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 目覚ましの音がけたたましく鳴っている。


「ん、あれ?」


 せっかくの休日に昼まで寝入ってしまっていたようだ。長い夢を見ていたような気がする。


「あら?やっと起きたの。そろそろかなと思って昼ごはんは用意しておいたわよ」

「……誰だっけ」

「寝ぼけてんの?自分の嫁を忘れるなんて流石にどうかと思うわ」

「ごめんごめん冗談だよ」


 妻の顔を忘れるなんて確かにどうかしてる。


「わたし先にごはん食べちゃったから一人で食べてね。ちょっと出かけてくるから」

「おいおい、新婚ってのは休日に二人きりでイチャイチャするもんじゃないのか」

「そんなの知らないわよ。大事な約束があるの。終わったらすぐ帰って来るから……その後でね」

「ならできるだけ早く帰ってくるように祈っておくよ」

「はいはい。じゃあ行ってきます」




 一人でぼんやりと食事をとる。


『では今回の戦争の趨勢は決したと?』

『ええ、これで彼らも和平へのテーブルに着かざるを得ないでしょう』

 何となしに着けたテレビからコメンテーターの声が聞こえてくる。


 果たして――はどこかと戦争中だったか。

「……?」

 先ほど自分が何を考えていたか忘れてしまった。記憶にノイズが混じり思い出すことができない。


「なーん」

 飼っている猫が餌をくれと言わんばかりにテーブルの上に登ってくる。


「はいはい。まてまて今からだしてやるから」


 いつものキャットフードをエサ置き場にだしてやると、夢中で食べ始めた。この猫は機嫌が悪くなるとすぐに爪で引っかいてくるから恐ろしい。

 食事の続きを始めようとすると玄関のチャイムが鳴った。


「はーい今出るよ」




 玄関を開けるとそこには髭を生やし軍服を着た大男がいた。ものすごい数の勲章が目に映る。かなりのお偉いさんなのだろう。そして手には大きなスーツケースをぶら下げていた。


「えーと、どなた?」

「探したぜ。……あの猫もいるのか」

「あの?すいませんビリーが何かご迷惑でもおかけしましたでしょうか?」

「……いや、むしろ。迷惑をかけたのはこちらだ」


 そう言って大男は玄関の前で土下座をする。


「ほんとに、申し訳ねぇ。まさかこんな、こんなことになるなんて思いもしなかったんだ。許してくれエディ」


 何の話なのだろうか。とにかくこんな所で謝られても困るだけなので大男を家に上げた。


「頭の中に少しでも考えが浮かんだらダメだったんだ。それがこの世に出てきちまってる」


 話の続きを聞くがさっぱり分からない。それが顔に出ていたのだろう。


「ああすまねぇ。わからねぇよな。けど聞いてくれ、俺はあの時お前らとまた逢えたらいいなと考えちまった。それが俺の罪だ。それを謝る。ほんとに申し訳ねぇ」


 さらに分からなくなる。いったい何の話なんだ。


「……どうしてあの猫がここにいるかは知らんが、きっと俺がお前らを連れてきちまった時に巻き込まれちまったんだろう。こうみると可愛い猫だな」


 ビリーは大男の登場に驚いて物陰から動こうとしない。


「おまえらはこの世界からみた唯一の異邦人だ。あの後、神話を勉強してな、同じようにあの場所にいた奴が男の作った世界に来ていたらしい。彼はふとしたときに本当の自分を思い出しては、記憶にノイズが混じって忘れるのを繰り返したそうだ」


 ノイズ……。

 ふと食器棚の隣に置いてある貯金箱に目が行った。ハルカのへそくりだ。へそくりだというのに堂々と見える場所に置いてあることを突っ込んだら、あんたに隠してどうするのと言われたのを思い出した。その後ハルカははっとした表情になり、確かにそうよねと言っていた。


「すまねぇ。きっと時がたつにしてそれは収まっていく。そんでいつしか完全に忘れちまうだろう。……俺は随分と出世してな、お前らを一生養うくらいはできる」


 そう言って大男は手に持ったケースをテーブルの上に開ける。中にはぎっちりと紙幣が積んであった。


「これが俺の気持ちだ。好きにつかえ。足りないならここに連絡してくれ。それじゃあな」

「え……いや、こんなの受け取れませんよ!」

「いいから受け取れ。じゃあな!」


 大男は急いで帰って行った。


「……ハルカが戻ってきたら何て言おう?」


 いくらあるか分からないほどの大金を前に途方にくれる。


「なーん」

 ビリーは一瞬鋭い眼をこちらに向け、首筋に飛び込んできた。かと思うといつもの調子に戻って胸に収まった。


「……とりあえずお前の飯でも買うかな」





 しっかり作り上げてから投稿するべきだと理解しました。反省しています。

 思いついたら吉日と、簡単なプロットを作って書き始めたのが6月29日。

 書いては投稿し、気付けば初めのプロットなんぞどこへやらこんなお話に。

 当初は、「登場人物みんなそれぞれ違う世界からきた人たちで謎の世界で不可思議を味わう」というのをテーマに世界観に重きを置いた物語を紡ごうと考えていたというのに。

 あれよあれよと自分でもいったい何が言いたいのか分からないものになってしまいました。

 しかし、自分だけでなく他の人もそれぞれ違う世界の人で、今いる世界も何なのかよくわからない異相の空間という世界観は調理によって一流の物語に成り得るのではないかと信じています。同じような世界観の作品知ってる人がいたら教えてもらいたいです。

 三流以下のわたしですができれば同じ世界観を使って一流の料理を提供できるように邁進努力していこうと思います。

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