第115話 お泊まり会 男女比1:4(4)
「おはようございます!」
僕がいつも通りにわっふるを頭の上に乗せて、居間へとやってくると既にエイミさんとアイシャが食事の準備を行っていた。
あれ、いつも僕の方が起きるの早いのにな……?
奥さん二人よりも早く起きてお風呂に入るのが生活のパターンだったのだけど今朝は少し違うようだ。
ちなみに昨晩はシルフィとエアリー、アイシャとエイミさんの組み合わせでそれぞれの奥さんの部屋に泊まって貰った。
アイシャは多分、エイミさんの影響でいつもよりも早起きになったのかもしれないね。
あ、一応奥さんの名誉の為に言っておくけど、僕が起きる時間が早すぎるだけで決してお寝坊さんという訳ではないんだよ。
僕は狩人をしてたから、まだ日が昇る前に森行ったりする事が多かったからね。
この時間になると勝手に目が覚めちゃうんだ。
「マイン君、おはよう!」
「……おはようございます」
僕とわっふるの姿を見つけた二人が揃って声を掛けてきた。
アイシャは勿論だけど、エイミさんの手際も凄くいいな。
料理スキルは無かった筈だけど……。
「エイミさん、すごく手際がいいですね!料理は得意なんですか?」
僕がそう尋ねると、はにかみながら「ええ、100年位料理をしてますから」とさらっと言われた。
……そうか、エルフだもんね。
121歳だもんね。
それだけ長い間料理をしてれば、スキルなんか無くても手際は良くなるよね。
100という僕等の常識から離れた数字を聞いて、僕もアイシャも苦笑する。
「昨晩のお返しでは無いのですが、今度は私が腕を振るおうかと思いまして……。
種族が違いますので、口にあえば良いのですが……」
エイミさんがそう自信なさげに口にすると、アイシャが首をぶんぶんと振り、エイミさんの言葉を否定する。
「そんな事ないわよ!マイン君、エイミさんの料理すっごく美味しいからね!
期待していいと思うわよ!」
アイシャがそう言うのなら、相当期待出来るだろう。
……さて、どうするかな。
いつもならば、お風呂に行くところなんだけど……。
そう思いながら、目線をわっふるに向けると、すごくお風呂にいきたそうに尻尾を振っていた。
「わふぅ~」
まるで、分かってるよね?と言わんばかりのわっふるの様子に溜息をついて、アイシャに声を掛ける。
「……アイシャ、ちょっとお風呂に行ってくるね」
「うふふ、わっふるが待ちくたびれてるみたいだもんね、行ってらっしゃい」
やっぱり、アイシャも分かってるんだね。
軽く手を振って送り出してくれた。
「よし、わっふる。お風呂行こうか」
「わふっ!」
こうして、僕とわっふるは何時も通り、朝の日課であるお風呂に向かうのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「気持ちよかったね、わっふる!」
「わふっ♪」
僕とわっふるが上機嫌でお風呂から戻ってくると、居間にはシルフィとエアリーの姿もあった。
あれ?けど、なんか二人とも妙に元気がないな?
……まだ、眠たいのかな?
「おはよう、シルフィ、エアリー」
「……ああ、おはよう旦那様」
「……おはようですの……お義兄様」
ん?本格的に元気が無いよね。
これはただ事じゃないのかも?聞いてみよう。
「どうしたの?二人とも随分元気が無いけれど……」
僕がそう言うと、エアリーの目に涙が溢れてくる。
え?ええ??僕何か不味い事を言ったの?
僕が突然のエアリーの涙にあたふたしてると、シルフィが声を掛けてきた。
「実は、エアリーの体調が……朝起きたらまた戻ってたんだ」
え?昨日、確かに魔力水で治ったよね?
『わっふる、どういう事?』
僕に言われてわっふるがエアリーをじっと観察する。
『えありーのまりょく、なくなってるー。
いつもとおなじくらいになってるぞー』
あれ?“いつもと同じ”と言う事は夜の間にお風呂で補給した魔力が抜けていったって事かな?
……ん?けど“いつもと同じ”までしか減ってないと言う事は悪化した訳ではないって事だよね?
ん、ん、ん……?
そうすると、イメージ的にはこうじゃないかな?
コップの上の方に小さな穴が空いてて、水を目一杯入れてもそこから水は抜けていっちゃう。
水は穴の所まで抜けちゃえば、それから後は抜けていかないから、そこまでは残ってる……。
これをエアリーに当てはめると、体の何処かに悪い所があって、そこから魔力が抜けていってる。
けど、何か理由があって、一定以上の魔力は絶対に抜けていかない。
こんな感じなのかな?
想像の話だけど多分、大きく違っていないんじゃないだろうか。
僕は今の推測をみんなに話していく。
「……なるほど、確かにそう考えれば辻褄はあうな」
「今、お風呂沸いてるからエアリー、入ってきたらどうかな?」
僕がそう言うと、エアリーは少しだけ、元気を取り戻し「はいですわ」とお風呂に向かっていく。
「旦那様、私もエアリーに付いていこう。
大丈夫だとは思うが、心配だからな」
そう言って、シルフィも慌ててエアリーの後を追って、お風呂へと走っていった。
大事な妹だもんね、気持ちはよく分かるよ。
昨日、エアリーの調子が良くなったのを、一番喜んでいたのは多分、シルフィだしね。
「アイシャ、エイミさん……食事少し待って貰えるかな?」
せっかく朝ご飯を用意してくれた二人に頭を下げると……
「全然、問題ないです!こちらこそすみません!」と何故かエイミさんに逆に頭を下げられてしまった。
エアリーとシルフィを待つこと、約十分。
二人がお風呂から、僕等の待つ居間へと戻ってきた。
心なし、その足取りは軽く感じられる。
「……どうだった?」
そう僕が二人に尋ねると……。
「お義兄様の推測通りかもしれませんわ!
お風呂に入っているうちに徐々に体調不良が無くなってきましたの!」
エアリーが顔を赤くしながら、元気よく答える。
「昨日より、短目の時間で出てきた。
旦那様の推測が正しければ、より早く魔力が抜ける筈だ」
うん、確かにそうだね。
魔力を補充する時間が短くなれば、当然無くなる速度も速くなる。
これで、しばらく様子を見て、また体調が悪くなったとすれば……原因に対しての予想は当たってる事になる。
そして、体調が悪くなるまでの時間が短ければ、推測の全てが正しかった事がハッキリするわけだ。
「じゃあ、取りあえず食事を済ませてしまいましょう!」
明るくアイシャがそう宣言する。
「はいですの!!」
体調が再び良くなった事で機嫌がいいのだろう。
エアリーが両手を上げて、アイシャの言葉に応える。
「うん、じゃあ神様にお祈りをしようか」
こうして、再びみんな揃っての朝ご飯が始まった。
「お義兄様、お義兄様!」
ご飯を食べはじめてしばらくすると、エアリーが僕に話しかけてきた。
「ん?どうしたの?」
「さっき、お風呂でお姉様と話しましたの!」
シルフィと?何を話したのだろう。
「もしも、さっきのお義兄様の予想が当たったらなんですけど……!」
「うん」
「私もお義兄様のクランに入れて欲しいのですわ!」
……え?
「そこからは私が話そう。
エアリーの体調が回復するには定期的にうちの風呂に入らなければならない。
そうなると、王宮とこの家までの距離が問題になる。
毎日、旦那様が呼びに行くのも大変だし……。
いっそエアリーをこちらに住ませたらいいんじゃないかと思ってな」
「いやいやいや、だってエアリーを戦わせる訳にはいかないでしょ!?」
「何も戦わせる必要など無いだろう。
エアリーは【錬成】と【記憶】を持ってるからな。
クランの内部の事をやってもらうには、良いんじゃないかと思うが」
……ううん、どうしたものか。
エイミさんの身を守らなければいけないし、エアリーの身の安全まで考えると……。
あ、待てよ!
「そうだよ!何もうちに来なくても、魔力水を王宮に僕が持って……」
僕が全部言い終わる前に、エアリーが目に涙を浮かべて僕の手を取った。
……あ、この流れ……覚えがあるぞ……。
「……お義兄様は、私が嫌いなんですの?」
……やっぱりこうきたか!
だめだ、涙を浮かべたエアリーに僕は勝てないよ……。
「分かったよ……けど、ちゃんと国王様と王妃様の許可は取るんだよ……」
「ありがとうですわ!お義兄様っ!!」
再び、わっふるに背中をぽんぽんと叩かれ、慰められる僕。
結局、しばらくしてエアリーの体調は元通りの状態になった事で、僕の予想は当たった事が分かった。
体調が良くないのにも関わらず、エアリーは満面の笑顔を浮かべていたんだ。
……いいのかな?これで……。
お読み頂きありがとうございました。
本来はUPする予定の話を明日にして、明日予定だった話を
今日UPしました。
ちなみに、明日はわっふるの閑話です。
人気投票一位記念閑話ですが、三連休のうちに書こうと
思って書いたため、割り込んで予約投稿してたのですが
考えてみたら、別にお泊まり会が終わってからでいいじゃんと
気が付きまして、急遽入れ替えた次第です。
活動報告で、シャオさんに11日をお待ち下さいと書きましたが
11日を待たずして10日に上げちゃいました。
どうぞ、ご了承下さい。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/01/14
・全般の誤字を修正。