第103話 祝福のルーカス
「ええ、分かってるわ……。うちのクランに来るのはね……」
う、なんかドキドキするよ……。
僕が知ってる人なのかな??
「エイミさんよ」
……は?
エイミさんって一体誰?
シルフィは知ってるのかな?
そう思って、シルフィを見てみたけど、やっぱり誰?って顔をしてる。
僕等の困惑する顔を見て「ああ」とポンっと手を叩くアイシャ。
「あれ、覚えていないかしら?……まあ、無理も無いわね。
オークの集落で捕まってた女性の事よ、ほらマイン君が助けたあの子」
あ、そう言えばそんな名前だったかもしれない。
あれから会う事も無かったし、一回名前を聞いただけだし、全く忘れていたよ。
けど、なんで彼女なの?
国王様とアイシャの話では、保護が何とか、ギルド長からの連絡が何とか言っていた気がするけど。
そんな事を疑問に思っているとシルフィがまさに今僕が考えていた事をアイシャに質問する。
「保護とか父上と話していたが、それはどういう意味だ?」
「……う~ん、それは自宅に帰ってからでいいですか?
ちょっと人目がある場所では、言えない事なので……」
なんか、結構な大事なのかな?
少しだけ、不安になってきたぞ……。
「取りあえず、ルーカスに着いたら冒険者ギルドに顔を出しましょう。
ギルド長に国王様から預かってきた手紙を渡さないといけないしね」
……エイミさんか、彼女を助け出した時はシルフィとアイシャの二人にスキルをどうやって隠すかばかり考えていたから余り印象がないんだよね。
そう言えば、彼女って何でオークに捕まってたんだろ?
ひょっとしたら、その辺りも今回の話に絡んでいるのかもしれないね。
まあ、今考えても仕方ないよね。
全ては自宅に帰ってから!今はせっかくの馬車旅を楽しもう。
こんな豪華な馬車に乗る事なんて、滅多に無い体験だしね!
わっふるを撫でたり、シルフィが煎れてくれた紅茶を飲んだり……。
……三人でイチャイチャしたり。
そんな事をしているうちにあっという間にルーカスの町へと到着をした。
王族の馬車というだけあって、町に入ろうと並んでいる人達の注目を一身に受ける中、僕達は馬車からゆっくりと降りていく。
出てきたのが僕等だと分かると、数人が僕等に向かって拍手をしてくる。
「「「ご結婚、おめでとうございます!」」」
その拍手をきっかけに、周りの人達が僕達が誰なのかを理解し、また一人、二人と拍手の波が広がっていく。
僕等は拍手をしてくれている人達に深くお辞儀をし、手を振り、ゆっくりと町の入り口へと向かっていく。
すると、知り合いの門番であるエドガーさんが同じく拍手をしながら声を掛けてきてくれた。
「マインっ!!結婚おめでとう!
これで、お前も一人前だなあ!!!きっとダインさんも喜んでくれてる筈だ。
色々とこれから大変だと思うが、頑張るんだぞ!
何か、あれば相談に乗るからな!いつでも声を掛けてきてくれ!」
なんだか、知り合いに結婚の事を言われると凄く照れるよね。
エドガーさんは相変わらずいい人だ。
お父さんに世話になったとかで、こうやっていつも僕の事を気に掛けてくれてるんだ。
僕が小さな時からの知り合いだから、何となくお兄ちゃんって感じなんだよね。
「それからシルフィード殿下、ご結婚おめでとうございます。
マインの奴、見た目はこんなんですが、しっかりした奴なんです。
どうか末永く添い遂げてやって下さい」
エドガーさんは、そう言ってシルフィに頭を下げる。
「エドガーと言ったか?頭を上げてくれ。
これから、色々と世話になる事もあるだろうと思う。
こちらこそ、旦那様共々、これから宜しく頼む」
そう言ってシルフィも頭をエドガーさんに下げる。
元王女とは言え、王族のシルフィが一介の門番に頭を下げた事で、周りが一斉にどよめいた。
そして、シルフィは後ろを向き、周りに集まっている人々に向かって大きな声で叫んだ。
「みんな、私達を祝福してくれて本当にありがとう!
これから、この町で世話になる事になった!宜しく頼む!」
そう言って、再び頭を下げる。
僕とアイシャもそれに習って頭を下げた。
すると、周りから再び大きな拍手が鳴り響いたんだ。
うん!なんだか凄く嬉しいし、ありがたいし、……ほんとにみんなに感謝だっ!!
みんな、ありがとう!!!!
「……ところでマイン」
エドガーさんが僕に声を掛ける。
一体、なんだろう??
「……その頭に乗っている狼の子供はなんだ?」
あ、わっふるはルーカス初めてだもんね。
「僕達の家族の一員でわっふると言います!
わっふるの事も宜しくお願いします!!」
僕が再び頭を下げると、落ちまいとしがみつきながらも、器用に前足を上げてエドガーさんにわっふるは挨拶をする。
「わふ!」
わっふるの挨拶に再び、周辺がどよめく。
……うん、これでわっふるの認知度も上がるんじゃないかな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
町に入ってからも、すれ違う人、すれ違う人に祝福の言葉を掛けられる。
みんなからの善意を無碍には出来ないもんね。
僕等、家族全員で丁寧にお礼を言って歩いていく。
ギルドまで、通常ならば五分も掛からないのだけど、二十分ほど掛けてようやく辿り着いた。
流石に疲れてきたけれど、ここからが本番なんだ。
気合いを入れて頑張ろう。
……けど、町に入ってギルドに来るだけでこれだけ消耗するなんて誰も思わないよね……。
ある意味迷宮に潜る方が気が楽かもしれないよ。
そして、冒険者ギルドでも歓待は続く、
この場所での主役は当然アイシャだ。
元冒険者ギルドの人気受付嬢であり、元B級冒険者の肩書きも持っているのだ。
歓迎されない訳がない。
「おぉ、アイシャちゃんじゃねーか!」
僕等がギルドに入ると、ほぼ同時に一人の冒険者が大声を上げた。
「お?アイシャちゃんだって!?」
「……本当だ!相変わらず美人だぜっ!!」
「まさか、受付嬢に復帰するのか!?まじか、やったぜ!」
「……馬鹿、お前知らねえのかよ?アイシャちゃん結婚したんだぜ」
「「「「 な ん だ っ て !!!! 」」」」
「そもそも、ギルド辞めたのも寿退社だって言ってたじゃねーか」
「……ああ、嘘だ……嘘だと言っくれえええっ!!」
「俺の…俺の…女神様が、穢されてしまったぁぁぁぁぁっ」
……歓迎と言うよりもこれは混沌だね。
いや、冒険者ギルドがどういう場所かって言うのは分かっては、いたんだけどね……。
こんな混沌とした状態になるとは……。
そんなちょっとした騒動の中、ギルド内にとんでもない大声が響き渡る。
「テメエら!もうちっと静かにしやがれっ!!!」
……いや、一番五月蠅かったけど……今の声……。
一体誰なんだろう、なんとなく聞いた事がある声だったけど……。
冒険者達で密集していたロビーが綺麗に二つに分かれていく。
分かれた事で出来上がった道の一番端に今の大声の主。
そう、ギルド長が腕を組んで、機嫌悪そうに仁王立ちしてこちらを睨んでいたのだった。
お読み頂きありがとうございました。
活動報告でマイン君達のクラン名を募集中です。
良かったら、良い名前をつけて上げて下さい!
どうぞ宜しくお願いします。
【改稿】
2016/12/29
・ギルド内、冒険者の言い回しを修正。
2017/01/09
・全般の誤字を修正。




