しい楽しみ方を思いついてね。
わっふるが考案したんだけど……かなり気持ちが良かったよ!」
「へえ、それは楽しみね!」
僕達の会話を聞いていたのだろう、出来上がったご飯を運びながら、後ろからアイシャが声を掛けてきた。
「あれ以上、気持ちよいお風呂になるんですか!?」
エイミさんも新しいお風呂の楽しみ方に興味があるようだ。
「取りあえず、お風呂の話は後の楽しみにして、ご飯を食べましょう」
アイシャのその一言で、僕とシルフィも配膳の手伝いを始める。
そして、ほどなく配膳も完了し、いつも通りの楽しい家族団らんの時間が始まるのだ。
「……ほぉ、風呂の温度を下げない工夫か、旦那様の話を聞く限り、中々良さそうだな!」
予想通り、わっふる考案のお風呂の新しい仕組みは中々好評のようだ。
まあ、うちの家族は例外なく全員がお風呂好きだからね、予想できた結果だよね。
そんなお風呂の話で一通り盛り上がった後、シルフィが僕とわっふるに向かって問いかけてきた。
「さっき風呂に入ったと言う事なら、今日の帰りは少し早かったんだな?
……何かやっかいな問題でもあったのか?」
ああ、そうだ!そう言えば二人に相談しなきゃいけなかったんだ。
お風呂の事が原因で、すっかり忘れていたよ。
危ない、危ない……。
「いや、スライムを狩るのに僕もわっふるも飽きちゃってね。
何処か違う狩り場に行ってみようか?と言う話になったんだけど……。
僕が行ける所って限られてるから、何処へいくかをみんなと相談しようと思ったんだ」
先程のスライム狩りの顛末を話していく。
「……なるほど、それなら力の迷宮を下りていくのはどうだ?
旦那様とわっふるなら、最下層でも余裕で行けるのではないか?」
そうかあ……やっぱり、力の迷宮がいいのかな?
確かに僕とわっふるが全力で戦えば、最下層にだって行けるかもしれない。
それに下層にいけば、更に有用なスキルも手に入るかもしれないしね。
うん、それじゃ力の迷宮にしようかな……。
「ちょっと待って、マイン君」
僕が力の迷宮に目的地を決め掛けたとき、アイシャからのストップが突然掛かったのだ。
一体、どうしたんだろう?アイシャにしては珍しいよね。
ひょっとして、力の迷宮に行くのは、反対なんだろうか?
「ねえ、せっかく時間があるんだから、移動出来る場所を今のうちに増やさない?
マイン君の【固有魔法・時空】は、一度行った所しか行けないのよね?
だったら、今のうちに行動できる範囲を増やしておけば、クランが本格活動をする時に楽にならないかしら?」
ああ、なるほど!確かにいい考えなのかもしれない。
色々な町や迷宮に、暇な今のうちに行っておけば、何か有った時に助かるよね。
先日のクロード事件。
ドラゴンの幼体が捕まっていた場所が、もしアドル以外の町だったら、解決出来たかどうかわからない。
僕が一度行った事があったアドルだったからこそ、事件が解決したというのは間違いない。
……長距離を一瞬で移動出来る事のメリット。
これは本当に大きな事だと思う。
ある意味、力の迷宮攻略よりも、このアイシャのアイデアは重要かもしれないね。
「……なるほど、いいかもしれないね!」
「ふむ、流石アイシャだな。確かに一理ある」
僕もシルフィもアイシャの提案に賛成をし、クランハウスが出来るまでの間の目的は“行ける場所を増やす”事に決定したのだ。
だが、単純に行ける場所を増やすと言っても、何処にいけばいいんだろう?
「……で、どこから行こうか?」
僕がそう言うとアイシャとシルフィは腕を組んで考え込む。
すると、黙って僕等の会話を聞いていたエイミさんが、突然会話に割り込んできた。
「あのー、さっきから疑問だったのですが……【固有魔法・時空】って何ですか?」
あ、そうか。
エイミさんには僕のスキルの事は話してないよね。
どうやってごまかそう。
『マイン君、姫様、私が話すので話を合わせて下さい』
アイシャが、念話で話しかけてきた。
「マイン君のスキルの事よ、一度行った場所なら何処でもいけるようになるスキルなの」
「何処でもですか!?」
ああ、そうか。
【カット&ペースト】の事は話さないで【固有魔法・時空】だけを話すのか。
これなら、確かにうまくごまかせるんじゃないかな?
流石、アイシャだよ。
「えっと……天空の迷宮と世界樹の迷宮を宜しければ、候補に入れては頂けませんでしょうか」
ん?何か聞き慣れない迷宮の名前が出てきたよ?
迷宮と言うからには、力の迷宮同様に、きっと色々なスキルやアイテムを入手出来るだろう。
行けるようにしておけば、確かに便利だろうと思う。
……だけど、僕だけじゃなくアイシャとシルフィも聞いた事がないみたいだ。
二人とも不思議な顔をしてエイミさんの方を見ている。
「すまない、エイミ。
その二つの迷宮の名前だが、私は聞いた事がない。
一体、どこにある迷宮なんだ?」
「……どちらの迷宮も旧エルフ領にあります」
なるほど、旧エルフ領。
すなわち、エイミさんの故郷になるんだね!
じゃあ、この二つの迷宮に行けるようにしておけば、必然的にエイミさんは何時でも里帰りが出来ると言う事になるのかな?
うん、それならまずこの二つの迷宮に向かってみようかな?
「世界樹の迷宮はエルフ族しか、知らない迷宮です。
神よりこの世界に与えられた世界樹、その影響を受けて生まれ出た迷宮で、他の迷宮とは成り立ち自体が違っています」
そもそも迷宮は、一定規模の空間に魔人達が巨大な魔石を設置して作り上げた場所を指す。
だけど、今エイミさんが話した世界樹の迷宮は世界樹が作り上げた迷宮だという。
神の樹とも言える世界樹の影響を受けた特殊な迷宮だけに、通常の生態系とは違う魔物が徘徊しているとの事だ。
うん、変わったスキルが手に入りそうだよね!
決めたよ!まず最初の目的地は世界樹の迷宮にしよう!
お読み頂きありがとうございました。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/01/22
・エイミに【固有魔法・時空】の存在を打ち明ける描写を追加。