第124話 エイミさんがやって来た!
今日は、エイミさんがギルドを引き払い、僕の家に一時的な引っ越しをしてくる日だ。
あのお泊まり会から、そろそろ一ヶ月が過ぎようとしている。
僕がオークの集落から彼女を助け出してから、今日までその身は冒険者ギルドで匿われていた。
元々彼女自身は、ずっとこのルーカスの町で部屋を借りて生きていたのだ。
それ故、僕はギルドが保護する必要は無い気もしてたのだけど……。
何でもエルフの存在を知ってしまった以上、放置は出来ないと言うのがギルド長の主張らしい。
エイミさん自身もばれてしまった以上はと、住んでいた部屋を解約し、ギルドの保護を受ける事にしたとの事だ。
結局の所、ギルド長の立場からもエイミさんの立場からも、やむを得ない対応だったのだろう。
国王様から彼女の身柄を僕が預かる事になった事を聞いた時、ギルド長は明らかに肩の荷が下りた様子だったので、余程神経を使っていたのだろうと思う。
そうと決まればと、そこからのギルド長の動きは速かった。
早馬を飛ばし、王都へと出向き、この後の対応についての打ち合わせをお義兄さんと何度も行ったようだ。
彼女の警護についての話し合ったりとやる事がかなり多かったらしく、なんだかんだと結局一ヶ月ほど掛かってしまったのだ。
そして、やっと今日の引っ越しを迎える事が出来たと言う訳だ。
ご苦労ギルド長、本当にお疲れ様でしたっ!
取りあえず、クランハウスが出来上がれば、そちらで暮らして貰う事になるわけだけど……。
残念な事に完成までまだ一ヶ月以上は掛かる見込みだ。
ただ、親方に聞いたら、王都から更に人員の補充があるそうなので、もう少し早く終わるかもしれないのだけどね。
まあ、どちらにせよ、それまでの間は僕達の家で暮らして貰う事になったという訳だ。
僕達の側にいれば、まず彼女に手を出す事は出来ないだろうからね。
まあ、僕達も結局の所、クランハウスが完成しない事には、動く事が出来ない。
僕等が出払ってしまえば、エイミさんは家で一人で留守番する事になってしまう。
クランハウスの完成のタイミングで、国王様からエイミさんの護衛や職員の派遣が到着する事になっているから、それまでは我慢だよね。
……やる事は一杯あるのだけれど、それまでの間は家でのんびりと過ごそうと妻達と決めたんだ。
考えてみれば、僕がスキルを授かってからずっと忙しかったのだ。
ここらでじっくりと休息を取って、家族との絆を深める為に時間を使うと言うのは結果的に良かったと思うんだよね。
「こんにちはー!」
そんな事を家族で話していると、玄関から来訪を告げる声が聞こえてきた。
うん、きっとエイミさんだよ!
噂をすれば、なんとやら……だね!
わっふるを頭の上に乗せながら、僕と妻二人は玄関まで、お客様を出迎えにいく。
「こんにちは!いらっしゃい!」
予想通り、玄関口に居たのはエイミさん……と、ギルド長だった。
どうやら、エイミさんの護衛で此処まで一緒にきたようだ。
「おう、ちょっといいか?」
ギルド長は僕の姿を見て、そう声を掛けてくる。
「はい?何でしたでしょう?」
「陛下から、ギルドへの常時依頼として、この家の周辺の警邏を賜った。
そんな訳でな、今日からウチのギルドの連中がチームを組んで見回る事になるからな。
覚えておいてくれ」
へえ、さすが国王様だね。
あれ?けどこれが国王様の言ってた護衛の人……になるのかな??
僕がそんな事を考えているうちにもギルド長はどんどん話しかけてくる。
「賊とうちの連中の見分け方だが、右腕に赤い布を巻いている。
それを巻いてないヤツは賊という訳だ」
「だが、賊がその情報を入手して赤い布を巻いてきたらどうするのだ?」
シルフィがそうギルド長に尋ねる。
「それを見分ける為に、この魔導具を五本ほど置いていきます。
うちの連中が付ける赤い布は霊骸布という特殊な布で出来ています。
この魔導具を通して見ると、赤色では無く銀色に見えるんです」
そう言いながら、眼鏡型の魔導具をまとめてシルフィにギルド長は手渡した。
……なるほど、確かに、これなら確かに判別が出来そうだよね。
それにしてもギルド長……相変わらずシルフィには弱いよね!
そして簡単な引き継ぎ事項を僕等に伝えて、ギルド長はあっさりと帰っていった。
「エイミさん、いらっしゃい。
今日から宜しくお願いしますね!」
アイシャがそう言いながら、エイミさんを家の中へ上がるように声を掛ける。
先日、泊まって行ってるのもあってか、彼女はアイシャと談笑しながら家の中に入っていった。
……うん、良い傾向だね。
しばらく一緒に暮らすんだし、遠慮とかをされても困っちゃうもんね……。
この前のお泊まり会はやって正解だったって事だよね!
「じゃあ、この部屋を使って下さい!
しっかりと掃除しましたから安心してくださいね!」
【掃除】スキルのレベルが二つも上がる程、一生懸命に掃除をしたんだ。
この家は、決して立派な造りではないからね。
年頃……エルフの彼女に向かってこの表現が正しいのか分からないけれど、家族では無い女性がしばらく泊まるんだ。
豪華な部屋じゃなくても、気持ちよく暮らして貰いたいものね!
ちなみにわっふるも器用に雑巾掛けを手伝ってくれたんだ。
尻尾を振りながら、雑巾掛けをするわっふるは相変わらずの可愛さだった!
エイミさんが持ってきた収納袋から家具をどんどん出していく。
大きな家具の配置は僕も手伝ったけど、衣類などの細かい物を整理する段になると、僕とわっふるは居間へと戻る事にする。
こればっかりは、流石に手伝えないよね。
その後、この前のお泊まり会の影響もあるだろうけど、エイミさんも僕等に慣れて来たみたいだ。
うちの妻二人と一緒に食事の準備をし始めた。
何か手伝おうか?と聞いたのだけど……。
「旦那様はどんと座って待っていてくれ!」と言われてしまい、大人しく待っている。
……けど、なんか落ち着かないんだよね。
何はともあれ、エイミさんの引っ越しはこれで一段落かな?
彼女から詳しい話は聞いていないけれど、辛い目にあったのは間違い無い筈だ。
少しでもエイミさんの心の傷が癒えるよう頑張ろう。
お読み頂きありがとうございました。
中々、話が進まなくてごめんなさいm(_ _)m
もうしばらく、日常回が続きそうです。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
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【改稿】
2017/01/21
・全般の誤字を修正。