第109話 クランの名前を考える
クランハウスの予定地は僕の家から50メートルほど離れた場所にある。
そこで作業をしている筈の親方を訪ねるべく、僕等は家を出る。
流石に昨日のような住民の皆さんからの熱烈な歓迎は今日は無く、あっさりと目的地に辿り着く事が出来た。
昨日の状況だと、たった50メートルを進むだけでも一時間は掛かりそうだったので、全員が安堵の息を吐いたのは無理も無い事だろうと思う。
「……良かったね、落ち着いたみたいで」
「ああ、流石に毎日あの状態だと生活に支障が起こるからな」
僕達がそんな会話をしているとお風呂造りの時にもお世話になったお弟子さんが声を掛けてきてくれた。
「おや、皆さん。戻っていらっしゃったのですか?」
「はい!昨日ですが、無事に戻ってきました!
皆さんには今回も無理を言ってしまい申し訳ありません」
僕がそう言うと「全く問題無いですよ」とにこやかに笑顔を浮かべて返事をしてくれた。
「すまないが、親方に会いたいのだが、こっちに来ているのだろうか」
シルフィがお弟子さんにそう尋ねると、ここに連れてきてくれるとの事だった。
作業を中断させるのも申し訳ないので、僕等の方から親方の所に伺う事にして居場所を確認する。
ちなみにクランハウスの用地はシルフィが頑張って町長さんと交渉してくれたので、かなりの敷地を確保出来ている。
通常の人力作業だけでこの用地に見合う規模の建物を建てようとすれば、それこそ一年以上の時間が掛かるらしい。
だが、今回のクランハウスの建設は王家から大きく援助が入る予定だ。
王家から金銭の援助だけでは無く魔法建築師と呼ばれる土魔法のスキルを使い、建造物を建てる事を生業としている者を何人か派遣する事になっている。
魔法建築を行うメリットは何よりも工期と丈夫さにある。
建材を魔法を用い、その場で造りだし、魔法で強度を高める。
その為、建材を移動させる時間や手間が掛からず、圧倒的に早く、そして頑強な建材を用意出来る。
その上、行程の全てでは無いが建材の組み上げに関してもその力を発揮出来るのだ。
魔法建築師が一人いれば、一般的な建築よりも1/10程度の期間で完成すると言うのも頷ける話である。
そんな魔法建築師が一人だけでは無く、全部で五名も王都から派遣される事になっているのだ。
だから、僕等のクランハウスもきっとそれほど遠く無い先に完成を見る事になると思う。
親方が居ると教えられた場所には仮組みされた小屋が一軒建っていた。
何でも建設中にベース基地となる場所だそうで、打ち合わせや食事などに使う為に建てられた物らしい。
「おんや?マインさじゃねえか、もう王都から帰ってきたんか?」
小屋の中に足を踏み入れると、直ぐさま独特のイントネーションの声が聞こえてくる。
そう、親方ことドワーフのロクさんだ。
うちのお風呂をあっという間に造り上げた工房の主である。
以前造って貰ったお風呂の出来映えは、王族の人から見ても太鼓判を押される程で、僕等家族も全幅の信頼を置いている職人さんなのである。
「はい!昨日帰ってきました!」
「おお、そかそうか!そらえがったな!
んん?つーことはもう結婚ばしたんだな?
アイシャちゃんも姫様もまんずおめでとうございます」
「ああ、ありがとう!それでなロク殿、クランハウスの事で少し相談にきたんだが時間を取って貰えないだろうか?」
シルフィがそう言うと、親方は「ああ、構わないど」と時間を作ってくれたんだ。
作業机を囲んで、全員が席に座ると僕は収納袋から軽くつまめるお茶菓子を取り出して全員に配布する。
王宮で頂いたお菓子が余りに美味しかったのでメイドさんに売っているお店を聞いて、沢山買っておいたんだよね。
【固有魔法・時空】で作った収納袋なので、当然時間経過は無い。
いつまでも美味しく頂けると言う訳だ。
美味しいお菓子をみんなで摘み、和やかな雰囲気の中でシルフィの話が始まった。
「以前の打ち合わせで、クランハウスは二階建てと決めたのだが……。
事情が変わってしまってな、三階建てに変更したいのだが……」
事情を話し、主題の三階への変更が出来るかを打診してみると、親方は腕を組んで目を瞑ってしばらく考え込む。
「基礎工事にまだ入ってねえがら出来るでな。
ただ、図面を引き直すっがら、ちょっと時間をもらわなあかんの。
まあ、魔法建築師の方々がすっこし大変になるかもしれんさ……」
魔法建築士の方が少し大変になるらしいが、まだ間に合うみたいだ。
時間が少し延びる位なら問題は無いよね。
うん、それなら是非、お願いしよう!
その後、親方とシルフィが二階の図案と三階の図案を親方と打ち合わせを行い、大雑把だがクランハウスの形が確定した。
明日にでも魔法建築士を交えて、最終的な図面を引く事になるらしい。
「……三階まで作るからの、完成までは三ヶ月ちょっとかの?」
そんなに早く出来るの!?改めて魔法建築の凄さが理解出来る。
……何はともあれ、約三ヶ月で僕等のクランの本拠地が出来るんだ。
今からやる事を色々考えておかないといけないよね!
まずは、国王様に依頼を受けたダンジョンの探索とコアの破壊。
ここからはじめよう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さて、クランハウスの見通しもたった事だし……。
クランの名前をそろそろ決めなきゃいけないよね。
……と言うわけで!!
「第三回、家族会議~~~~!」
家に戻った僕達は懸案事項だったクランの名前を検討する事になった。
「僕のせいですっかり遅くなってしまっていたクランの名前を決めたいと思うんだけど……」
「クランの名前ねえ……
ルイス殿下の所はクランの活動内容を現す言葉になってるわよね」
確かにそうだよね。
ルイス殿下のクランは「錬金術図書館」
これは殿下を始めとする錬金術を得意とする人材が多く集まっている所からつけた名前と聞いている。
まだ出会った事は無いけれど「従魔の輪廻」って言うギルドも名前から活動内容が分かるよね。
反対にカシューさんの所は「舞い上がる砂塵」は名前と活動内容は一致しない。
僕達のクランはどちらかというと活動内容はカシューさんの「舞い上がる砂塵」と近い感じになると思う。
だから、活動内容を連想するような物は難しいかもしれないね。
「うん、僕等のクランだと活動内容といっても特定の物にならないからね。
僕達に関わりがある言葉で考えるのがいいかもしれないね」
僕がそう言うとまずアイシャが発言する。
「幸せの輪廻って言うのはどうかしら?
私達がずっと幸せでいられるようにという願いを込めて」
うん、確かに良い名前だと思う。
僕達だけでは無く他のみんなも幸せになれるといいよね!
『こんどこそ、まいん・す○ーぱーがいいとおもうぞ!』
……わっふる、なんでそんなに気に入ってるの?それ……。
流石にそれは無いよね。
「そうだな……向日葵はどうだろう。
旦那様やお義父様、お義母様が愛している花だ。
これほど、我々に相応しい名前は無いと思うのだがな」
……確かに僕に取って特別な意味がある名前だよね。
なるほど、凄くいい名前のような気がするよ。
その後も三人(+一匹)で色々候補を出してみたけど向日葵が最終的に良さそうだと言う事になった。
ただ、向日葵だけだとクランの名前じゃなく花の名前と勘違いされてしまう可能性がある。
なので「永久なる向日葵」に落ち着いたんだ。
お父さん、お母さんの僕達の事を見守ってくれる、そんな気がするよ。
よし、国王様に報告に行かなきゃね!
お読み頂きありがとうございました。
と言う訳でクランの名前は”永久なる向日葵”と致しました。
この名前になった経緯は活動報告に書かせて頂きます。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2017/01/04
・クランの名前にルビを追加。
・誤字を修正。
2017/01/06
・クランのルビを修正。