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大学生より年下のプロ選手

 五輪代表の選手たちが復帰し、昇格戦線もいよいよ大詰めとなる中で、Jリーグはプロアマ混合のトーナメント「天翔杯」のために中断に入る。今年のアガーラ和歌山は1回戦からのスタートで、滋賀県代表の北近江体育大学と対戦する。


「今日対戦する大学生は、ミーティングでも言ったように、予選4試合で2失点しかしていない守備のチーム。MF、DFがしっかりとブロックを作り、FWも前線かしっかり守備をしてくる。なかなか厄介なゾーンディフェンスで守ってくる。だが、『この程度』の守備から点を取れないようじゃ、まだまだ剣崎たちを脅かせんぞ」

 ロッカールームでのミーティングで、松本監督はスタメンの選手たちに厳しい言葉を送った。ちなみにスタメンは次の通りだ。


GK29舳巧

DF6辛島純輝

DF50ウォルコット

DF28古木真

DF19寺橋和樹

MF24根島雄介

MF31前田祐樹

MF25野添由紀彦

MF5緒方達也

FW33村田一志

FW13須藤京一


リザーブ

GK1秋川豊生

DF15ソン・テジョン

DF23沼井琢磨

MF8栗栖将人

MF32三上宗一

FW9剣崎龍一

FW16竹内俊也


 指揮官の言葉に表情をこわばらせたのは、前田や村田、古木といったルーキーたちだった。彼らは今回対戦する大学生よりも年下(というか、スタメンで大学生より年上は辛島とウォルコットのみ)であり、年齢的には上級生と対戦することになる。だが、サッカーを生業として生きる自分たちが、あくまでも学生に過ぎない相手に対して、負けるわけにはいかないという思いが強かった。

 そしてそれが立ち上がりに悪い方向に出た。


(通れ!)

 須藤が視界に入った前田は、やや強引にパスを通そうとする。だが、これがゾーンディフェンスの網に引っ掛かった。奪った大学生は鋭いロングキックで、和歌山最終ラインの裏を取る。

「やばい!」

 古木はカウンターを警戒して、ボールを受けたFWにチャージをかけようとする。

「フルキ!!ムチャ!!」

 ウォルコットはそう叫んで止めようとしたが、時すでに遅しだった。


 古木は背後からスライディングを仕掛けた格好になり、不意打ちをくらったFWは倒される。それがペナルティーエリアの中。しかも、足の裏を見せたとして、主審は一発レッドを宣告したのであった。そのPKも、舳があっさりと逆を突かれて失点。先制点を献上しただけでなく、数的不利に陥るという二重苦に、ピッチを後にした古木はもちろん、失点の原因であるパスミスを犯した前田も呆然とした表情を見せた。

「マエダ!キニスルナ!」

 そんな前田にウォルコットが喝を入れるように背中を叩いた。

「ミス!オレモ、スル!シタ、ムクナ!」

「は、はい・・・」

 短く、シンプルな片言の日本語に、前田はあっけにとられる。そのあとに辛島がアドバイスをした。

「お前な、受け手の須藤ばっかり見てたから取られたんだぞ。コースの間に向こうのボランチがいたの見えてたか?」

「あ、・・・いえ」

「監督は別に『大学生が驚くようなプレーをしろ』なんて言ってないだろ。まずは当たり前のことをきちっとやれ。特にパサーだったら、なおさらのこと周りを見ろ」

「は、はい・・・」

「ま、どんまい」


 一方でロッカールームに消えた古木は、竹内がフォローに駆け付けた。

「ドンマイ。ちょっと厳しい采配だったな」

「す、すいません。足引っ張っちゃって・・・」

 目を潤ませて肩を落とす古木を、竹内はあえて笑った。

「ハハハハ、お前気にし過ぎだって。ああいうプレーは誰だって一度はやるもんだよ。第一、90分無失点なんてそんな簡単にできることじゃないんだぜ。たとえ大学生であってもな」

「そう、でしょうか・・・」

「そうだよ。それに、お前はお前なりに懸命にやったんだろ?反省をするのはいいけど、そうむやみに落ち込むな。ていうかまだ時間はあるんだ。なんとかなるよ」

 竹内の励ましを受けて、古木は幾分気持ちが落ち着いてきた。



「あ~あ、やっちまったな・・・まさかこんな早い時間にやらかすとはなあ」

 宮脇コーチはそう頭をかいたが、松本監督は平然としていた。

「ま、こういうミスは起こりうることだ。あいつは責任を感じているはずだ。だから俺たちが慌てるわけにもいかんだろう」

「ま、違いないね」

「いいかヌマ。向こうのFWが思った以上にスピードがある。向こうの攻撃かロングボールでそれに裏を狙わせるカウンターが攻撃の基本だ。ウォルコット(ティム)とうまくカバーしあって裏のケアを大事にな」

「わかりました」

 急な出番にもかかわらず冷静な沼井。松本監督から説明を受け、その後須藤に代わってピッチに送り出された。

「ちぇ。久々のFWだったのに15分もプレーできなかったっすわ」

 戻ってきた須藤は、栗栖や剣崎らとグータッチを交わしながらドカッとベンチに座った。

「DFの退場のあおりを食いやすいがFWだ。だからと言って、あんまり愚痴んなよ」

「わかってるっスよ。可愛い後輩が、一生懸命やったうえでのミスだ。先輩は、デーンと構えてやるのが一番っすからね」


 こうした先輩たちのフォローもあって、和歌山が苦しかった時間帯は、これ以降ほとんどなかった。

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