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五年一昔

 J1復帰を決めてからのアガーラ和歌山は、選手の契約関連のニュースばかりが話題になった。その中でまずサポーターを安堵させたのは、竹内の複数年による契約更新だった。

「GMや社長からありがたい言葉をいただいた。またお世話になろうと思いました」


 しかし、サポーターの反応は複雑だった。この契約には『海外移籍常時容認』の項目が入っており、契約期間中でも本人が希望した場合は二つ返事で了承するというものだ。今やA代表で主力を張るぐらいの選手なだけに、欧州各国からのオファーの噂も少なくない。しかし、複数年で囲っているあたり『タダ同然では渡さない』というクラブの思惑も透けて見えた。

 ただ、やはり主力クラスの退団も少なくなかった。まずプレーオフの二日後に報じられたのは、FW小松原の広島への完全移籍であった。広島は今シーズンに若手ストライカーの浅井が海外移籍。オフには象徴的存在だった瀬藤が名古屋に移籍し、質量ともにFWの駒不足となり、高くて速く、巧くて強いと申し分ない実力を持った小松原に白羽の矢を立てた。

「二年近くプロでやってきて、やっていける自信なついた。それに一緒にプレーしている剣崎や竹内が代表でプレーしているのを見て、まずは一番手でプレーできる環境が欲しくなったし、ここではそれは望めない感じがして、移籍のオファーを受けることにしました。来年は敵になりますが、ここに対する感謝を忘れずにプレーしていきます」

 DF、MFにも退団者が相次ぐ。関原はレンタル期間満了となり、そのまま所属元の横浜から名古屋への完全移籍が発表された。米良も川崎への完全移籍が決まり、根島も悩んだ末に京都に移籍することになった。そしてこのオフ最大の、アガーラ和歌山だけでなく、Jリーグ全体でのサプライズといえるのが友成の移籍だった。


「おい!」

 そのニュースがリリースされるや、剣崎は友成の元へ飛び込んだ。

「てめえ、移籍するってほんとかよ!」

「なんだそんなことか」

「か、軽いなお前・・・」

「ああ。別にひとつのクラブで全うしなきゃいけないなんてルールはねえしな」

「だ、だがよ!てめえこんな理由はねえだろ!なんだよ『ここでやるのに飽きた』って」

「飽きたんだからしょうがねえだろ」


 リリースされた記事によると、友成が移籍を決断した理由にまず「このクラブにいるのが飽きた」と発言している。なかなかぶっ飛んだ発言ではあるが、友成なりに理由がある。

「つまりだ。お前ら以外のFWに張り合いを感じなくなった。お前らを敵に回したくなった。それが理由だ」

「俺達を敵に・・・なんだそれ?てめえそんな勝手な理由で移籍すんのかよ!」

「移籍なんかそんなもんだろ。戦力外からの再雇用ならまだしも。どこでプレーするか、最後に判断するのは自分自身だからな」

 平然と持論を言いきる友成に、さすがの剣崎も開いた口がふさがらない。

「あと俺は、お前があまりにも簡単にゴールを決め続けるのに、いい加減我慢できなくなった。ゴールしか能のないFWにこうも点をとられ続けるのは、GKの技量が疑われる。だから俺はお前を敵に回したくなった」

「・・・てめえ俺になんか恨みでもあんのかよ」



 何はともあれ、友成は剣崎への敵がい心を剥き出しにして鹿島に旅立っていった。同じタイミングで秋川がJ2の水戸へ武者修行に出向くことが発表された他、若手DFの古木もJ3の秋田にレンタル移籍することになった。これで放出のニュースは一段落ついた。

 しかし、来シーズンに向けた和歌山の補強も、例年にない豪華絢爛なものとなった。


 まず手薄となったGKには、甲府の守護神として2年連続でJ1残留に貢献した、天野大輔が3年ぶりに復帰。さらに、J2の複数クラブでレンタル移籍繰り返し100試合以上プレーしてきた野本淳というキーパーを、浦和から完全移籍で獲得した。

「オファーをいただいた時に、率直に喜びを感じた。再びJ1で暴れようという気概の和歌山に魅力を感じ、復帰することにしました。成長した姿を皆さんにお見せします!」と天野はコメントした。

 FW陣には、元韓国代表でドイツ、イタリアなどでプレーしていたイ・ジョンファンを獲得。ポストプレーや空中戦を得意とし、小松原の穴を埋めた格好だ。

 そしてMF、DFの補強がとりわけ豪華だった。福岡へ貸し出していた近森は、福岡との交渉の末にレンタルバックに成功。また、同じ福岡から攻撃的なポジションをこなす塚原直人も引き抜いた。手薄となった左サイドバックの戦力として、五輪代表でブレイクしたJ3長野のDF吉原裕也の獲得に成功し、広島で持て余し気味になっていたレフティーの菊瀬健太を、右サイドの人材として柏で強化指定を受けたのちに仙台でプレーしていた脇坂レイモンドを、降格した名古屋からは契約満了となっていた小宮榮秦を獲得した。さらに守備の強化としてセンターバックを3人獲得。プレーオフにおいて剣崎と張り合った松本の外村貴司に、湘南の守備の要だったブラジリアン、エデルソン。そして複数クラブの争奪戦の末に、なんと内海秀人の獲得に成功したのであった。とりわけ内海の獲得は専門誌のみならず、スポーツ新聞や一般紙のスポーツ欄でもそこそこの枠を取って報道された。

「正直に言って、金銭面や環境面を言えば和歌山よりもいいクラブはありましたし、湘南でプレーするという選択肢も最後までありました。でも、切磋琢磨のし甲斐があるかどうか、何より松本監督や今石GMから直接『うちの新しい歴史を作ってくれ』と言葉をかけられて、その熱意に打たれました。何より、ここには頼もしいFWがたくさんいますので、守りがいがある。お世話になる以上は期待を裏切らないように全身全霊でやらせていただきます」

 会見で内海はそう語った。ちなみに内海にも竹内と同じように複数年契約であるのと同時に、契約期間中の海外移籍も容認しており、よくよく考えると危なっかしい契約であることには違いないが、2017年のアガーラ和歌山はかつてない陣容で戦うことになった。



「すげえよな・・・ほんと。この5年間はとにかくすごかったな」

 アガーラサポーターが集う居酒屋で、とある男性が感嘆するようにそうこぼした。

「ああ。やってるサッカー自体はカウンターサッカー。それもシンプル過ぎて芸のない、な」

「だけどやってる連中がすげえから、もはや別物だぜ。ここまで化けるとはな」

「J1昇格どころかアジアでも戦って、現役の代表選手がいる。たった5年ですげえステップアップしたもんや」

 誰もが、クラブの変化に喜びを感じていた。



 J2優勝、J1昇格、天翔杯優勝、ACL出場、代表選手輩出・・・5年前、14連敗で地獄を見たクラブは、一人のストライカーの入団によって大きく変貌した。


 そんな彼らも、来年24歳になる。


 Jリーガーの平均寿命にさしかかる・・・。

第5シーズン、これにて完結です。一年間応援ありがとうございました。

来シーズン、主人公たちの年齢がJリーガーの平均寿命(選手生命という意味で)の24歳に差し掛かるので、シーズン6には「アベレージエイジ」という副題をつけようかと思ってます。

作者個人の都合で新シーズンの投稿は来年1月以降になりますが、どうぞお楽しみに。

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