執念
決勝に臨む和歌山のスタメン。松本監督はこんなイレブンをピッチに送った。
GK20友成哲也
DF15ソン・テジョン
DF50ウォルコット
DF2猪口太一
DF19寺橋和樹
MF24根島雄介
MF8栗栖将人
MF32三上宗一
MF5緒方達也
FW9剣崎龍一
FW16竹内俊也
「ん?」
試合開始と同時に、桐嶋は自分に対してマークにつく選手を見た。猪口だった。
「なるほど・・・。あのでかい外国人センターバックは鶴岡さんを。俺にはお前を当ててきたわけか。まあ、さすがだな。マツさんは」
「カズが松本をJ1に押し上げたいって思いを持っているのは知ってる。でも俺だって同じぐらいに和歌山をJ1に戻したいって思ってる。・・・それが俺の責任の取り方だ」
「相変わらず、グチはまじめだな。でも、改めて敵にするには情の残るチームだよな、和歌山は。でも、そう簡単にはやられないぜ」
「わかってるよ。だからあえて言っとく。それはこっちのセリフだってな」
試合の入りは、両チームとも静かだった。まずはお互いに相手の出方をうかがうようにボールを回したり、時折プレスをかけて戸惑わせたりと、ジャブの打ち合いよりもさらに一歩手前。互いにステップを切っている状態であった。
スイッチがかかったのは、根島のインターセプトからだ。
「三上さん!」
相手のパスを奪い取るや、根島は右サイドに展開。受けた三上が仕掛ける。ここ最近はベンチを温めていた中で、大一番で久方ぶりのスタメンに抜擢された三上は張り切っていた。
(最初のチャンスだ。絶対シュートで終わらせてやるぜ!)
一気にドリブルでアタッキングサードに駆け上がった三上は、球足の速い折り返し。しかし、ニアの竹内は間に合わず、ファーの剣崎は相手のセンターバックにマークされてこれもボールを触れずクリアされる。だが、そのボールは猪口が拾い返して栗栖にパス。栗栖はセンターサークル付近ながら、ロングキックを前線に送る。落下点に入った剣崎にマークが集中する。
「囲んできたか・・・だが望むところだ!!」
そして剣崎は伝家の宝刀を抜く。空中で身体を回転させて、天に伸ばした左足でボールをダイレクトにとらえる。
「うらぁっ!!」
渾身のオーバーヘッドシュートがキーパーの正面に飛ぶ。至近距離のシュートにキーパーははじくのに精いっぱい。こぼれ球にまず竹内が反応してシュートするが、これはDFの身体に当たって跳ね返る。
「だったらこれだ!!」
気を取り直した剣崎が、今度はジャンピングボレーで右足を振りぬく。そして見事にネットを揺らしてみせた。勝つしかJ1への道がない和歌山が、前半まだ10分にもならない時間に、先制点を見事に挙げてみせたのだった。
飛び上がってガッツポーズをし、雄たけびを上げて勝ち誇る剣崎に、和歌山の選手たちが次々と飛び掛かって祝福する。その光景を見て、桐嶋は眉をひそめた。
「ちょっと前まで、俺たちもあの中にいたんだよな」
ふと、前線でコンビを組む鶴岡が語りかけてきた。
「やっぱりあいつらはすげえな。ちゃんと仕事する。それも絵になるな。ああいうところは敵わないな」
「鶴さん・・・『敵』をほめ過ぎでしょ」
「ああ、今は確かに敵だ。だからこそ、俺たちは今の俺たちの武器をしっかり示して勝たなきゃな。あいつらのようにな」
「・・・もちろんっすよ。まだ時間は十分ありますしね」
そう。前半だけでもまだ35分は残ってる。サッカーは10秒あればゴールを奪えるとも言われるスポーツだ。一気呵成に攻めてきた和歌山の圧力に屈した形だったが、まだ松本山河の守備が破たんしたわけではない。むしろ球際の攻防はその激しさを増し、容赦のないチャージやスライディングでボールの奪い合いとなる。
「何すんだおらっ!」
「ああっ!?」
そして前半の37分に再び試合が動く。ゴール前の攻防で松本がフリーキックを奪った場面。倒した三上に倒された松本のMFが突っかかってきた。
「てめえいま後ろからやりやがったろ」
「ボール狙ったらたまたま足にかかっただけだよ」
「おいよせ」
「三上さん、その辺で」
それぞれの味方が間に入って事なきを得て、主審が口頭で注意を促した。友成から見て右サイド、角度にして右55度。直接狙うにはやや距離があるようにも見える。ファーサイドに鶴岡が立ちはだかった。198cmもある長身FWを見上げて、栗栖はついつい茶化した。
「相変わらずでかいっすね、鶴さん」
「そうか?まあ大きい方ではあるが、お前らが小さいからそう見えるんだよ」
「確かに」
助走をつけて松本のキッカーがボールを蹴りこむ。ニアに走りこんだ鶴岡が、ウォルコットの身体の寄せをものともせずにヘディングシュートを打つ。それも、ループ気味にファーを狙うコントロールショットだ。逆を突かれた友成は、懸命に反対方向に飛び上がって手を伸ばす。届かなったが、友成は安堵する。
(おっと。ここで触れねえようじゃこりゃボールはゴールラインを割るな)
だが、それを許さなかったのが桐嶋だ。ファーサイドに隠れるように構えていた桐嶋は、見事なスタートダッシュで猪口のマークを振り切った。このボールをジャンピングボレーで叩き込んでみせたのだ。
「ふん。ちょっとは成長してんだな」
友成はニヤついて桐嶋に言う。
「J1には俺たちが行くからな」
桐嶋はそう言い放った。
スコア1-1。これで前半終了。松本が有利の状況で折り返すことになった。




