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UAEに対する不安

 ロシアW杯出場をかけたアジア最終予選。日本代表はその初陣を、埼玉スタジアムでUAE代表を迎え撃つ。

 日本と比べれば格下にあたるUAE代表は、28年間遠ざかっている本大会出場に向けて、まさに国をあげた代表強化に明け暮れていた。潤沢な資金力を活かして、本場欧州を凌ぐ待遇を用意することで実力者や有望株の流出を食い止め、代表監督の意向があればリーグ戦を控えていても選手を代表に招集できる体制も整え、代表強化を円滑に進めてきた。さらにこの最終予選に備えて自国メディアすらシャットアウトする秘密合宿を2ヶ月に渡って実施。戦術の浸透や連携の強化を進め、他に類を見ない万全のコンディションで乗り込んできたのであった。


「そういう意味では、この最終予選において、最も当たりたくないチームだ。彼らの仕上がり様と比べれば、我が日本代表は突貫工事の寄せ集め集団に過ぎない。苦戦させられた、去年のアジアカップでの対戦はもはや参考にはならないだろう」


 前日会見において、日本代表の四郷監督は警戒感を強めた。その言い様はともすれば弱気にも見え、記者からこんな質問が飛んだ。


「先程からネガティブな発言が目立ちますが、四郷監督は日本代表が負ける可能性があるとお考えでしょうか」

「心情としてはホームゲームで負けるつもりも勝ち点を与えるつもりも毛頭ない。しかし、サポーターの皆様に臆病者と怒られるかもしれないが、戦略家としての私の中で今日の試合は『引き分けで御の字』だと肚をくくっている。UAEはそれだけの万難を排して日本に乗り込んできている。想像以上の苦戦を強いられるだろう」


 さらに記者会見では語らなかったが、四郷監督はスタメンの選考にも頭を抱えていた。

「軸は欧州組がいいんだろうが・・・。今回ばかりはアテにならん。全員が集まれたのが試合の二日前だから、対策も連携もあったものではない」

 合宿と銘打ったものの、欧州組の合流が遅れた影響で、ゲーム形式の練習はほとんど行えなかった日本代表ができたことは、コンディション調整に主眼を置いたレクリエーションや、得点に直結しやすいセットプレー対策。あとは高校の部活動でやっているような、シュート練習やパス練習といった基礎練習にとどまった。さらにUAEが万全を期しているのを知り、「今更やっても意味がない」と非公開練習もしなかった。


「まあ、勝負は下駄をはくまではわからん。なるようにするか」




 そして試合当日。決戦の地、埼玉スタジアムは360度、日本代表のブルーに染め上げられた。沸き立つコールも「日本!ニッポン!」の大合唱だ。ただ、この中にどれだけJリーグのサポーターがいるのか考えた時に、どうもあまり多くないと思えてしまうのはなぜだろうか。ただ、間違いないのは、この観衆のほとんどが「UAEは手ごわいだろうけど、それでも日本は勝てるだろう」と考えているのは間違いなかった。

 そんな中で、選手たちが入場してきた。

 日本代表のスタメンは、キーパーが浦和の守護神・西山。4バックの最終ラインは、センターがプレミアでプレーする吉江と、AC東京の重森。サイドバックは左がドイツでプレーする酒木、右がオリンピック代表でも活躍した結木。中盤はキャプテンの長谷川と初招集の南條がダブルボランチに入り、左サイドハーフに本条、右サイドハーフには竹内が入った。1トップには昨年のプレミア王者クラブでレギュラーを務める尾崎、シャドーにはドイツ復帰後の活躍が光る加賀美が入った。四郷監督は、欧州組やそれまでの主力を中心としながら、右サイドは叶宮ジャパンの攻撃の肝だった二人を抜擢したのだった。これに和歌山市内と尾道市内のスポーツバーが沸きに沸いたのは言うまでない。


 しかし、そんな期待とは裏腹に、試合は案の定というべきかUAEが主導権を握った。近年の中東勢はサッカーのスタンダードが大きく変貌しつつある。これまでば堅守を活かしてボールを奪い、前線のスピードのあるFWにロングボールを託す「堅守速攻型」から、全体をコンパクトに保ち、パス回しで相手を確実に崩す、いわゆる「ポゼッション型」に変わっているのだ。前者と比べて一朝一夕で成り立つものではないゆえに、成熟に時間がかかるだけでなく現時点の成熟度がダイレクトに反映される。しかし、前述したようにUAEは入念な長期合宿に加えて、国内リーグの協力的な体制、さらに中核として同国史上最高の司令塔として名高いMFオマンの存在もあって、その完成度は四郷監督や日本代表の選手の想像以上に高く、面白いようにホームチームを翻弄した。


『おいおい、スキだらけだぜ』

「くそ!またか!」


 オマンの鋭いスルーパスに反応したFWを止めるべく、日本のセンターバック・吉江が対応に追われる。序盤からUAEはあらゆる方向からパスを放ち、日本の最終ラインの裏を幾度となく通していく。幸いだったのは、FWの決定力が今一つだったことだ。オマンのパスを受けたFWマムクートのシュートはクロスバーに嫌われたが、直前にはポストに嫌われるシュートもあった。ほかにもオマン自身が放ったミドルシュートも枠に飛んではいたが、味方にあたって外すという不運もあった。

 その流れに乗って、日本は先制点を挙げる。

 右サイドでボールを奪った結木が右サイドを疾走。途中、竹内とのワンツーで相手を交わしてアタッキングサードに駆け上がる。そこから中央に仕掛けようとドリブルで仕掛けた時、相手DFに倒されてフリーキックのチャンスを得たのである。このチャンスでキッカーを託されたのは、なんと竹内。ゴール前、入り乱れる敵味方を観察しながら意を決した。

(ベタかもしんないけど、こういう時はあの人だ)

 助走をつけて右足を振りぬいた竹内。狙いはファーサイドのエース本条だ。


「ほう。なかなかいいボールやんか」


 飛び上がった本条は、ドンピシャリのヘディングシュートを叩き込んだ。

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