リオへのメンバー決定
奈良ユナイテッドは、和歌山とほぼ同時期にJリーグに昇格した地方クラブである。和歌山とは隣県とあって長らくライバル関係にあったが、今はすっかり水を開けられてしまった。そのため、一昨年にユース年代や大学サッカー界でコーチとしての経験豊富な新発田新監督を迎えて、GMも兼ねた新発田監督の人脈を活かして若い選手を次々と獲得。選手の3分の2以上を入れ替えた。
そんな若いチームの本拠地に乗り込んだ和歌山のオーダーは次の通り。
GK20友成哲也
DF15ソン・テジョン
DF4江口大吾
DF23沼井琢磨
DF19寺橋和樹
MF24根島雄介
MF2猪口太一
MF16竹内俊也
MF5緒方達也
FW9剣崎龍一
FW36矢神真也
「なんかすんげえ変わったよな、奈良。俺たちが知ってる選手いねえじゃん」
「監督も変わって、方針も変わったんだろ。あの新発田って監督は、Jのユースや大学とかでコーチやって人脈が広いらしい。若手かき集めて育てて『育成型クラブ』ってのをウリにするらしい」
剣崎のボヤキに、竹内はそう説明する。友成は、そんな奈良の方針を鼻で笑った。
「ま、早い話選手を売って移籍金で儲けようってとこだろ。弱いところは弱いなりに知恵を絞ったってわけだ」
「でも日本でウケるのかな?そういうクラブ。それに毎年選手が入れ替わるからそうそう上はめざせないぞ」
猪口の懸念に友成は同調した。
「育成ってのは若手を集めりゃいいってもんじゃないし、そもそも育成ばかりに心血注いで勝敗をおざなりにしたらプロ興行としては論外だ。その辺が分かってるのか、とりあえずその厳しさを俺たちが教えてやればいい。リオに行く俺たちが力の差を見せつけるんだ」
そこで友成はニヤリと笑った。
そして試合は、まさに格の違いを見せつけるものとなった。
「もらったっ!!」
開始してまだ2分、奈良の最終ラインの裏をとった剣崎のもとに、竹内から良質なパスが届く。剣崎はそれをダイレクトシュートでゴールに突き刺したのである。さらにその1分後には、緒方からのクロスを剣崎はDF二人を背負いながら折り返し、矢神のゴールをアシストしたのである。
「すげえ・・・。あれが剣崎か・・・。なんて馬力だよ」
奈良のキーパー長川は、唖然と立ち尽くすしかなかった。
さらに竹内の3人抜きドリブルからのシュートや、猪口の強烈なロングシュートが次々とネットを揺らし、前半だけで4点を奪った和歌山。これだけの大量得点にも守備陣は集中を切らさず、守護神友成も安定した守備を見せた。
ハーフタイムを挟んでの後半、松本監督は剣崎と竹内を下げて小松原と三上を投入する余裕のある采配。その小松原のポストプレーから矢神がこの日2点目のゴール。終盤には猪口に代わってルーキーの古木がJ初出場を飾り、5-0で快勝した。
そして数日後。
都内の日本サッカー協会にて、リオオリンピックな本大会出場メンバー18選手の発表が行われた。
「まずはゴールキーパー。アガーラ和歌山、友成哲也。甲府バンディッツ、天野大輔。以上」
五輪代表の黒松ヘッドコーチがメンバーを読み上げ、まずキーパー部門で記者たちがざわついた。最終予選までメンバー入りしていた渡が落選したからだ。
「ちょっと〜。このぐらいでざわつかないでよ〜。まだキーパーしかいってないんだから静かになさいな」
ざわつく記者たちに、叶宮監督はそう笑った。
続いてDF部門。黒松ヘッドコーチが読み上げた。
「湘南ポセイドンズ、内海秀人。鹿島エンペラーズ、小野寺英一。大森優作。浦和グレンバッツ、真行寺誠司。真行寺壮馬。ジェミルダート尾道、結木千裕。長野FC、吉原裕也。以上」
ここでもざわめきはちらほら。まず暫く代表から離れていた小野寺が復帰。一方でレギュラーに定着していたと見られた降谷らが落選となった。そしてMF部門。
「アガーラ和歌山、猪口太一。名古屋ギカンテス、小宮榮秦。アビンシャス福岡、近森芳和。フランクフルト、南條淳。以上」
ここでは、抜擢されていた亀井、茅野が落選したが、むしろ近森の選出のほうがざわついた。そしていよいよFW部門。
「アガーラ和歌山、剣崎龍一、竹内俊也。松本サンガ、桐嶋和也。ジェミルダート尾道、野口拓斗。サンダーランド、薬師寺秀栄。以上」
ここでまた一つざわめいた。しかも、渡の比ではない。フラッシュも一斉にたかれる。西谷は本戦出場決定に貢献しただけでなく、この叶宮ジャパンにおいて数少ないA代表経験者である。その反応を叶宮監督は楽しんでいた。




