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「まあ、まだ決まってないし・・・」という酷評マスコミの言い訳が聞こえてくる

 タイ戦は前半で決着がついた。

 後半になると、日本代表は相手に持たせながら、パスサッカーをただのパス回しに陥らせ、予測不能の小宮のキラーパスに、3トップを走ってゴールに迫り、こじ開けた。開始早々に剣崎の落としに反応した竹内が押し込み早くも3点目となる。ここで叶宮監督が動いた。

 残り時間を40分近くも残しながら、一気に選手を3人代えた。

 ボランチの近森と南條、トップ下の小宮に代えて、サイドプレイヤーの末守と平内、そしてFWの野口がピッチに送りこまれた。同時に、日本代表は布陣を基本形の4-4-2に戻す。

 最終ラインは4バックに変更。交代で入った平内が右、左ウイングで先発していた桐嶋が左サイドバックにまで下がる。内海はボランチの位置に入って猪口とコンビを組み、竹内が右、末守が左のサイドハーフとなり、剣崎と野口が2トップを務める。

 そこからしばらくは、膠着した展開が続き、むしろ平内の裏をとられて危ない場面もあった。しかし、それを凌ぎ、末守と平内が次第に場の空気に慣れてくると、試合終了間際にチャンスを作った。


 平内が意表をつくオーバーラップで前線に駆け上がると、ゴール前にクロス。飛距離が出過ぎたが、ファーサイドの剣崎が懸命に折り返し、それを野口がヘディングで叩き込んだ。守備陣は最後まで乱れることなく二戦連続で完封。4−0の大勝で、あまりにも呆気なくグループリーグ1位で決勝トーナメント進出を決めたのであった。


 その結果、次のサウジアラビア戦は消化試合となってしまったのだが、アンダー世代、五輪世代で数々のタイトルを獲得しているサウジアラビアを、それで済ませる気は全くなかった。


第3戦VSサウジアラビア戦

GK20友成哲也

DF8結木千裕

DF5大森優作

DF19降谷慎吾

DF18吉原裕也

MF3内海秀人

MF10小宮榮秦

MF16竹内俊也

MF22西谷敦志

FW9剣崎龍一

FW11野口拓斗


「ま、サウジはここまでヘタこいてるからね。叩き潰してその威信にたっぷり泥を塗ってやりなさいな」


 かなり攻撃力の高いスタメンとなったメンバーに、叶宮監督はそう言ってピッチに送り出した。サウジアラビア代表は、その高い前評判に対して、彼らから見て格下だった北朝鮮、タイに連続で引き分けるという予想外の展開に見舞われ、勝つ以外に自力突破の目はない窮地におかれていた。逆の立場で言えば、日本がサウジを沈めた場合、中東でもトップクラスの実力を持つチームが決勝トーナメントから消えることで、3枠しかないオリンピック出場へね道筋が見えやすくなるために、日本のみならず他の決勝トーナメント進出国にも都合が良いのだ。もっとも、そんな皮算用をするチームが、得てして敗退という結末を迎えがちなのだが。

 この試合、日本代表は思わぬ敵に苦しめられることになる。


「ええっ!?」


 ホイッスルが響いた瞬間、結木は思わず戸惑いの声を上げた。ドリブルを仕掛けている最中、相手DFが潰しに来たが、倒されずに粘り逆に相手が倒れる。このプレーに対して、自分がファウルにとられたのである。審判がジェスチャーで腕を振る動きを見せるに、どうやら振り払うときに腕が相手に当たったとプッシングの反則を取られたらしい。これに限らず、接触プレーでその多くがサウジ寄りの判定が続いた。それが日本代表に慎重さ慎重さを、サウジ代表に思い切りをもたらし、特に球際の攻防でサウジ優勢の展開が続いた。

 そんなサウジの前に立ちはだかったのは、この日のゴールマウスに立った友成であった。


 前半最大の決定機。一本のパスが日本代表の最終ラインの裏につながる。慌ててオフサイドをアピールするもオンサイド。どフリーとなったサウジのFWが一気にゴール前に迫る。

(フン!あんな小さなキーパー。かわすのにはわけない)

 ゴールを確信したFWはシュートの体勢に入ったが、フリーになった瞬間微動だにしていなかった友成は、いつの間にか眼前に迫り、消えた。

(な!?ってうわっ!!)

 一瞬の戸惑いとともに宙をことになったサウジのFW。友成が持ち前の瞬発力で一気に肉薄。そして足元に潜り込んでボールをかっさらった。友成はさも当然と言うような表情でボールを蹴りだした。このほか、前半は相手の勢いと主審の偏った笛に苦しめられながらも、友成の再三再四の好セーブに救われた日本代表は、どうにかスコアレスでハーフタイムに持ち込んだ。


「とりあえず、笛に関してはしょうがないと割り切るしかないわ。不細工で芸がないだろうけど、ここは馬鹿の一つ覚えで行くわよ。とにかく、ボールを前に送りなさい。そしてFWの4名。イケると思ったらどんどんシュート狙いなさ~い。何のために4人同時で使ってるのかが分からなくなっちゃうじゃない」


 そう言って選手を送り出した叶宮監督叶あが、叶宮監督だが同時に交代カードも切る。笛を過剰に意識して思い切りをなくした降谷に代えて猪口を起用。内海を最終ラインに下げて守備を落ち着かせるとともに、ボールの回収技術に秀でる猪口を小宮と組ませることで、前線にボールを送る回数を増やさんと目論んだ。

 しかし、これはまず裏目に出た。


「くそ、またかよ!」


 オフサイドかどうか怪しい飛び出しで、またもそれをとられなかった瞬間、内海は苦虫を噛み潰す。仕掛けてくるFWを逃がすまいと、猪口がスピードを活かして追いかける。

(よし!追いつける)

 猪口はそう確信する。そんな時、追いかけていたFWが急に減速。一気に距離が詰まった。

(わ、まずい)

 猪口がそう思ったときにはもう遅かった。

 FWは猪口とそのままぶつかり、苦悶の表情を浮かべながら前のめりに倒れる。猪口からしてみれば不可抗力である。しかし、主審はこれをファウルと断じ、猪口にイエローカードを出す。しかも、倒したのはエリア内と判定し、サウジアラビアにPKを与えた。これには日本ベンチ総立ちで猛抗議。

「なんでだって!今日おかしいぞレフェリー!」

「どう見ても外じゃんか!つーかあいつらがぶつかってきたようなもんだろ!」

 小野寺や桐嶋が声を荒げるなか、叶宮監督はシートに深く座ってふんぞりかえっていた。


「ま〜いいじゃないのよ。滅多にない貴重な経験よ、あんたたち。それとも、判定に左右されるメンタルしかないわけ?あんたたち」




 一方で、ゴール前ではPKの段取りが着々と整いつつあった。その中で、友成は泰然自若としている。


「頼むぜ〜、止めろよ友成ぃ」


 剣崎は、友成を見てそう呟く。



 だが、1分後、剣崎は友成に殴りかからんとすることになる。

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