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第116話 閑話・わっふるの夢

「かーさん、いつかえってくるの?」


「そうだね、二~三日で帰ってくるからね。

 いつものようにちゃんと住処から出ないで留守番してるんだよ。

 いい子でいたら、美味しい蜂蜜をいっぱい食べさせてあげるからね」


かーさんは神様から命を与えられた神獣フェンリル。

そして俺はかーさんの子供で三兄弟の一番上の息子なんだ。


神獣ってのは、凄く偉くて強いんだぞ!

この世界に十種しか、存在しないんだぞ!


かーさんとヨルムンガンドおじさん、ヘルおばさんは兄弟で、かーさんが一番強いんだ。


あと、ユミルじーちゃんなんかは、人間の国を一瞬でやっつけたって自慢してた。

なんか勢い余って、他の種族までやっつけたって言ってたのを、かーさんが聞いてすっごく怒ってたよ。


「全く、アンタは加減てものを知らないね!」


ユミルじーちゃんもかーさんには、頭が上がらないみたいで必死に「いや、それは……」とか言い訳してた。


ちなみにかーさんは獣族の一番偉い。

ヨルムンガンドおじさんは龍族の一番偉い。

ヘルおばさんは魔族の一番偉い。

ユミルじーちゃんは巨人族の一番偉い。


どうだ!みんな一番偉い人なんだぞ!すごいだろ!


……けど、俺……ヘルおばさんだけはちょっと苦手。

ヘルおばさんは怒るとしつこいんだ。


この前、神様から貰った食事をヨルムンガンドおじさんが全部一人で食べちゃったんだ。

かーさんとヘルおばさんがそれですっごく怒ったんだよね。


……内緒だけど余りにも怖かったから、俺ちびちゃったよ……。


それで、かーさんはその時だけ怒って終わりだったけど、ヘルおばさんはヨルムンガンドおじさんの顔を見る度に怒ってるんだよ。

おじさんが可哀相なんだ。


俺がかーさんにその事を言ったら「ヨルが悪い」とあっさりヘルおばさんの味方になっちゃったんだ。


ヨルムンガンドおじさんも反省してるんだから、許してあげればいいのにな!


そんなわけで俺はヘルおばさんが苦手なんだ。

……あ、これ内緒だからな?ばれたら怒られる。




かーさんが急に神様に呼ばれて、二~三日住処を開ける事になった。

いい子でお留守番をしていたら、ロイヤル・ハニーって言う美味しい蜂蜜を食べさせてくれる約束だ。


このロイヤル・ハニーはロイヤル・ビーって言う希少種の蜂からしか取れないすごい美味い蜂蜜なんだ。


滅多に食べれないごちそうだからな、俺いい子で留守番してるぞ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



かーさんが神様の所に行って、三日目。

今日帰ってくる筈だ!ロイヤル・ハニーがもうすぐ食べれるぞ!


弟達も楽しみにしてるからな……って、あれ?弟達がいないぞ?


何処に行ったんだ?いい子にしてないとロイヤル・ハニー貰えないぞ!


あいつら、ひょっとして外に遊びに行ったのか?

かーさんと約束したのに、ダメじゃないか!


「わふぅーーーーーーー」


ん?弟の声だ、なんか泣いてるぞ!何かあったのか!?

急いで声のした入り口の方へ走っていく。


「まってろ!お兄ちゃんが今行くからな!」


そして、入り口で俺が見た物は……。

……人間に捕まった二人の弟達だった。


何で、こんな所に人間がいるんだ!?

しかもこんなに沢山の人間見たことないぞ!


弟達は首に黒いのを付けられているみたいだ。

あれのせいで、戦えないのか?


「お、まだいたぜ!珍しい狼だからな、高く売れるからな!!」


何か人間が言ってるぞ。

俺も捕まえるつもりだな!そんな事させないぞ!



「がうっ!」



人間に向かってスキル【大咆哮≪ウォーセカムイ≫】を使う。

これは、相手とのレベル差に関係無く、動きを止めるスキルだ。


「「「な、なんだ!?」」」


人間達が、身動きが取れなくなった隙に今度は【健脚】で一気に近づいて【神獣の双撃】で攻撃していく。

今の攻撃で、その場に居た人間の半分を殺す事が出来た。


残り半分だ、待ってろ!お兄ちゃんがすぐ助けるからな!


「おい、ちび共!アイツを捕まえろ!!!」


ん?人間が弟達に何か命令してるぞ?

馬鹿だな、弟達がそんな命令を聞く訳ないだろう!


……だが、俺の予想とは裏腹に、弟達は泣きながら俺に向かって攻撃してきたんだ。


『にーちゃんごめん、ごめんよー』

『大にーちゃん、にげてーにげてよー』


わふ!弟達に来られたら、俺は何にも出来ないぞ……。


俺はあっという間に弟たちに抑え付けられてしまった。

そして人間達は俺に素早く近づいてきて、弟達と同じ黒いのを首に付けられてしまったんだ。


うん?あれ……おかしいぞ、体が言う事をきかないぞ。

この黒い奴のせいか!?


人間は俺が動けなくなったのを見て、思いきり蹴り付けてきた。


「ぎゃん!」


『『にーちゃん、にーちゃん』』


抵抗出来ずに俺はそのまま地面に何度も叩きつけられる。

くそーこんな奴らに俺が負けるわけ無いのに……!!


「ち、手間取らせやがって……何人殺された?」


……俺を踏みつけながら、人間の仲間に何か話している。


「七人です」


「この洞窟の奥にもう隠れてないか、見てこい。

 念のため、その二匹を連れて行って構わん」


人間が弟達を連れて、俺達の住処にズカズカと入っていく。


畜生、畜生、畜生、かーさんと約束したのに……。

俺、悔しいよ……。


……思わず目から涙が出てくる。


しばらくすると、住処から人間達が出てきて俺を踏みつけている人間に話しかけた。


「もう、何も居ないみたいですぜ。

 こんな珍しい狼を三匹も捕まえたんだ、クロード様も喜ぶでしょうよ。

 さっさと帰りましょうぜ」


人間達は俺達兄弟を一緒にせずに、それぞれ違う籠に入れて持ち上げる。

畜生、俺達をこのまま何処かに連れて行く気なんだ。


抵抗をしようとしても、体が言う事をきかないし、命令されたら勝手に体が言う事を聞いちゃうんだ。


かーさん、怖いよ、助けてよ……。

俺、もうかーさんに会えないのかな。


……そう諦めた時だった。



「ワオォォォォォォォォォンッ!!!!!」



!!!!


かーさんだ!かーさんが来てくれた!!


「な、なんだ、この遠吠えは!?」


人間達が驚いて、足が止まった瞬間……後ろに固まっていた数人の人間の体が真っ二つに切り裂かれて、その場に倒れた。


「な、何が起こったんだ!」


浮き足立ってる人間が更に二人、同様に切り裂かれて崩れ落ちる。


わふっ!流石かーさんの【神獣の双撃】は俺とは全然違う!


「人間ドモ、我ガ子ヲ、連レテ何処ヘ行ク?」


そして、遂にかーさんがその姿を人間達の前に現した。


「くっ!?こいつらの親か!!」


何か叫びながら、人間の一人がかーさんに向かって投げつけているのが見えた。


だけど、そんな攻撃はかーさんには通じるもんか!


【重力の魔眼】で予想通り、人間が投げた物は呆気なく打ち落とされていた。


かーさんが来たら、もうお前達に勝ち目なんか無いぞ!


「ち、化け物め!全員、逃げろ!」


人間達が一斉にかーさんに背を向けて、逃げ出した。


……馬鹿な人間だ、かーさんから逃げれる訳がないぞ!


かーさんは逃げる人間の背中から【神獣の双撃】を使って次々に殺していく。

返り血をいっぱい浴びているけど、容赦なくかーさんは全く動じてない。


よし、人間は残り三人だ!


弟たちもかーさんの姿を見て安心しているのが見えた。

もうすぐだ!もうすぐかーさんの所に帰れるぞ!


「貴様ラッ!子供達ヲ、返セッ!!!!!」


「う、動くんじゃねえぞ、畜生の分際で、お、俺らに逆らおうなんてするんじゃねーぞ。

 ちょっとでも動いてみな、き、貴様の子供の命が無くなるぜ!!!」


「フザケルナァァァァァァ!!!」


人間がかーさんの咆哮を聞き、びっくりしたのか震える手で俺に向かって武器を突き刺してきた。


!!!


「きゃうううう……ん」


あ、俺死ぬのかな……。

かーさんごめんなさい、約束を守れなかった。


よい子で留守番出来なくてごめんなさい。

……ああ、どんどん意識が無くなっていくよ。


……からだがう……ごかな……く……。

さ……よな……ら。



「わ、わかったかっ!?俺達に逆らえば残りの子供達もこうなるぜ。

 そこで、お、俺達が出ていくのを大人しく待ってるんだな!!!

 いいか、子供が可愛ければ言う事を聞けっ!」




……あれ、俺死んでない……死ぬどころか痛いのが無くなっていくぞ?

なんだろう、体から白い煙が出ながら、傷が無くなっていく?


一体、何がおこったんだ?


自分の身に何が起こったか分からず、俺がきょとんとしていると茂みから人間が飛び出してきたんだ。


また、悪い人間が来た!と思ったけど、そいつは悪い人間じゃなかった。


俺達を捕まえた悪い人間に何かスキルを使って俺達兄弟を助け出してくれた!

そして、優しくおかーさんの所に連れて行ってくれた。


この人間は、俺達を助けてくれたんだ!?


「……フム、オ前ハ ヤツラトハ 違ウヨウダナ。

 マズハ 礼ヲ 言ワセテ貰オウ。子供達ヲ助ケテクレタ事、心カラ感謝スル。

 刺サレタ子ガ、助カッタノモ、オ前ノ オカゲナノダロウ?」


そうか!さっきの怪我もこいつが治してくれたんだ!

こいつはいい奴だな!!!人間の嫌なニオイも全然しないぞ!!


そうだ!助けてくれた人間にお礼をしないと行けないぞ。


おかーさんが言ってた。

助けて貰ったら、ちゃんとお礼をする子になれって……!


俺は助けてくれた人間の足下に顔を擦りつけてお礼をする。


「ソノ子達モ、オ前ニ感謝シテイルヨウダ」


おう!かーさんの言う通り、すごく感謝してるぞ!


俺がそいつの顔をじっと見ていると、そっと抱き上げてくれた。


「……痛かったよね、ごめんね」


何を言ってるのか分からないけど、多分謝ってるんだと思う。

お前が謝る事じゃない!顔をペロペロしてやるから、お前もそんな顔すんな!




……これが俺とまいんとの出会いだったんだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



いよいよ、まいんとの別れの時間がやってきた。

また、遊びにきてくれると言っていたけど、俺はすごく寂しい。


まいんは俺の命の恩人だし、かーさんの友達だ。

俺にやさしくしてくれるし、大好きだ。


『我が友、マインよ。我ら家族はお前をいつでも歓迎するぞ』


『はい、ありがとうございます!【固有魔法・時空】でここにすぐ来れますから必ずまた来ますね!』


わふぅ~、まいんが行っちゃう。


まいんが黒い穴に入って、この場から消えてしまった。

それを見て、思わず体が勝手に動いたんだ。


「わふっ!」


気が付いたら俺はまいんを追いかけて、黒い穴に飛び込んでいた。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「わっふる、わっふるってば!」


誰かが体を揺すってるぞ……。

俺は、まだ眠いんだー。


「わっふる、お風呂いくけど、行かなくてもいいんだね?」


……お風呂!?

起きる、起きるぞ!俺、お風呂大好きなんだ!


慌てて飛び起きると、そこには俺が大好きなまいんの顔があった。

思わず、嬉しくてペロペロとマインのほっぺたを舐めてしまう。


……ああ、なんだ今のは夢だったのか。

まいんにはじめて会ったときの事を夢見たんだな。




『わふ!まいん!おふろ!おふろにいくぞー!』


俺はすごく幸せ者だ。


だって、こうして大好きなまいんと一緒なんだからな!



お読み頂きありがとうございました。


人気投票第一位のわっふるの閑話です。

明日は、再び本編です。


今後ともどうぞ宜しくお願いします。


【改稿】


2017/01/14

・全般の誤字を修正。

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