第112話 お泊まり会 男女比1:4(1)
「さあ、お義兄様!参りましょうか!」
……え?どういう事?
「この前、約束しましたわ!お家に遊びに行くって!」
あっ!確かにそんな約束をしたかもしれない……。
けど、結構遅い時間だよ?お風呂に入りたいって言ってたから、入ってすぐ帰らないといけないんじゃないかな?
「エアリー、もっと早い時間の時に来た方がいいんじゃないかな?
その方がゆっくり出来ると思うけど……」
僕がそう答えると頭の上で、わっふるもうんうんと頷いている。
すると、にやりとお義兄さんそっくりの笑みを浮かべて腰に手を置き、ビシッと右人差し指を突き出して僕に宣言する。
「大丈夫ですわ!今日、泊めてもらいますから!」
え、ええええええええっ!?
まだ、客室なんて作ってないよ!
お義兄さんが泊まった時みたいに、僕のベッドで寝て貰うしか……。
いやいやいや、奥さん以外の女性を寝かせるなんて絶対まずい!
しかも、王女様だしっ!
……これは何とか叛意させないとダメだよ!
「いや、だけど王女様が外泊なんて、許可でないですよね!」
「大丈夫ですわ!お母様とお兄様の許可は取ってますから!」
いや!お義兄さん!何で許可出すんですか!?
王妃様もダメでしょう!年頃の王女様を外泊させるなんて!!!
……何でも、
『義弟の所ならいいだろう。
シルフィもいるし、アイシャ殿もいるしな!そもそも此処より安全な位じゃないのか?
万が一、体調が悪くなってもアイシャ殿がいるし、義弟がこちらに連絡するだろう』
って、お義兄さんは言ってたそうだ。
……エアリーって体が弱いんじゃなかったの?大丈夫なの!?
「いやいやいやいや!寝床、そう寝床が無いんです!
うちは大きな屋敷という訳でもないですから、王族の方に泊まって貰える部屋が無いんです!」
これなら、どうだ!
これは、年頃の女性にはきっと辛いだろう!
「大丈夫ですわ!この収納袋にベッドを入れてありますから!
お姉様のお部屋に寝るときだけ、出しますから平気ですわ!」
シルフィの部屋って……けど、王女様のベッドはきっと大きいはず!
そんな大きなベッドを置けるスペースはあの部屋には無かった筈だ!
「シルフィの部屋に大きなベッドを置けるスペースなんか無いよ!」
「大丈夫ですわ!この前、お姉様に確認しましたから!」
……万事休す、とはこの事か。
僕が何か他に理由は無い物かと思案していると、エアリーがツカツカと僕の目の前までやってくる。
「……お義兄様は、私が嫌いなんですの?」
目にうるうると涙をうっすらと溜めながら、そう言ってきた。
……これはダメだ。
「……じゃあいこうか、エアリー……」
「ありがとうですわ!お義兄様っ!!」
いつものようにわっふるにポンポンと慰められながら、自宅へと【固有魔法・時空】を使う。
落ち込み項垂れる僕とは対照的に満面の笑みを浮かべるエアリー。
正反対の表情を見せながら、黒い渦の中へと二人と一匹は飛び込んでいくのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「お帰りなさい、マイン君」
僕が家に戻って最初に目にしたのは、アイシャの姿だった。
そして、僕が出てきたすぐ後にエアリーがぴょんとジャンプをしながら飛び出してきた。
「こんばんわですわ!」
いきなり現れた王女様の姿にアイシャは一瞬戸惑うが、すぐに笑顔で「こんばんわ、エアリアル殿下」と挨拶をする。
その様子を見ていると、頭の上のわっふるが、突然飛び降りて走っていく。
そして、アイシャの後ろにいた人影に向かって飛びついた。
「わふっ!」
「きゃっ!」
ん、誰?……ってエイミさん!?
なんで、エイミさんが此処にいるの?そう思ってアイシャに顔を向ける。
「クランハウスが出来るまで、うちに泊まって貰うつもりって、マイン君が言ってたでしょ?
だから、今日お試しで泊まっていって貰おうと思って私が誘ってきたのよ」
なるほど、確かにいいアイデアじゃないかな。
クランと言ってもうちの場合は結局うちの家族って訳だし、事前に我が家の雰囲気を知っておいて貰うのは悪い事じゃないよね。
「……ところで、なんでエアリアル殿下がいらっしゃるんです?」
アイシャが僕とエアリーの顔を交互に見ながら、聞いてくる。
「うふふ、約束通り遊びに来たのですわ!お泊まりの用意もばっちりです!」
え?って顔で、慌てて僕の顔を見るアイシャ。
「……うん、そう言う事みたい。
シルフィと相談して貰えるかな?……ってシルフィは?」
そう言えば、シルフィがいないな?どうしたんだろう。
「姫様なら、まだ親方の所から帰ってきていないわよ。
魔法建築師の方も交えての打ち合わせだから、時間が掛かってるのかもしれないわね」
……そういえば親方言ってたね。
三階を足すと魔法建築師の人が大変になるって……。
「……それじゃ、ご飯でも作ろうか?
シルフィが帰ってきたら、温かいご飯がすぐ食べれるようにしておこうよ」
僕の提案にアイシャも賛成し、久しぶりに僕も一緒にご飯を作る事になった。
「……お義兄様、料理も出来るんですの?」
「アイシャほど、上手に作れないけどね」
「……凄いですわ!凄いですわ!!」
……あれ?そう言えばわっふる何処行ったの?
そう言えばエイミさんに突進してたな、と思い出してエイミさんを見てみると……。
ああ、わっふるが頭の上に乗ってる……。
……まあ、わっふるがエイミさんを気に入ったって証拠だからいいのかな?
肝心のエイミさんは、なんかフラフラしてるけど。
『わっふる、少しの間、ここ頼むね』
『わふっ!まかせておけー!』
エイミさんとエアリーをわっふるに任せ、僕とアイシャは炊事場へと向かう。
【料理】のレベル、上がるといいなあ……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
思ったより、打ち合わせに時間が掛かってしまった。
やはり、一から図面を引き直しともなると、結構大変なのだな。
「ただいま」
家に帰り、玄関でそう声を上げると予想外の声で出迎えられた。
「おかえりなさいですわ!お姉様!」
「!?なんでエアリーがいるんだ!?」
「お義兄様に連れてきて貰ったんですの!今日は泊まっていきますわ!
ベッドも持ってきたんですの!お姉様、今晩は色々お話を聞かせて頂きますわ!!」
……ああ、そうか。
旦那様が王宮から帰ってくる時についてきたんだな?
今まで、体の事があるから、外出なんて出来なかったからな。
旦那様のスキルなら体力を消耗せずに移動が出来るし、いい気分転換にもなるだろう。
「そうか、よく来たな。
体に負担が掛からない程度の夜更かしなら構わないぞ」
そう話しながらエアリーと一緒に家の中へと入っていく。
すると居間にいたのは、家族では無くこれまた意外な人物だった。
「シルフィード殿下、お邪魔しております。
アイシャさんに誘われて、今晩お邪魔させて頂く事になりました」
わっふるを頭に乗せ、そう声を掛けてきたのは、エルフのエイミだった。
……ふむ、今晩は中々楽しい夜になりそうだな。
「ところで、旦那様とアイシャは?」
「二人で晩ご飯を作っていますわ!そろそろ戻ってくるんじゃないかと……」
エアリーが話し終わる前に、二人が出来上がった食事を持って居間へとやってきた。
「おかえり、シルフィ。
お疲れ様でした、ご馳走を作ったからね!」
ああ、旦那様の声を聞くと帰ってきた気がするな。
うん、それでは二人の自信作を食べさせてもらうか!
お読み頂きありがとうございました。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/01/08
・全般の誤字を修正。
2017/01/14
・全般の誤字を修正。