第111話 色褪せない思い出
「私が昔、お前の両親とパーティを組んでいたのは以前、少し話したな?
元々、私は唯の平民でな……。
父が傭兵をやっていた兼ね合いで俺も成人するまでは傭兵をやっていたんだ」
え?国王様、傭兵さんだったんだ……。
けど、今の僕よりも若い時に傭兵なんて、凄いよね。
僕なんて日々生きるだけで精一杯だったのに……。
「ん?ああ、傭兵なんて言っても、親父の手伝いをしてただけだからな。
私自身はそんな大した事はしていなかったぞ」
僕の表情を見て、国王様はそう話をつけ加えてくれる。
「……なにせ、傭兵という明日も知れない家業だからな。
一所に留まって生活をするのではなく町から町へと転々としていた訳だ。
そんな日常だったから、神様からスキルを授かったのは、成人して少し経ってからだった」
なるほど、スキルを授かれる神殿はある程度大きな町にしかないからね。
国王様が言うように、住むところを転々としていたのなら、成人してすぐにと言う訳にはいかなかったんだろうね。
「それで、ルナワンの町でスキルを授かってな。
丁度、父が死んじまった所だったし、冒険者にでもなるかと決心したんだが……」
「そこで、お父さんとお母さんに出会ったんですか!?」
しまった!思わず、国王様の話を遮っちゃった……。
不敬って怒られたらどうしよう……。
……だけど、どうしてもお父さんとお母さんの事が気になっちゃったんだ。
「そうだな……。
冒険者ギルドで会ったのは、お前の母親ユキノとガーネットの二人だな。
あいつらは昔からの友人という事でな、既に二人でパーティを組んでいたよ」
怒られるって思ったけど、普通に国王様は話してくれた。
……多分、当時を思いだしているんだろうね。
懐かしそうな、それでいてなんだか楽しそうな……。
国王様がお母さんと王妃様の事を話す様子を見て、そんな風に僕は思ったんだ。
「……お父さんは一緒じゃなかったんですね」
僕の記憶の中では、いつもお父さんの横にはお母さんが並んでいる。
お父さんは余り喋らない人だったけど、お母さんはいつもお父さんの横に立ってニコニコと笑顔が絶えない人だった。
国王様の話で、そんな二人が一緒に居なかった事を聞き、なんだか寂しくなってきた。
「そんな顔をするな、ダインの奴が私達と行動をするようになったのはもう少し後だ」
「……はい」
「とにかく、初めて行った冒険者ギルドでガーネットとユキノに出会い、成り行きで一緒に依頼を受ける事になった」
一体、どんな依頼なんだろ?
僕がそんな事を考えていると国王様はニヤリと笑って聞いてくる。
「どんな依頼なのか気になるのか?」
どうやら、またもや表情で考えている事がばれたみたいだ。
そんなに僕って分かりやすいのかな?
何か頭の上が前後に動いた気がする。
……どうやら、わっふるもそう思ってるみたい……。
わっふるにまで同意されて、少し凹んでいると国王様がクックと笑いをかみ殺しながら続きを話し始める。
「依頼自体はパーティ構成さえしっかりしていれば、それ程大変な物じゃない。
ルナワンの町から少し離れた所にある森の中から、ある魔物を狩ってくるというやつだ」
どれくらいの強さの魔物か分からないけど、国王様がいれば余裕だろうね!
何せ、後に英雄とまで言われる人なんだ!苦戦する姿を全く想像出来ないよ。
「わくわくしている所、すまないがな。
さっきも言ったように”パーティ構成さえしっかりしていれば”と言っただろう?
私は剣士、ガーネットは魔法師、ユキノは治癒師だ。
倒すだけなら問題は無いが、広大な森の中から、たった一匹しかいない魔物を見つけるのは至難の業だ」
たった一匹!?それってひょっとして……。
「ま、まさか、希少種!?レアモンスターって奴ですか!?」
「ああ、よく知っていたな。
突然変異でいきなり誕生する魔物でな……。
私達が探さなければいけなかったのは、蜂型の魔物ロイヤル・ビーという奴だな」
……確かに厄介な依頼だよね。
森の中で、蜂型……しかもたった一匹しかいないレアモンスターだなんて。
「そう、つまり私達のパーティにいない索敵能力がある人物が必要だったという訳だ」
あっ!分かった!
そう言う事か!!
「気が付いたようだな、そうだ。
私達はギルドに索敵能力があって信用出来る人間を斡旋してもらったんだ。
……それが、お前の父親であるダインだよ」
やっぱりそうだ!お父さんだ!
お父さんは僕なんかと違って凄腕の狩人なんだ!
索敵能力だって凄いし、短剣だけじゃなく弓の腕前だって一流だ。
お父さんがいれば、ロイヤル・ビーだろうが、何だろうが敵じゃないよ!
「まあ、それが私とお前の両親との出会いと言う訳だな。
それから、私がこの国の王になるまで、ずっと一緒だったのだ。
私はガーネットと結婚し、ダインとユキノが結婚し……。
今でも信じられないよ、二人がもういないなんてな」
国王様の言葉に僕もしんみりとなってしまう。
そうだよね、僕もそう思うよ……。
「お前達のクランの名前、あいつら(ダインとユキノ)が向日葵が好きだったから、そこからつけたんだろう?」
「……はい、そうです。
お父さんとお母さんが見守ってくれてる気がして……」
「ああ、良い名前だと思うぞ。きっと喜んでいる筈だ」
その後も国王様から、若き日のお父さん、お母さんの話を沢山聞く事が出来た。
ただ、お父さんとお母さんが亡くなった時の事だけは話してはくれなかった。
ルーカスをその命をかけて救った、ただそれだけを教えてくれたんだ。
両親の事を誇りに思え、両親の名を汚さないように一生懸命生きろ、そう僕に話して昔話は終わったんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……ああ、最後にマインよ、相談なんだがな」
僕が執務室から退室しようと、背を向けると国王様が思い出したように声を掛けてきた。
「はい?何でしょうか」
「例の移動スキルだがな、あれを扉とかに使って常時特定の場所と繋いだりする事は出来ないか?」
ん?どういう事だろう。
例えば、僕の家で扉を開けたら、扉を抜けた先が王宮って事かな?
どうだろう、そんな事出来るのかな?
「……やった事も考えた事も無いので何とも言えないです。
家に帰ったら試してみるようにします」
「ああ、そうしてくれると助かる。
お前と連絡を取ろうとすると現状では早馬しか方法が無いからな」
国王様と約束をして、お辞儀をしてから執務室を退室した。
退出間際に国王様がメイドさんを呼んでくれていたので、再び彼女の後ろをついて歩いていく。
何はともあれ、これで用事は終了だ!
思った以上に時間が掛かっちゃったから、エアリーに話しの続きをするのは無理だよね。
謝ってから帰った方がいいよね。
「エアリアル殿下は、どちらにお見えか分かりますか?」
僕が先行して歩くメイドさんに声を掛けると「マイン様のお部屋におりますよ」と返事が返ってきた。
え?僕の部屋にいるの?
ひょっとして、あれからずっと待っていたのかな?
だとしたら、このまま家に帰るのは申し訳ない気がするよ……。
そして、部屋に戻った僕を出迎えたのは……。
右手に収納袋をぶら下げ、動きやすい服装に着替えを済ませ、満面の笑みを浮かべるエアリーだった。
「さあ、お義兄様!うちに帰りましょうか!」
……え?どういう事?
お読み頂きありがとうございました。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/01/06
・全体的な誤字を修正。
2017/02/07
・全体的な誤字を修正。