第114話 お泊まり会 男女比1:4(3)
え?ひょっとしてエアリーの体調不良の原因が分かったって事?
『わっふる、エアリーの魔力ってどういう事?』
わっふるに細かく聞いてみると、何でも生物には種族によって大小はあるものの体内に魔力を溜め込んでいるらしい。
体内から一定量の魔力が少なくなると、生命活動に色々な支障が出る物らしい。
目眩・息切れ・動悸、そう言った症状が現れる。
わっふるの感知によるとエアリーの場合、通常ヒューム族が持っていると思われる魔力の2/3程しか無いらしい。
何でも彼女は小さな頃に大病を患ったらしい。
その後からずっと体調不良を訴えていたと言う事から、その病気がきっかけで魔力をコントロールする器官がおかしくなったと思われる。
その為、慢性的な魔力不足を起こしているのでは無いかと言う結論に達した。
『わっふる、お手柄だよ!』
そう、もしこれが事実ならば、どんなに腕が良い治療師だって、エアリーを治せる訳がない。
原因だって特定出来ないだろう。
感知能力が高い神獣のわっふるだからこそ、エアリーの魔力不足に気が付けたのだ。
そもそも、僕等には魔力不足なんて言う概念がない。
そう、分かる筈が無いんだ。
『では、これでエアリーの体は完治したのだろうか?』
『わかんないー』
シルフィが問いかけると、わっふるは分からないと言う。
それはそうだろう、だってわっふるは医者でも治療師でもないのだからね。
「……取りあえず、僕は戻るね」
僕がいつまでも脱衣所にいたら、エアリーはいつまでもお風呂から出られないからね。
一端、居間に戻る事にしよう。
居間に戻るとアイシャとエイミさんが心配そうな表情で出迎えてくれた。
「姫様、何でした?」
「……うん、どうもエアリーの体調が良くない理由が分かったかもしれないんだ」
アイシャは当然、エアリーが慢性的な体調不良を抱えていて、引きこもりになっている事実を知っている。
僕が話した“体調が良くない理由が分かったかも”という言葉がどれほど重大な事か分かっている。
反対にエイミさんはエアリーに会ったのは今日が初めてだし、王族の抱えている問題なんて知るわけがない。
「一体何の話をしているの?」みたいな表情できょとんとしながら、僕等の会話を聞いていた。
風呂場でわっふるから聞いた事を二人に話し、体調不良の原因と思われる魔力不足について話しをする。
「ちょ、ちょっと待ってください!?」
エイミさんが話の途中まで聞いて慌て始める。
ん?どうしたのかな?何か変な事僕言ったっけ?
「マインさん、わっふるちゃんって……神獣様なんですか!?」
あ、そうか。
わっふるの正体は秘密だったんだ。
エイミさん、すっかりうちに馴染んでるからうっかりしてたよ。
……まあ、どちらにせよクランの一員になるのだから、知っておいて貰わないといけないんだけど……。
「……うん、そうだよ。
ただ、クラン以外の人には絶対にナイショだからね。
わっふるに何かあったら、フェンリル様が黙ってはいないからね」
僕がそう言うと「分かりました、絶対に言いませんから」と震えながら目に涙を浮かべて何度もエイミさんは言った。
何か妙に必死だよね……どうしたのかな?
不思議に思ったので、聞いてみるとウィルズ国を滅ぼした神獣ユミル様の事を思いだしたらしい。
……そうか、彼女は実際に神獣様が力を振るっている姿を目の当たりにしてるんだ。
僕も一度だけ、フェンリル様が力を振るった所を見たけど、とんでもない力だったもんね。
あれほどの力でも、フェンリル様にとってはお遊びのレベルだったらしい。
本気で神獣様が力を振るっている姿を見ているエイミさんが怖がるのも無理は無いか。
「怖がらなくても大丈夫ですよ、わっふるは見た目通りの可愛い子ですから。
フェンリル様だって、優しいですし、怖がる事は全くありません!」
そんな事を話しながら、大体の説明が終わったタイミングで、シルフィとやたら興奮しているエアリーが風呂から上がり、居間に戻ってきた。
「……あれ?わっふるは?」
「すぐにアイシャ達が来るからと、まだ入ってるらしい」
それを聞いたエイミさんは、神獣様を待たせてはならないと急いでお風呂へと向かっていった。
……そんなに慌てる事ないのにね。
「アイシャ、エイミさんのフォローをお願いね」
僕の言葉を聞いて、アイシャも早足でお風呂へと向かう。
「……どうしたのだ?」
事情を知らないシルフィが不思議そうに聞いてきた。
ふぅ、と今度は先程居間で起こった出来事を二人に説明する。
……なんか、僕今日は説明ばかりしてるよね。
「なるほどな、ユミル様の力は凄まじかったと聞く。
そんなのを直接見てるんだ、わっふるが神獣と聞けば確かに怖くなるだろうな」
シルフィがしみじみとそう言うとエアリーも会話に参加してきた。
「わっふるちゃんのおかげで、私の体の不調の原因が分かりましたわ!
ユミル様は分かりませんけれども、わっふるちゃんは全然怖くなんかないですの!」
先程、わっふるに自分が長年苦しんできた体調不良の原因を特定してもらった事で、エアリーはわっふるにかなり好意的だ。
まあ、元々わっふるの可愛さにほだされてはいたのだけど。
「それで、今は体調はどうなの?」
「ええ、ばっちりですわ!凄く楽ですの!」
満面の笑みを浮かべて、答えを返すエアリー。
もし、これで完治したら凄いよね。
エアリー以外に同じような症状の人がいたら、その人達にとっても朗報だよ。
エアリーの為って事もあるけど、他に苦しんでいる人の為にも完治して欲しい。
心の底からそう思うよ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……はわ~、本当に凄い……」
エイミさんが口を大きく開けて驚いている。
エルフってどんな表情でも綺麗なのね、そんなどうでもいい事を思いつつ、湯船を見る。
……するとわっふるが、ぷかーっと仰向けになって漂っていた。
「わふ~♪」
うん、ご機嫌みたいね。
「……マインさんが言われていた魔力水、確かに濃密な魔力が混ざってるみたいですね。
疲労の回復や簡単な怪我とかなら、このお風呂に浸かるだけで治ってしまいそうです」
「あら?エイミさんも魔力感知が出来るの?」
「私達、エルフは魔力感知の能力が種族として、備わっているんです。
なので、魔法系のスキルを授かったエルフは戦闘能力も凄いんですよ」
……へえ、知らなかったわ。
流石に私もエルフと組んだ事無かったしね。
「……神獣わっふる様、失礼します」
エイミが体を洗った後、わっふるが浮かんでいる湯船に恐る恐る入っていく。
「わふっ!」
わっふるは片手を上げて、エイミさんに同意を示す。
【神獣の契約】を受けていないエイミさんはわっふると会話が出来ないから、気を使ってくれたのかな?
そんな事を考えつつ、私もわっふるに声を掛けて、湯船に体を沈めていく。
あ、当然私も体は洗っていますからね!
「それでどうかしら?うちの家族は?」
私達に慣れて貰おうと、今日は来て貰ったのだ。
きちんと聞いておかないと来て貰った意味がない。
わっふるに少し苦手意識が沸いてしまったみたいだけど……大丈夫かしら?
「……皆さん、優しくてとっても嬉しいです。
本当にこんなに良くして貰っていいんだろうかって思ってしまいます」
「マイン君が絶対に守ってみせるって言ってるからね。
安心して大丈夫だからね、それにうちには可愛い神獣様もいるしね!」
「わふわふっ!!」
私の言葉にわっふるは任せておけと言わんばかりに声を上げる。
……ええ、頼りにしているからね!
ところでわっふる、結構長い時間、お風呂にいるけど……のぼせないのかしらね?
何はともあれ、わっふるの無邪気な様子を見てエイミさんも少しずつ慣れてきたみたいで、今ではわっふるの頭を撫でるまでに至っている。
うちで暮らすようになれば、わっふるに対する苦手意識も解決するんじゃないかしらね。
「エイミさんに問題が無ければ、明日明後日位にうちに引っ越しちゃいましょうか?」
私の言葉を聞き「……はい、お願いします」と返してくれた。
うん、これで一安心ね!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アイシャとエイミさんがお風呂から上がり、僕がお風呂に入ろうとすると中からわっふるがヨタヨタと出てきた。
『のぼせたー』
……流石のわっふるものぼせたようだ。
僕が服を脱いでいる間に、わっふるが何度もぶるぶると体からお湯を飛ばしていく。
当然、僕のいる方にも水飛沫が飛んでくるけど、今回はこれからお風呂に入るので問題ない。
『おいで、わっふる。拭いてあげるよ』
新しいバスタオルを持ってきて、わっふるの頭から被せ、わしゃわしゃと残った水分を取り除いていく。
わっふるは気持ちよさそうに「わふ~♪」と言いながら、されるがままになっている。
『よし、終わったよ』
そう言って、バスタオルを取ってあげると僕のほっぺたをベロンと舐めて、居間の方へ走っていった。
じゃあ、僕もゆっくりと入らせて貰おうかな。
今日はお嫁さんの乱入は無い。わっふるも行ってしまった。
……久々に一人で入浴だ。
のんびりとお風呂を楽しむ事にしよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
僕が風呂から上がると、エアリーがお嫁さん二人に僕等の出会いや新婚生活の話をねだっていた。
巻き込まれては堪らないと僕はそうそう自室へ逃げる事にする。
「それじゃ、僕はこのまま寝るね!おやすみなさい!!」
アイシャとシルフィが恨めしそうに僕を見ているけど、気が付かないふりをしてさっさと逃げる。
『きょうは、まいんだけでねるのかー?なら、おれもいっしょにねるー!』
わっふるが僕を追いかけてきて、さっさと定位置の頭の上に乗ってくる。
……なんか、頭に乗るスピード無茶苦茶早くなっているよね?
こうして、僕とわっふるは深い眠りにつくのだった。
……後で聞いたのだけど、エアリーの追求は凄まじく、僕達の馴れ初めから夜の事まで全て話させられたらしい。
付き合わされた、エイミさんの顔が翌朝、真っ赤だったのは気のせいじゃないだろう。
うん、僕もその話を聞いて顔が真っ赤になったけどね……。
恐るべし、エアリー……。
お読み頂きありがとうございました。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/01/09
・全般の誤字を修正。
2017/01/14
・全般の誤字を修正。




