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22番目

 スカッとするぐらいに雲一つない青空。デーゲームで行われた、紀三井寺陸上競技場の町田とのリーグ戦。

 今シーズンからJ2に「復帰した」町田レオーネ。J3が発足する前に、プロアマ混合のJFLを戦い抜いて一度はJ2に昇格したものの、最下位に終わって一年でその場を去った。そして新たに発足したJ3を2年間戦い抜き、昨年末、J2ブービーの大分との入れ替え戦を制して念願のJ2復帰を果たした。

 前年、一つ下のカテゴリーから入れ替え戦を制して上がってきたクラブは、J2であれば「22番目のクラブ」とシーズン前はまず最下位扱いをされる。故に、どう補強し、どう実力を上乗せして開幕を迎えられるかが重要なのだが、町田は見事なスタートを切った。

 開幕戦こそ落としたものの、そこから7戦負けなしで勝ち点を重ね、直近3試合は2勝1敗。セレーノ大阪、清水と言った優勝候補からも勝利を挙げるなど快進撃を続け、現在和歌山の上の順位に位置している。手ごわい相手であるが、逆に言えば勝てば和歌山にとって再浮上のきっかけとなりえる格好の相手だ。


「まあ、昨日も言ったが、町田は決して最下位筆頭のチームじゃない。江川もそうだが、守備に関しても五輪代表の選手がいるから、質に関してはウチと互角といっていいだろ」

 試合前の和歌山のロッカールーム。スタメン選手の前で松本監督は最終確認をしていた。

「おそらく向こうのセンターバック、降谷は剣崎とタイマンとなることだろ。そうなればむしろ好都合だが、剣崎、降谷は任せたぞ」

「はっは、頼むなんて心外だなマツさん。あいつとはチームメートしてしかやってないからな。この俺を潰しにくるんだったら上等だぜ」

「で、そう言う意味ではお前は心外かもしれんが、剣崎が抑えられている間、お前の働きがカギだぞ。小松原コマ

「剣崎の二番煎じね・・・ま、正直気分良くないけど、未来のA代表としがないJ2リーガーじゃ仕方ない。試合の主役になれれば問題ないしな」

 自虐的に笑って、最後は自信を見せた小松原。強力な大型ストライカーが今日の和歌山の2トップだ。スタメンとベンチ入りは次の通り。


スタメン

GK20友成哲也

DF15ソン・テジョン

DF22仁科勝幸

DF4江口大吾

DF14関原慶治

MF2猪口太一

MF24根島雄介

MF16竹内俊也

MF5緒方達也

FW10小松原真理

FW9剣崎龍一

リザーブ

GK1秋川豊生

DF21長塚康弘

DF34米良琢磨

MF25野添有紀彦

MF31前田祐樹

MF32三上宗一

FW36矢神真也


「ようエガ。元気そうじゃん」

 ピッチへの入場を待つ間、町田の江川に猪口が声をかけた。

「おっと。五輪代表の主力選手に声をかけられるとは、俺もやっとプロの戦力になれたってことかな?」

「よせよ。かつての相方に、そう言う謙遜はやめろよ。才能はお前のほうがあったんだから」

「相方ね・・・。ボランチでもセンターバックでもお前といつも組んでたからな」

「その度にいろいろ言われたよな。『あんなチビとガリガリで大丈夫か』って」


 猪口と江川は、ユースのころから常にその体格で見下されるような言葉を浴びてきた。その度に努力を重ねて結果を残し、剣崎ら豊富な攻撃陣を下支えし、ユースで黄金期を築いた。口を開けば、お互い話がつきなくなってくるが、和歌山の広報である三好が「そろそろ入場で~す。選手とエスコートキッズの皆さんは整列して手をつないでくださ~い」と合図すると、二人は表情を変えた。


「お前とガチでのタイマンは初めてだ。かかってこいよ、グチ」

「そのケンカ、買ったぜ。お前を封じて俺たちが勝つよ。エガ」



 試合はホームの和歌山ボールでキックオフとなった。


「おっと来たか」

 剣崎は、自分のマークについてきた降谷に笑みを浮かべた。

「この試合じゃエガばっかりに注目が集まってるけど、町田一番の出世頭はてめえだろ?俺を潰しにくるのは当然か」

 鼻で笑う剣崎に、降谷は憮然とした表情を見せる。

「『お前ごときじゃ止めらんない』って顔だな・・・。まあ、出世頭なんてほめ言葉をもらったからな。今日はお前をゴールから突き放してやる」

「おう!やれるもんならな。敵としての俺の凄みを思い知らせてやらあ」


 右サイドでボールをキープした竹内は、ドリブルでじわじわ仕掛けながらゴール前を見る。そして敵としての降谷の存在感を早くも感じていた。

(嫌な感じだな。降谷って、味方の時は頼もしく感じたけど、いざ敵に回したら厄介そうだな)

 試しとばかりに、剣崎に目がけてクロスを上げる。マークについている降谷とともに反応し、動きだした剣崎だが、わずかの差で降谷が先に振れ、跳ね返したり、コーナーに逃げたりして剣崎に収めさせない。

 同じように左サイドから仕掛けてみるも、結果は降谷がリード。それを見た緒方は生唾を呑んだ。

「すげえ・・・剣崎さんよりも早く反応出来てる。・・・これは相当骨折れるな」


 降谷がJ3から上がったばかりのチームから五輪代表のレギュラーにのし上がれた一番の要因は、この判断の良さ、早さだった。視野の広さを活かして出し手の狙いや受け手のポジショニング、パスコースに対する味方の位置取り、距離、風向きなどを素早く消化して最善の動きを取る。センターバックとしては、どちらかとしては標準的な体格ながら、アジアカップ制覇に貢献できたのも、こういう武器があるからだ。ましてや、和歌山の攻撃は、剣崎と竹内を軸としている。チームメートとして二人の特徴を知っている彼にとって、剣崎封じは決して難しい任務ではなかった。


「はは。やるじゃねえかフル。俺にボールを入れさせねえなんてよ」

「お前らのことは知っているからな。今日は仕事を休んでもらうぜ」

 剣崎の物言いに、負けじと言い返した降谷。手応えを感じているからか、表情もいい。

 そんな降谷に、剣崎は敵ながら釘を刺した。

「言っとくが、俺はこんなもんじゃねえぜ!せいぜいいい気になっとくんだな!!」

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