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この土壇場で

「くそったれ!!」

 ボールをセンターサークルに向かって放り投げた後、友成は怒りをゴールポストにぶつけた。蹴ってガシャン、殴ってガシャンとたてた音をマイクが拾う。

(なんなんだ、あの無駄のねえシュート・・・。世界を戦う奴らは、あの程度のシュートを打てないと当たり前ってことか・・・)


 このオリンピック期間中、友成は失点こそ重ねているものの、再三の好セーブ連発で目の肥えたブラジル人たちをうならせていた。だが、上には上がいるもので、孤軍奮闘の友成をあっけなく破ってみせるストライカーがこのオリンピックにはいた。友成からしてみれば、こうもあっけなくやられ、悔しさがわいてこない失点は初めての経験だった。


(オリンピックでこのレベルなら、A代表ってやっぱすげえ世界なんだな・・・)


 そう感嘆すると同時に、こんな思いもわいてきた。


(本場欧州のサッカーは・・・どんなんだろうな)



「みんな集中だ!落ち着いていけ!!最後まで走るぞ!!!」


 内海が最後尾からそう檄を飛ばし、日本の選手たちは懸命に抗う。そこに、カウンターのチャンスが来た。近森が相手のパスを読んで足を出してインターセプト。それを南條が竹内につないだ。

「剣崎!」

「待ってたぜぇっ!!」

 竹内のパスに対して、剣崎はゴールを背にして受け、すぐさま薬師寺に叩く。

「行けよ!」

「言われなくてもよ!」

 薬師寺は個人技でペナルティエリアに侵入、シュートを放つ。だが、ボールはクロスバーと叩いて跳ね返る。

『セカンドとれ!連中は前がかりだ!!』

 スウェーデン代表のGK、キレグスキーは味方にそう指示を飛ばすが、真っ先に反応したのは剣崎だった。

「くたばれこんチクショウ!!」

 こぼれ球を右足のボレーシュートでぶっぱなす剣崎。ボールは惜しくもバーの上に飛んでいく。

「だ~っくそ!力んじまった・・・」

「気にするな剣崎!そんな感じでどんどんシュートを打っていけ!」

「そうだぜ。FWたるもの、まずはシュートだ。お前にはゴールのにおいを感じる。だから俺を使うなりしてゴールを狙え!」

 頭を抱える剣崎に、竹内と薬師寺がそう励ます。


 だが、このシーン以後、前半に剣崎が再びシュートを打つことはなかった。息を吹き返したスウェーデン代表のパスワークに翻弄され、埋めているはずのバイタルエリアはズタズタにされる。ザグロヴィッチが前半33分に追加点をこじ開けると、そのままのスコアで前半が終了。日本代表は実に12本のシュートを浴びた。

 後半、メンバーを入れ替えずに臨んだ日本代表は、この男がゴールをこじ開ける。


「友成ぃっ!!!」

 なかなか流れが変わらない中、相手のボールをセーブした友成に対して剣崎は前線から叫ぶ。

「『俺にボールをよこせ』ってか?口だけ野郎が!!」

 剣崎をそう罵りながら、友成は前線に向かって弾丸ライナーを蹴り飛ばした。低い弾道で飛んで行ったボールは、軽い向かい風を切って伸びていく。予想外の一撃にスウェーデン代表の面々は一瞬足が止まる。対して剣崎は周りに目もくれず、ボールが届くであろう地点まで走った。その結果、剣崎はほとんどフリーで受けることができた。

「はっ!さすがだぜあの野郎!!」

 受けた時にはキーパーとすでに一対一。ペナルティエリアの外だったが、剣崎に迷いはなかった。

「よく目ぇひんむいとけ!スウェーデン人!!」

 剣崎が迷いなく左足をふりぬくと、地を這うような猛烈なシュートがゴール左隅を貫いた。


「こうなれば、あとは野となれ山となれ、と行きましょうか」

 点差を縮めた直後から、叶宮監督は交代のカードを切る。近森に代えて結木を投入して右サイドハーフ、薬師寺に代えて桐嶋を投入して左サイドハーフ、トップ下でプレーしていた竹内を最前線に上げて、布陣を基本形と言える4-4-2に変更して得意のサイドアタック戦法で攻めにかかった。


「前が攻めに集中できるように、俺たちも踏ん張るぞ!」

「言われなくても!これ以上失点してたまるかってんだ!!」

 最終ライン、内海の檄に小野寺がそう吠える。サイドバックの真行寺兄弟も同じだ。

「ここが俺たちの正念場だぜ、誠司」

「当たり前だ壮馬。俺たちだって爪痕残そうぜ」

 鼓舞しあう最終ラインに対して、友成は笑いながら叫んだ。

「初めからそうしてろバーカ。遅えんだよ!だったらこっからは点をやるなよ!!」


 徐々にゴールに迫る時間帯が増えた日本を脅威に感じたか、スウェーデンはザグロヴィッチを前線に残して守備的な選手を投入しながら対処する。しかし、またも剣崎がゴールをこじ開ける。

 左サイドで得たセットプレーのチャンス。キッカーの竹内は、マークが一人のニアの小野寺ではなく、ファーサイドでDF二人に挟まれている剣崎をめがけた。

(こういうときにこじ開けられるのは、あいつの『持ってるもの』だ)

 だが、竹内のキックは力みでうまくミートせずに、ニアの小野寺の手前で失速する。

(一人ならなんとか大丈夫だが自信がねえ・・・頼むぞ!)

 一瞬判断に迷った小野寺は、バックヘッドでファーに流すことを選択。その時剣崎はマークが外れてフリーになっていた。竹内のミスキックにつられマーク役の二人がそろって一歩早く動き出してしまっていたからだ。

「おうらっ!!」

 高く跳躍した剣崎は、最長不倒からヘディングシュート。たたきつけたボールはゴールネットの右隅に放り込まれ、同点となった。


 残り時間はアディショナルタイムのみ。日本は竹内に代えて野口を投入にパワープレーに出る。しかし、予選通過のためになんとしても勝ち点を死守したいスウェーデンの守りも固い。そして一瞬のスキが生まれる。全員が敵陣に攻め込んでいた日本代表の裏を取ったザグロヴィッチが、センターサークルからドリブルで独走したのである。

『フン、お前らの悪あがきもここまでだ・・・』

 ゴールを確信したザグロヴィッチは、対峙した友成をあざ笑うかのようなループシュートを放った。

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