第110話 国王陛下と向日葵と
クランの名前が決まった所で、早速国王様の所に報告に行く事になった。
シルフィはクランハウスの件で、親方と打ち合わせがある。
アイシャは冒険者ギルドでエイミさん引っ越しの打ち合わせに向かう。
どちらも重要な事なので、国王様の所に行くのは僕とわっふるの二人だけとなった。
「じゃあ、行ってくるね!」
そう言って、シルフィとアイシャの二人と軽くハグをし、ほっぺたに軽くちゅっとする。
そして【固有魔法・時空】を使用し、王宮へと向かうのだった。
「アイシャ……世の新婚さん達はこんな事をいつもしているのだな……」
「ええ、姫様……そうみたいですよ」
……僕を送り出した後、顔を真っ赤にした二人がそんな事を話していたとか居ないとか。
「さて、着いたのはいいけど、どうしよう」
黒い渦を通って、辿り着いたのはこの前まで僕達が生活をしていた王宮内の部屋だ。
一応、国王様からここは僕達の部屋と決めたので、自由に使って構わないと言われてはいるんだけど……。
流石に、いきなり部屋を出て王宮内をウロウロしてたらやっぱり不味いよね。
僕が思案に暮れていると、わっふるが急に僕の頭から飛び降りた。
そして、どうやら誰かに向かって念話を使い始めたようだ。
……一体、何してるんだろう?
何をしているか理解できないまま、わっふるを見つめていると「わふ」と一声鳴き、再び僕の頭の上に戻ってきた。
どうやら念話が終わったみたいだ。
『どうしたの?わっふる』
『まいんがこまってたから、よんだー』
ん?どういう事?
すると、部屋の外から足音が聞こえてきた。
足音がどんどん大きくなっているから、こちらに向かってきているようだ。
「お、お義兄様!いらっしゃるんですの!?」
バンッとドアが開き、中に飛び込んで来たのは義理の妹であるエアリアル殿下だ。
愛称であるエアリーと呼び捨てで呼ばないと何故か怒るので、仕方なくエアリーと呼んでいるんだ。
「こんにちは!エアリー」
僕がまだ息を切らせてはぁはぁと言っているエアリーに挨拶をする。
「こ、こんにちはですわ!」
僕は収納袋から冷たいお水を取り出して、ゆっくりと手渡した。
すると、エアリーは受け取ったお水を一気に飲み干し、はぁと声を漏らす。
……相当、急いで来たんだろうね。
けど、何でここに居るって分かったんだろう?
再び、考え込もうとすると頭をぺしぺし叩かれているのに気が付く。
『おれがよんだー』
え?……ああ、さっきの念話??
!!
あ、そうか!【神獣の契約】か!
……すっかり忘れていたよ。
一定の距離内なら【神獣の契約】を持った人にわっふるなら念話を送れるんだ!
「……まったく、びっくりしましたわ。
お部屋に引き籠もっておりましたら、いきなりわっふるちゃんの声が聞こえてくるのですもの」
ああ、そういえばシルフィが言っていたね。
エアリーは普段は自室に引き籠もっていて外には出てこないんだったよね。
「ごめんなさい、驚かせてしまって……。
王宮に来たのはいいのだけど、勝手に彷徨い歩いたら駄目だと思って……」
「別にいいですわ、お義兄様!ところで今日は何の用事ですの?」
「うん、国王様に話したい事があって……会えるかな?」
僕がそう言うと、エアリーは直ぐさま、部屋に備え付けの呼び鈴を押した。
「お義兄様、次からはこの呼び鈴を使って下さいまし。
メイドがすぐに駆けつけて参りますから!
……けど、私を呼んで頂いても構いませんわ!」
エアリーが言う通り、すぐにメイドさんが部屋を尋ねてきた。
「エアリアル殿下、マイン様、お呼びでしょうか」
そして、とても洗練された仕草で僕とエアリーに向かって頭を下げてくる。
「お義兄様がお父様に会いたいそうよ、予定を確認してきて貰えますか」
エアリーの言葉を聞き、メイドさんは再び僕等に一礼をし、退出していく。
「さあ、これで大丈夫ですわ!
彼女が戻ってくるまでお話をしましょう!お義兄様」
こうして、メイドさんが戻ってくるまでエアリーと世間話をする事になった。
流石に女の子と言うべきだろうか。
彼女の興味は僕と二人のお嫁さんとの出会いに興味津々らしい。
エアリーも王族なので、結婚相手は当然ながら良スキルを持った人間に限られる。
なので、どんな人物が自分の伴侶となるのか全く予想がつかないのが少し怖いとの事。
許されるならば、燃えるような大恋愛を得て、結婚が出来たら最高ですわと少し悲しそうな目で僕に話してくれた。
……そんな理由から、身近な実例という事で是非とも僕等の事を教えて欲しいと迫られた訳だ。
とは言っても、僕達の場合はかなり特殊な形で結婚に至ったし、どちらかと言うと変則的な見合い結婚と言える。
エアリーの好みである大恋愛という感じでは無いんだよね。
嘘をつくわけにもいかないし、取りあえずありのままを話していく。
話している途中「へえ」とか「うそ!お姉様が!?」とか聞こえてくるが、取りあえずさっと聞き流しておく。
力の迷宮にアイシャと向かう所まで話を進めた所で、メイドさんが戻ってきた。
「マイン様、大変お待たせ致しました。
国王様はすぐにお会いになられるそうです。執務室まで私がご案内させて頂きます」
「わかりました!ありがとうございます」
僕はそう言って、メイドさんにお礼を言って頭を下げる。
メイドさんは僕が頭を下げた事に一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに僕が元平民だった事を思いだしたのか、すぐにニッコリと微笑んでお辞儀を返してくれた。
貴族が普通は簡単にメイドさんに頭なんか下げないものね。
「お義兄様!お父様とのお話が終わったら続きを聞かせてくださいね!」
「国王様との話次第かなあ、時間が掛かるようなら家に帰らないといけないし……」
そう、僕が返すと露骨に悲しそうな表情をエアリーは見せる。
取りあえず、国王様を待たせる訳にはいかない。
「ごめんね」と声を掛けて、急いでメイドさんの案内で国王様の執務室へと向かう事にする。
ただ、僕はこの時気が付いていなかったんだ。
エアリーが悲しそうな顔をし、考え込んだ後に「そうだ!」と手を打っていた事に。
このエアリーの「そうだ!」の意味について僕が知るのは、国王様との話が終わった後の事だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「失礼致します、マイン様をお連れ致しました」
メイドさんが、国王様の執務室の前で扉をノックし、声を上げる。
「来たか、入れ」
すぐに中から国王様の声が聞こえてきた。
メイドさんが中からの返事を確認し「失礼致します」と言いながら扉を開ける。
そして、僕に中に入るよう促してくる。
僕がお辞儀をしながら「失礼します」と部屋の中に入った事を確認するとメイドさんはゆっくりと頭を深く下げ、扉を閉めていく。
「マイン、今日はどうした?」
国王様が椅子にゆっくりと腰を下ろしながら、話しかけてくる。
「忙しい中すみません、クランの名前が決まりましたので、報告に来たのですが……」
「ほぉ、思ったよりも早かったな、いやこちらとしては助かるがな。
それで、どんな名前をつけたのだ?」
僕は胸を張って、国王様にクランの名前を告げる。
「永久なる向日葵です」
僕が元気よく、そう言うと国王様は一瞬驚いた表情を見せて、動きが止まってしまった。
「……向日葵……か。
なるほど……なるほどな、確かにお前達に相応しい名前だな」
ああ、そうか!
そう言えば、国王様は昔、お父さんお母さんとパーティを組んでいたんだっけ!
だったら、この向日葵を僕が何故選んだのか知っててもおかしくない!!
「そうだな、マイン……少しだけ昔話をしようか」
国王様は目を瞑り、大きく息を吐く。
……そして、語り始めたんだ。
お読み頂きありがとうございました。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/01/06
・クランのルビを修正。
・全般の誤字、言い回しを修正。




