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第123話 王都の人事

アルト視点です。

ここは、国王である父上の執務室だ。


今、父上と二人でとある人物が来るのを待っていた。


父上と軽く今後の事について打ち合わせをしながら待っていると、扉の向こうからノックの音と共に聞き慣れた声が聞こえてきた。


「失礼致します、お呼びでしたでしょうか」


「……来たか、入れ」


扉越しにノックの主に対し、そう声を掛けるとすぐに執務室の扉が開いて、呼び出した者が部屋の中へと入ってくる。


「ファーレン陛下、アルト殿下、お待たせし申し訳ありませんでした」


開口一番、頭を下げる男を見て、相変わらず堅いヤツだと苦笑してしまう。


「なに、急に呼び出したのはこちらだ。気にする事はない」


父上がそう声を掛けると、呼び出した者……そう第一騎士団長、フランツ・ワークスが顔を上げた。


普段から騎士団長はその立場上、我々王族と接する機会は多い。

特に私とは戦闘訓練で頻繁に顔合わせをしているだけに気心が知れた相手である。


「フランツよ、お前を見込んでの話がある。今から話す事は絶対に他言無用だ」


父上が顔を引き締め、そう話しかけるとフランツは緊張した面持ちで「はっ」と頭を垂れた。

実際、今から彼に話す事は、極めて秘匿事項の高い話となる。


恐らくフランツも緊張している事だろうが、私も父上も彼の事は信頼してとはいえ、やはり緊張を隠せない。


ピリピリとした雰囲気の中、父上がフランツを呼び出した理由を告げる。


「我が義理の息子となったマインが、少し前にオークの集落を殲滅した事は聞いているな?」


実はこの事も極秘事項として扱われており、公表しているのは王宮の中でも一部の人間だけである。

単独でオーク・キングを滅する事が出来る人間の存在を公表などしてしまったら、どんな面倒毎が起こるのか想像も出来ない。


それに、マインは我々王族の一員、すなわち身内となったのだ。

身内に起こると分かっている余計な厄介事を与える訳にはいかないからな。


「はっ、勿論聞いております」


「そして、マインが集落を殲滅した際に、保護した女性がいるのだがな……」


ここで父上は一端言葉を切ってフランツの様子をチラっと見る。

そんな父上の所作を見て、フランツは益々緊張感を高めていく様子が私の目には映った。


「……その女性はな……エルフ族だったのだ」


「!!!!」


普段から冷静沈着で知られるフランツだが、流石にこの事実には冷静で居られなかったようだ。

面白いように目を見開き、動きがピタっと止まってしまった。


「……エ、エルフ族の生き残りですか……そ、それは……」


……流石、フランツだ。


事の重大性を理解している。


この話は下手をすれば国家間の争いの火種となりかねない話だ。


エルフの生き残りがいると分かれば、全世界の権力者や好事家達が己の立場を忘れ、その身を奪いにくるだろう。

そう、かつてのウィルズ国王のように。


また、まともな考えの持ち主はヒューム族が起こした忌まわしい事件の罪滅ぼしの為、彼女を保護しようと動くだろう。


どちらにせよ、そんな欲望と懺悔の感情渦巻く争いにオーガスタ王国は巻き込まれる事になる。


その争いが原因で国が衰退、場合によってはウィルズのように神獣の裁きを受ける事になるやもしれない。

決して、そのような事にしてしまってはならないのだ。


「そのエルフの女性だがな、今はルーカスの冒険者ギルドで保護している。

 ……しかし、事が事だけにな……。ギルド長が私に保護を求めてきたのだよ」


「確かにそうなるでしょう。

 流石のエルフの保護ともなれば、一介のギルド長の手に余ります。

 ……私が同じ立場だったとしても、陛下に助力を求める事と思います」


「まあ、確かにお前の言う通り、これは私が預かる話だろう。

 だが、単純に王宮で保護するのも色々と問題があるのは事実だ」


父上の言葉を聞いて、フランツは少し考え、確かにと納得する。


「……では、どうされるのですか?」


「マインに預ける事にした」


「マイン殿にですか!?……いや、確かに……一番安全な場所とも言えますか……。

 戦闘力も勿論ですが、対外的な立場的にも無難と言えるのでしょうね」


父上はフランツの様子を観察しつつ、彼からこの話が漏れる事は無いと確信したのだろう。

エルフの身柄をどうするかという一番重要な秘密も彼に隠す事なく告げたのだ。


「そこで、お前を呼んだわけなのだがな。

 マインのクランでエルフの女性を預かる事になるので、その護衛任務をお前に頼みたいのだ」


腕が立ち、信頼できる人物。

私と父上には彼以外の名前は思いつかなかった。


……彼に断られると、正直後がない。


どのような決断をするのか、父上が緊張の面持ちでフランツの返事を待っているのが分かる。


「……そのような大役を私のような者が受け、そのご期待にお応え出来るのでしょうか。

 そう、腕が立つといえば例えば第二騎士団長のセシルなどもおりますが……」


第二騎士団長セシル、確かに彼も腕は立つ。

しかし、人間として尊敬出来る人物であるかと言われれば疑問に思わざるを得ない。


そんな人物に、このような秘密事項を話せる訳がないだろう。


そして、何より問題なのは、彼は無類の女好きである。

今回の件を任せた場合、逆に護衛対象である筈の少女を襲いかねない。


いくらセシルが立場のある人物でも、エルフの美貌に女好きな性根を持った人間が我慢出来ると思えない。


「フランツ、お前……自分でも無理があるとおもわないのか?」


私が思わず、そう言うとフランツは苦笑を返した。


「……分かりました、どちらにせよ尊敬しております陛下と殿下から直々のお話です。

 謹んでお受けさせて頂きます。

 騎士団は除隊となりますでしょうか?また家族についてはどうなりますか」


受けてくれるか!……ありがたい。

父上も安堵しているのがよく分かる。


「ここからは実務的な話だ、私の方から説明していこう。

 まず、立場だが第一騎士団から、私の近衛騎士として異動の扱いとなる。

 直属の部下という位置づけだな。

 勤務はルーカスに出来る予定のマインのクランハウスだ。

 住居をこちらで用意するので、家族で移住をしてもらう形になる」


給与や待遇、その他をきちんと説明し、決して左遷では無い事を改めて理解してもらう。


「……と、こんな感じだが何か質問はあるか?」


「そうですね、具体的な異動については、まだ先のようですが……。

 私だけですか、今回の件で異動となる者は?」


「いや、クランの事務や受付の人材はどちらにせよ、必要になるからな。

 文官から信用出来る者を二名ほど行かせるつもりだ。

 それから護衛任務についても、お前一人では回るまい?

 お前が信用出来る人間を二名、選出して連れてきてくれ。

 私が面談をし、問題が無いようならその者も登用しよう」


さて、これで賽は投げられたという訳だ。


早く人材を決めて、義弟(マイン)に引き合わせねばな。


お読み頂きありがとうございました。

今後ともどうぞ宜しくお願いします。

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