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無理な数字ではない

「でぇい!!」

 ボールを受けた剣崎は強引にシュートを放つ。しかし、ボールは明後日の方向に消え、頭を抱える。瞬間、終了を告げるホイッスルが響いた。同時に、ベンチや和歌山のユニフォーム(レプリカ含む)を着た人々は沈痛な面持ちとなった。

 最終予選を戦った剣崎たちが戻ってきてからのリーグ戦3試合。プレーオフ安泰どころか自動昇格も無理ではない位置にいた和歌山は、その3試合ともを落として6位にまで後退。気づけば圏外の7位町田とは勝ち点差なしというところまで落ちた。リーグ最多得点を誇る攻撃力ゆえに得失点差で大きなアドバンテージを得ているものの、ことと次第によっては9位まで落ちる可能性を秘めていた。


「今シーズンの昇格について徐々に厳しい状況となっていますが、残り試合についてはどのように考えてますか?」

 遠路はるばる現地取材に来た、専門誌「Jペーパー」の和歌山番・浜田記者からの質問に対し、松本監督は真顔のまま、どこ吹く風と言わんばかりに返す。

「まあ、自動昇格だけが昇格のチャンスではありませんし、圏内に踏みとどまれればチャンスはありますから、まだ僕自身はそんなに悲観してません。ポテンシャルを考えればまだまだ巻き返す力もありますし、一方でみんながまんべんなく疲れているわけですから、こういう結果も起こりえます。楽観も悲観もせず、一戦一戦戦って、必ずプレーオフに出る。それだけ考えてます」


 まんべんなく疲れている。これは和歌山の、いや、松本監督の取り組んできた采配の功罪を表していた。

 剣崎ら代表レベルの選手を4人も抱えているアガーラ和歌山は、選手の質はJ2では破格であった。しかし一方で地方クラブゆえに予算規模は、中堅クラスとされる20億にも届かない。そのため量の部分である選手層は、実はJ1を狙うにはかなり薄かった。この状況で松本監督は、あえてターンオーバーを多用し、試合勘と疲労が偏らないようにした。結果、シーズン終盤のコンディションはかなり苦労しているが、均等に試合に出場しているために誰が出ても同程度のクオリティーを維持できていたのである。

 ただ、正直なところ、残り試合を戦う上でのコンディションは厳しく、ここ最近の練習は相手への対策よりもコンディションの維持・回復に重きを置かざるをえず、ここへきての再失速に至ったのである。


「なんとかあと4試合。勝ち点を6か7積めばプレーオフに行けると踏んでます。そしてこの選手たちにはできない数字ではない。まだ昇格戦線はあれてもらいますよ」



 一方で、その鍵を握っているであろう、チームのエースストライカーは、久々に解禁されたボールを使う自主トレーニングで汗を流していた。

「あと4試合で3点か・・・うらっ」

 そう呟いて、剣崎はシュートを放った。

 3年ぶりにJ2でプレーすることになった今シーズン。剣崎は個人の目標として、J2単独での通算100ゴール達成を定めていた。できたら無論史上初な上、J2でのトップスコアラーは、往々にしてJ1へ引き抜かれていく常なので、更新される可能性も高くない。

 海外挑戦が主流である昨今、剣崎はJリーグでの記録には強いこだわりを持っている。J2はそうそう長居していい舞台でもないために、今季でそれをやってしまいたいという思いは強かった。

 デビューからの2年はJ2で戦った剣崎は、その2年でじつに77得点という超人的な記録を残している。その神がかった決定力はJ1でもそのまま発揮されたのは、読者諸兄にも周知の事実。故に、この更新はシーズン前半であっさりクリアされると見られていたが、代表選出による再三の離脱と、それに伴うコンディションの悪化で思ったようにゴール数を伸ばせず、シーズン残り4試合であと3点残ってしまっている。

 もっと言えば、J2の得点王争いでも、今は後れをとってしまっている。同じくJ1復帰を争う、清水の元北朝鮮代表FWキム・デホが現在22得点でリーグトップをゆく。トップに返り咲くには相手次第でもあるが、とりあえずこちらもあと3点である。



「まあ、俺にゃ難しくねえ数字だし、これができねえようじゃ、ゴールだけでやってきた俺の立つ瀬がねえって話だ。次の試合でハットトリック軽く決めちまうか!」



 次節、和歌山はその清水をホームに迎え撃つのであるが、この時期になるとフライング気味に沸き立つのが移籍市場の話題。今、和歌山にはこんなネタが踊っていたのである。


『日本代表FW竹内、国内外で争奪戦の様相!』

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