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70/72

執念

 決勝に臨む和歌山のスタメン。松本監督はこんなイレブンをピッチに送った。

GK20友成哲也

DF15ソン・テジョン

DF50ウォルコット

DF2猪口太一

DF19寺橋和樹

MF24根島雄介

MF8栗栖将人

MF32三上宗一

MF5緒方達也

FW9剣崎龍一

FW16竹内俊也


「ん?」

 試合開始と同時に、桐嶋は自分に対してマークにつく選手を見た。猪口だった。

「なるほど・・・。あのでかい外国人センターバックは鶴岡つるさんを。俺にはお前を当ててきたわけか。まあ、さすがだな。マツさんは」

「カズが松本をJ1に押し上げたいって思いを持っているのは知ってる。でも俺だって同じぐらいに和歌山をJ1に戻したいって思ってる。・・・それが俺の責任の取り方だ」

「相変わらず、グチはまじめだな。でも、改めて敵にするには情の残るチームだよな、和歌山は。でも、そう簡単にはやられないぜ」

「わかってるよ。だからあえて言っとく。それはこっちのセリフだってな」



 試合の入りは、両チームとも静かだった。まずはお互いに相手の出方をうかがうようにボールを回したり、時折プレスをかけて戸惑わせたりと、ジャブの打ち合いよりもさらに一歩手前。互いにステップを切っている状態であった。

 スイッチがかかったのは、根島のインターセプトからだ。

三上ミーさん!」

 相手のパスを奪い取るや、根島は右サイドに展開。受けた三上が仕掛ける。ここ最近はベンチを温めていた中で、大一番で久方ぶりのスタメンに抜擢された三上は張り切っていた。

(最初のチャンスだ。絶対シュートで終わらせてやるぜ!)

 一気にドリブルでアタッキングサードに駆け上がった三上は、球足の速い折り返し。しかし、ニアの竹内は間に合わず、ファーの剣崎は相手のセンターバックにマークされてこれもボールを触れずクリアされる。だが、そのボールは猪口が拾い返して栗栖にパス。栗栖はセンターサークル付近ながら、ロングキックを前線に送る。落下点に入った剣崎にマークが集中する。

「囲んできたか・・・だが望むところだ!!」

 そして剣崎は伝家の宝刀を抜く。空中で身体を回転させて、天に伸ばした左足でボールをダイレクトにとらえる。

「うらぁっ!!」

 渾身のオーバーヘッドシュートがキーパーの正面に飛ぶ。至近距離のシュートにキーパーははじくのに精いっぱい。こぼれ球にまず竹内が反応してシュートするが、これはDFの身体に当たって跳ね返る。

「だったらこれだ!!」

 気を取り直した剣崎が、今度はジャンピングボレーで右足を振りぬく。そして見事にネットを揺らしてみせた。勝つしかJ1への道がない和歌山が、前半まだ10分にもならない時間に、先制点を見事に挙げてみせたのだった。

 飛び上がってガッツポーズをし、雄たけびを上げて勝ち誇る剣崎に、和歌山の選手たちが次々と飛び掛かって祝福する。その光景を見て、桐嶋は眉をひそめた。


「ちょっと前まで、俺たちもあの中にいたんだよな」

 ふと、前線でコンビを組む鶴岡が語りかけてきた。

「やっぱりあいつらはすげえな。ちゃんと仕事する。それも絵になるな。ああいうところは敵わないな」

「鶴さん・・・『敵』をほめ過ぎでしょ」

「ああ、今は確かに敵だ。だからこそ、俺たちは今の俺たちの武器をしっかり示して勝たなきゃな。あいつらのようにな」

「・・・もちろんっすよ。まだ時間は十分ありますしね」


 そう。前半だけでもまだ35分は残ってる。サッカーは10秒あればゴールを奪えるとも言われるスポーツだ。一気呵成に攻めてきた和歌山の圧力に屈した形だったが、まだ松本山河の守備が破たんしたわけではない。むしろ球際の攻防はその激しさを増し、容赦のないチャージやスライディングでボールの奪い合いとなる。


「何すんだおらっ!」

「ああっ!?」

 そして前半の37分に再び試合が動く。ゴール前の攻防で松本がフリーキックを奪った場面。倒した三上に倒された松本のMFが突っかかってきた。

「てめえいま後ろからやりやがったろ」

「ボール狙ったらたまたま足にかかっただけだよ」

「おいよせ」

「三上さん、その辺で」

 それぞれの味方が間に入って事なきを得て、主審が口頭で注意を促した。友成から見て右サイド、角度にして右55度。直接狙うにはやや距離があるようにも見える。ファーサイドに鶴岡が立ちはだかった。198cmもある長身FWを見上げて、栗栖はついつい茶化した。

「相変わらずでかいっすね、鶴さん」

「そうか?まあ大きい方ではあるが、お前らが小さいからそう見えるんだよ」

「確かに」

 助走をつけて松本のキッカーがボールを蹴りこむ。ニアに走りこんだ鶴岡が、ウォルコットの身体の寄せをものともせずにヘディングシュートを打つ。それも、ループ気味にファーを狙うコントロールショットだ。逆を突かれた友成は、懸命に反対方向に飛び上がって手を伸ばす。届かなったが、友成は安堵する。

(おっと。ここで触れねえようじゃこりゃボールはゴールラインを割るな)

 だが、それを許さなかったのが桐嶋だ。ファーサイドに隠れるように構えていた桐嶋は、見事なスタートダッシュで猪口のマークを振り切った。このボールをジャンピングボレーで叩き込んでみせたのだ。



「ふん。ちょっとは成長してんだな」

 友成はニヤついて桐嶋に言う。

「J1には俺たちが行くからな」

 桐嶋はそう言い放った。


 スコア1-1。これで前半終了。松本が有利の状況で折り返すことになった。

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