やられた分だけやりかえす
戦前、元々の世界ランキングやコンディションの差から、圧倒的に優位と見られていた日本代表。しかし、大舞台の雰囲気にのまれて試合に入れないうちに、キャプテン内海のミスから先制点を献上。以後は身体能力を活かして一気呵成のナイジェリアに圧倒されて3−1と2点のビハインドを背負った。
しかし、ハーフタイムに剣崎の喝で目を覚ましたイレブンは、後半は別のチームとなり、逆にナイジェリアを圧倒した。
「さって〜とぉ!」
後半開始からピッチに入った南條がアタッキングサードのエリアで得たスローインで、自慢のロングスローを放つ。ファーサイドにまで届いたボールは、剣崎が相手DF二人と競り合ってはたき落とす。
「頼むぞ!誰か!」
セカンドボールに選手が一斉に群がる中、竹内がこれをダイレクトシュート。しかし、ボールはわずかに枠を外し、竹内は頭を抱えた。しかし、相手DFの身体に当たっていたか、判定はコーナーキック。剣崎だけでなく、センターバックの大森、小野寺も上がってきた。
「ほ~。まあまあ高さがあるな日本も。ま、誰もアテにしねえけどな」
コーナーポストに立って小宮はゴール前を眺め、助走からボールを大きく蹴り・・・ださず、目の前に結木に託す。渡された結木はバックパス。受けた南条が小宮につないで今度はシュート性のクロスを打った。まどろっこしいショートコーナーに、ポジショニングもくそもないゴール前。逆に言えばマークをはがしやすい状態。そして自由を得た剣崎が、遅れて飛んできたDFを弾き飛ばしつつ、ヘディングでゴールを奪った。着地と同時にボールを拾い上げてセンターサークルに駆け出した。
「よ~しイケるぜ!!このまま逆転だ!!」
しかし、ナイジェリアもまたしたたかだった。1点差に迫られた後に守備力のある選手を次々と投入しつつ、3枚目のカードには、ジョーカー的な役割をもったストライカーを投入。前がかりになっていた日本代表に、強烈な冷や水を浴びせてきた。
「げっ!抜かれやがった!!」
最後尾で戦況を見つめていた友成は、ロングパス一本で抜け出してきたFWを見て舌打ちする。DFたちも攻め込んでいる中で、絵にかいたようなカウンターが決まり4-2。再び突き放された。
だが、叶宮監督は特に気にするそぶりなく、反撃の手を打つ。吉原を下げて猪口を投入して内海を最終ラインに下げさせ、結木に代えて薬師寺を送り出して剣崎と2トップを組ませた。小宮はこれに伴ってトップ下となり、桐嶋と竹内はいわゆるウイングのようなポジションを取り、日本代表は3-3-4という攻撃特化の布陣に変更。疲労で足が止まっているナイジェリアに最後の反撃を見せる。
まず投入直後に薬師寺が結果を出す。内海のロングパスを受けた小宮が左サイドに散らして、桐嶋がアタッキングサードでサイドチェンジ。受けた竹内は剣崎にパスを出すふりをして、うまく気配を消していた薬師寺にキラーパス。薬師寺はそれを静かに押し込んで1点差に迫る。そして試合終了間際。アディショナルタイムが目安の4分台に差し掛かったころのコーナーキック。剣崎が競り合って落としたボールに、内海、猪口、南条が拾ってはシュートという攻撃を繰り返し、ナイジェリアDFが意地のクリアを見せようかという直前に攻めあがっていた友成がこれを奪い、薬師寺に浮き球のパス。薬師寺はそれをダイレクトボレーで流し込み、ついに日本代表が同点に追いついた。それと同時に試合が終わったのであった。
「前半というか、試合の前から『みんなの期待にこたえたい』って気負って、かえって自分たちを追い込んだというか・・・。そういう中でキャプテンの僕がミスをして足を引っ張ってしまったので・・・正直申し訳ない気持ちでいっぱいです」
終了直後、日本のマスコミにインタビューを受けた内海はそう反省の弁を並べた。
「その中でね、剣崎とか、薬師寺とか、点の取れる選手が自分の力を示してくれたので。次に向けて、僕たち守備陣がしっかり集中して、残り二試合戦っていきたいと思います」
二日後の第2戦。コロンビアに挑む日本代表のスタメンはナイジェリア戦と同じだった。
一試合目を消化したことで緊張がほぐれた日本代表は、前半からアグレッシブに攻める。積極的にサイドから攻撃を仕掛け、吉原の果敢なオーバーラップからのクロスを野口が頭で押し込んで先制する。さらに、竹内の突破から生まれたチャンスで剣崎が二戦連続ゴールとなる2点目を叩き込み、初戦スウェーデンに2-0で勝利したコロンビアを圧倒する。だが、ハーフタイム直前に大森が不用意なPKを献上して決められると、後半にオーバーエイジで出場していたコロンビア屈指のストライカー・モーガンが投入されると、圧巻の4人抜きドリブルからの同点弾、さらにペナルティエリア外からの強烈な逆転弾を叩き込まれて試合をひっくり返される。さらに、もう一度同点へという機運を高めたいところで小宮が足を痛めるアクシデント。さらに大森が二枚目のイエローカードを受けて退場となり数的不利にも陥った。
それでも、剣崎がその逆境を跳ね返した。
「ヤクっ!!」
ボールを左サイドでキープしていた薬師寺(野口と交代)に、ゴール前の剣崎は叫ぶ。前後は相手DFが集中的にマークしている。
(だが、あいつなら二人がかりでも勝てるだろうよ!)
笑みを浮かべながら薬師寺はクロスを放つ。期待通り、剣崎は競り勝ってそれをバックヘッドでファーに流す。角度のないところから竹内がダイレクトで合わせてゴールネットを貫き、またも終了間際に追いついて勝ち点をもぎ取ったのでった。
だが、この日、スウェーデン代表がナイジェリアを2-1で下したために、日本はグループリーグの3位に。メダルをとれるかどうかは、スウェーデン戦にすべてがかかることになった。




