表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/72

勝って当たり前

 目下最下位のカークス金沢を、ホームの紀三井寺陸上競技場に迎え撃つアガーラ和歌山。現在の順位はプレーオフ圏内の5位。しかし、直近2試合で同じ圏内のセレーノ(3位)、京都(6位)に連敗。圏外の7位町田との勝ち点が2に縮まっており、もし3連敗となろうものなら町田の結果次第で6位転落、あるいは圏外の7位に順位を落とす可能性を秘めていた。言うなれば崖っぷちである。

 にもかかわらず、紀三井寺陸上競技場に駆けつけた和歌山サポーターの空気は緩かった。「確かに今はヤバいけど、今日は勝てるからどうってことはない」という雰囲気に溢れていた。


「片や日本代表のFWを二人も擁する強豪、片や最下位に沈み選手層も貧弱な弱小。今日の試合を客観的に言えばこういうことだ。特にアガーラに対して強いイメージを持ってここに足を運んでくれたサポーターは、今日は勝ち試合しか見たくないぞ」

 松本監督のどこか他人事のようなつぶやき。言いながら選手を観察して一つ息をはいた。


「よし、どうやら勝てると思っているのは、和歌山サポーターだけのようだな。ここに誰かいたらどうしようかと思ったぞ」

「フン。順位なんかはただの結果論だ。目の前の敵に警戒できないようなら、昇格なんかできっこないし、できたところで一年でのUターンが目に見えてるよ」

 友成がグローブをはめながら言う。眼光は既に臨戦態勢だ。

「第一マツさん、あんたが言ったんだぜ?相手は俺達をリスペクトしてくるって。だったら俺達がやらねえでどうする。あっちが死に物狂いでくるなら、俺達も死に物狂いで迎え撃つだけだぜ」

 鼻息荒く剣崎が続く。他の選手たちも同じような表情だ。

「まあ、それでももう一回言っておく。金沢は負けているとは言え、ここ最近は紙一重のサッカーができている。特に守備に関しては確実に立て直している。とにかく枠に飛ばさせないように、バイタルエリアのスペースを消して、身体を張ってくる。そしてカウンターにおいても夏場に補強した選手がハマりつつある。ミーティングでも言ったが、ブラジル人FWのスピードと強さは侮れん。試合はほとんどの時間帯でウチが主導権を握るだろうが、守備に対する意識を切らすな。最終ラインはオフサイドを確実にとれ。前線もプレスを忘れず、相手DFを慌てさせろ。これらを忘れるなよ」



スタメン

GK20友成哲也

DF32三上宗一

DF34米良琢磨

DF23沼井琢磨

DF14関原慶治

MF8栗栖将人

MF2猪口太一

MF15ソン・テジョン

MF5緒方達也

FW9剣崎龍一

FW16竹内俊也


 発表されたメンバーに、スタジアムは一瞬どよめく。剣崎、竹内の2トップもそうだが、最終ラインがこれだけ若返ったのも久しぶりだからだ。


「しかしなあ・・・今石も監督の時は時々めちゃくちゃやったが、お前も決めたらホント思いきるよな」

 ベンチでふんぞり返る宮脇コーチは、わざとらしくあきれながらつぶやく。

「これでも苦肉の策だよ。確かにウォルコットと辛島のおかげで守備はまともになったが、いつまでも二人に頼るわけにはいかん。実際、移籍間もないころからフル稼働してきたから、ここのところコンディションはよくなかったしな。それに、三上と寺橋も十分任せられるレベルになってきている。試すなら今だよ」

「試すなら今・・・か。攻めっ気を感じられない連中相手に意味あるのか?」

「あるさ。人間は90分集中するなんて不可能だし、かといって集中していなければとっさの場面で100%ミスる。抜き方・・・と言ったら言葉は悪いが、どういう場面で力を入れるべきか。その呼吸を学んでもらうのさ。攻めっ気がない相手なら、なおさらそういうのは大事だろ?」

「なるほ」


「なんかすげえ久々だな。お前と2トップ組むの」

 キックオフ前、剣崎は傍らに立つ竹内にそうつぶやいた。

「確かに。リオでも代表でも、俺は右サイド中心だからな」

「でもよ、俺との2トップは、なかなかいいもんだろ?」

「ああ。しっかり狙わせてもらうよ。お前のシュートミスのおこぼれをな」

「ヘン。ぬかすな」


 そしてキックオフ。


 和歌山は、金沢の執念ともいえる守備に苦しめられることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ