容赦のない景気づけ
4月。熊本を巨大地震が襲い、多くの人名と日常を奪い取った。
Jリーグクラブの熊本ロッソモッコスも例外でなく、選手や関係者が被災した上、ホームスタジアムのKKウイングが災害活動拠点となったために、試合延期や代替地開催を余儀なくされた。現在はホームで試合開催が可能となったが、夏場手前の時期に過密日程となり、和歌山を迎え撃つ今節ののちに順延分を戦うことになっている。
「やはりというべきか、熊本は今過密日程を戦うなかで、コンディションを重視したオーダーになっている。初スタメンが5人、初出場が2人と、かなりフレシキブルなメンバーになった。相手の連携が未熟なところは付け入りようはあるが、逆に武器がわからない。俺たちがやるべきは、『決まりごとを徹底して、いかに自分達の良さを見せつける』かだ」
試合前のロッカールームでのミーティング。松本監督は「分かっているとは思うが」と、いつものような前置きをしてこう話した。さらに、こうも続ける。
「言えるのは向こうは間違いなくウチをリスペクトしてくる。相当に出足は厳しくなると思う。だが・・・ハッキリ言って『熊本程度』に苦戦しているようじゃ、とてもではないがJ1に帰れん。特に、オリンピック代表が揃っている中でな」
松本監督は、時として相手チームを見下すような発言をする。これは相手を低く見ているのではなく、選手たちの自覚を促すという意味でのハッパだ。本当に見下しているとしたら、事前に丸二日熊本戦のDVDを見て対策を立てたりしないだろう。
「メンツが変わっても熊本がやろうとする基本コンセプトは同じだ。だが、経験の差、実戦勘の差があれば、ズレる瞬間がある。そのズレを見つけたら容赦なく突いていけ。序盤は焦らず探れ。いいな」
スタメン
GK20友成哲也
DF15ソン・テジョン
DF4江口大吾
DF34米良琢磨
DF19寺橋和樹
MF2猪口太一
MF24根島雄介
MF16竹内俊也
MF5緒方達也
FW9剣崎龍一
FW11櫻井竜斗
立ち上がり、松本監督の予定通り、試合は静かに進んだ。熊本はカウンターを狙うべく、あえて餌を垂らしたようにインターセプトのチャンスをちらつかせる。だが、奪われてもすぐに奪い返し、重心が前後してぶれた相手のスキを突こうと虎視眈々だった。
(確かに、熊本はいい連携をしている。まともな攻めじゃきっちり対応をするだろう。・・・だったら『まともじゃない』奴で揺さぶるまでさ)
竹内は熊本の選手たちを観察したのち、前線の櫻井にボールを預ける。受けた櫻井は、いつものようにのんきそうにつぶやく。
「オッケ〜っす。んじゃ、俺っちのドリブルで揺さぶっちゃうか〜」
首をゴキゴキと鳴らした後、まさに『櫻井ワールド』と言うのがしっくりくるドリブルを仕掛けた。
ボールを奪えそうで奪えず、ゆっくりしているようで俊敏な、櫻井の独特なステップが織り成すドリブルは、熊本の選手たちを戸惑わせた。
「んじゃ、これで最後」
バイタルエリアでボールをキープし、相手の視線が自分に集まったと感じるや、ゴールに背を向けて、弾丸のように鋭いヒールパスを放つ。そこには、いつの間にかフリーになっていた剣崎がいた。
「よっと!」
至近距離からの強烈なパスを、剣崎は右足で方向を変えるだけのようなシュートでゴールに押し込んだ。
熊本の選手たち、さらには監督はじめベンチの面々も、そのゴールに唖然とした。櫻井のドリブルが強烈だったのもあるが、あれだけ存在感のあるストライカーが、その瞬間まで息を潜めてマークを外したことだった。
「ずるいよな〜剣崎は。おいしいとこ持ってくんだからさ〜」
「ハン。ゴールが俺の仕事だかんな。いいドリブルだったぜ、サク」
わざとらしく膨れっ面をした櫻井に、剣崎は笑いながら頭を叩いた。
「さーて、連中は今浮き足立ってやがる。もう一押しといくぜ!」
そのゴールから2分もたたないうちに、和歌山は追加点を挙げる。
「せいっ!」
熊本のシュートをさばいた直後、友成は強烈なキックでボールを一気に前線まで蹴り飛ばす。ボールを受けた竹内は、そのまま右サイドをかけ上がる。
「いけぇっ!」
竹内はバイタルエリアを見やるや、鋭いクロスを放り込む。標的の剣崎がヘディングで狙うも、熊本はセンターバックが二人がかりで対応し、打たせない。だが、逆サイドに流れたボールを拾った緒方は、角度がないにも関わらず、狙った。
「うっ!」
緒方のシュートは、キーパーの脇とゴールポストの間を滑り込んでネットを揺らした。瞬く間の追加点に、熊本の選手たちは愕然となった。
「なんだよこいつら・・・。代表の選手だけじゃねえじゃん」
「ほんなこつすごか〜。こりゃ言葉が出んばい」
戦意を喪失する熊本の選手たちだが、それを懸命に鼓舞するのは、サポーターの声援であった。震災後、積極的に支援活動を行ってきた選手たちに、サポーターたちは「次は自分たちの番」とばかりに、ゴール裏から声援を送る。
「気持ちを切らすな!まだ前半だ。そう簡単にやられんな!俺たちが簡単な相手じゃないことを見せつけるんだ!!」
最前線から、地元出身で元日本代表のFW真木がイレブンを鼓舞。再開後、熊本の選手たちに再び生気が宿り、和歌山と真っ向勝負を仕掛けてきた。
「前半の残りは0で守り切るぞ!最終ライン集中切らすな!!」
「仕掛けは自分のゾーンに入ってから止めに行け!うかつに出るなよ!」
対して友成と猪口の声が飛ぶ。若い選手が揃えられた和歌山の最終ラインは、この熊本の攻撃をしのぐ。二度ほどフリーでシュートを打たれたが、友成が何事もなかったかのように防ぐ。
「てめえら程度に失点してちゃ満足してリオに行けねえ。悪いが完封させてもらう・・・ぜっ!!」
友成はそうつぶやいて、もう一度前線にボールをけり上げる。今度は、左サイドの緒方がそれを拾う。前掛かりになっていた熊本の背後を突くドリブルで一気に攻め上がった。
「どうせなら・・・3点目だ!」
緒方はアーリークロスをバイタルエリアに入れる。それに剣崎はダイビングヘッドで飛び込む。
「うおりや!!」
剣崎の額はボールを捉え、ネットを揺らす。前半は3-0で折り返すことになった。




