第121話 CASE:エイミ(2)
お読み頂きありがとうございました。
次回でCASE:エイミは終わる予定です。
宜しくお願いします。
エルフの里は予想通り……文字通り消えて無くなっていました。
残っていたのは廃墟となった町並み、家屋の残骸。
無数のヒューム達と仲間達の亡骸。
……ただ、それだけでした。
恐らく運良く逃げ延びる事が出来た同胞達もいるだろうとは思いますが……。
だけど、それほど多くは無いだろうとも思います。
元々、出生率が低いエルフ族です。
こんな状況下では、新たな命を育み、育てる事は出来ないでしょう。
仮にその余裕があったとして、散り散りとなってしまったエルフの男女が再び出会い、子を成す可能性は殆ど無いでしょう。
きっと、新たな子が生まれてくるなら、それは他種族との混血児となるはずです。
つまり、それほど遠くない未来に純粋なエルフ種は滅びる事になるのでは無いでしょうか。
だから、私は世界樹に誓います。
少しでも長く生き、エルフという種族がこの世に居た証明をしよう、と。
そして、私が子供を成せば、少なくとも未来は繋がる。
純血のエルフ族として、繋がる可能性は低いのかも知れないけれど……。
その為に私はここを離れ、ヒューム族が住む町で、信頼出来る人を探さなければならない。
……こんな惨劇を作り上げたヒューム族に信頼出来る人物など居ないとは思う。
そして、私は心の奥底で彼らを恨んでいる。
だけど、それでも私は探さなければならないのです。
エルフ族が交配をして種を残す事が出来るのは、ヒューム族か魔人、魔族だけなのだから。
かつて獣人族と交わった者がいたが、子を成す事は出来なかった事実がある。
魔人や魔族と交わる事だけはエルフ族の誇りに掛けて認める事は出来ない。
そうなれば、選択肢はヒューム族しか残らない。
エルフという種を滅ぼす切っ掛けを作ったヒューム族。
そのヒューム族を頼らなければ種を繋げていく事が出来ないなんて、なんて皮肉な事なんだろう……。
そんな事を考え、感傷に浸りつつも、私は旅に出る為の準備に取り掛かる事にした。
……不幸中の幸いか、風上に位置していた私達の里は火災にだけは巻き込まれていなかったのです。
これからの旅に必要な物を崩れた廃墟から探す事は何とか出来そうだった。
まず、最初に自宅があった場所で、これからの生活に絶対必要となる魔導具を探す事にした。
この魔導具さえ見つける事が出来れば、姿を偽りエルフである事を隠す事が可能になるからだ。
そして、一時間程掛けて、なんとか目的の腕輪型の魔導具と魔力充填具を発見する事が出来た。
これで、取りあえず旅に出る事が出来るようになった。
私の口から、知らず知らずのうちに安堵の声が漏れた。
……だが、完全に安心をする事は出来ない。
確かにこの魔導具があれば、姿を偽る事が可能だ。
しかし、蓄えられた魔力が無くなれば、その効果が無くなり元の姿に戻ってしまう。
だから定期的に魔力を補充してやる必要があるのだ。
補充するタイミングを見誤れば、待っているのは恐らく不幸な未来だけだろう。
ともあれ、この魔導具さえ持っていれば、他種族の里で生活する事は可能だろう。
その後、自宅やご近所さんの家から収納袋と衣服、弓や短剣などの武器を発見する事が出来た。
こうして旅立ちの準備は着々と進み、遂に全ての準備が整った。
時間的に既に夕刻になっていた事もあり、明日の日の出と共に出発する事に決める。
……今夜は崩れ落ち原型を留めていない自宅で眠る事に決めた。
例え崩れ落ち、見る影が無くなっていたとしても、私にとっては大事な思い出がいっぱい詰まった場所なのだから。
しっかりと目に焼き付けておこう。
そして、覚えておくのだ。
楽しかった思い出と共に、この心の奥底から沸き上がってくる怒りの感情を。
勝手に出てくる涙を何度も何度も拭い、私は故郷で最後の夜を過ごすのだった。
「……また、必ず戻ってきます」
再び決意の言葉を残し、私は故郷を後にしたのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
私はなるべく遠くの町を目指す事にした。
遠くへいけば行くほど、エルフの里で起こった惨劇を知らない者が増えていくだろう。
そして、エルフと出会った事が無い者も当然増えていくと思ったからだ。
……きっと私がエルフだと考える者がいなくなる筈だ。
魔導具があるから、勿論分かる筈が無いのだけど、そういった下地があれば安全度は上がると思う。
念には念を入れるべきだと考えたのだ。
町へと向かう道中、私は【固有魔法・木】と【錬金術】を使い、高品質なポーションを大量に作成した。
これを道中で売り歩き、路銀を稼ぐつもりだ。
また、一定時間姿を透明にする事が出来る薬と使用すると強烈な光を放つ薬も併せて、作っておいた。
何しろ、女一人旅である。
エルフと分からなくても、絡んでくる不届き者はいるに違いない。
細心の注意を払って移動をするべきだろう。
「ほぉ、姉ちゃん。中々品質の良いハイ・ポーションだね。
いいよ、一つ銀貨20枚で買わせて貰うよ」
立ち寄った町で、偶然知り合った行商のおじさんに私が作ったポーションを買い取って貰えた。
丁度良い機会だと考え、色々聞いて情報を集めてみる事にしました。
「……ありがとうございます。
おじさんは色々な町を行商で渡り歩いていらっしゃるんですよね?
治安が良くて、過ごしやすい町ってご存じないですか?」
「なんだ、姉ちゃん。移住を考えているのか?」
「ええ、見ての通り女の一人身ですからね。
安心して暮らす事が出来る町があるのなら、是非そこに行きたいのです」
おじさんは少し考えて、二つの候補を教えてくれた。
「そうだな、少し遠いがやはり王都だろうな。
王が住んでいる町だけあって、にぎやかだし治安もいい。
それから、ルーカスの町もいいじゃないか?
王都ほど賑わってはいないが、のんびりした町で治安も悪くはない。
お奨めはこの二つだろうな」
なるほど、王都なら確かに治安も良さそうですね。
後は、ルーカスの町……ですか。
この二つなら、王都の方でしょうか。
「ありがとうございます!それでは王都に行こうと思います」
おじさんにお礼を言ってお辞儀をして、私はおじさんと別れた。
……けど、何だろう?おじさんの様子に何か違和感を感じます。
嫌な予感に後ろを振り返り、もう一度おじさんの姿を確認する……。
しかし、おじさんの姿は既に全く見あたらない。
え?どういう事なの?
ここは見晴らしが良い一本道だ。
私がほんの数メートル歩いただけで、見失うとは思えない。
……先程、感じた違和感が更に大きくなっていく。
あのおじさん、ひょっとしたら悪い人なのかもしれない。
余り疑うのもいけないけれど、相手はあのヒューム族だ。
注意するに越した事はない。
王都に行くと話をしたので、ひょっとすると道中で何かを仕掛けてくるかもしれない。
いや、この時間なら普通は宿に泊まるだろうと考えるかな?
どちらにせよ、今も私の様子を何処かで見ている可能性が高いと思う。
うん、目的地をもう一つのルーカスに変更しましょう。
そして、お金は少し無駄になっちゃうけど、宿に泊まって部屋に入ったら透明薬を飲んで、すぐにこの町を発とう。
これで多分、見つかる事は無いと思う。
よし、そうと決まれば、早速行動開始だ。
宿屋を抜け出して私は今、日が暮れ始めた街道を歩いている。
勿論、透明薬を継続して使っている。
宿屋の受付で王都とルーカスへの道を確認し、王都に行くと告げておいた。
王都に興味を持っているように見せかけておいたので、仮にさっきのおじさんが宿屋に聞いてもルーカスに向かうとは思わないだろう。
恐らくこれで憂い無く、移動する事が出来る筈だ。
目指すはルーカスの町。
一体、どんな町なんだろうか。
【改稿】
2017/01/21
・全般の誤字を修正。
・多産種族→出生率が低いという表現に変更。