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続くものは途絶えるものでもあるが・・・

 カタール・ドーハ。


 この地で、アジアの国に3つしか与えられていないオリンピックへの椅子をかけて、叶宮勝良監督率いるU-23日本代表が、最終予選の火花を散らす。ドーハと言えば、ロスタイムの失点でアメリカW杯出場を逃した、いわゆる「ドーハの悲劇」の地である。いささか古臭いネタかもしれないが、日本のサッカー界にとっていささか縁起はよろしくはない。だが、オリンピック出場を決めることができれば、そのフレーズも少しは錆びつかせることができるだろう。ましてや、この地で戦う代表メンバーはその悲劇の年に生まれた選手ばかりである。試合前のミーティング室で叶宮監督がそれに触れたとき、きょとん顔がちらほら出てきたあたりに「時代よね~」とぼやかせた。


「ま、いよいよ、日本国民、少なくともサッカーファンにとって『100点以外は許されない』戦いが始まるわ。連続出場なんて、いつかは途切れるものなのに。いつの間にか日本ではオリンピックは『出て当たり前』ってなっちゃってるわね。女子と違って男子サッカーは、世界から見れば雑魚同然なのにね。ひいきに見積もっても、棒切れで倒されちゃう序盤のボスぐらいなのよね~」

「嫌な表現ですね監督。これから試合だってのに・・・」

 キャプテンマークを巻く内海のボヤキに、叶宮監督は蔑むように言う。

「言いたくもなるわよ~。アジアですらろくすっぽ勝てない『外れ世代』がオリンピック目指すなんて、ちんけなコントよりも笑えちゃうわよ~!・・・・もっとも、外れは外れでも『規格外』だけどね」

 笑みの色が、蔑みから自信に変わる。選手たちの目の色も、火が付いているの分かった。

「アジアで結果を残せなかったのは事実だけど、それでそう決めつけてる節穴連中に、きっちりと教えてあげなさい。この五輪代表は、歴代史上最強の得点力を有しているとね。北朝鮮、タイ、そしてサウジアラビア・・・いえ、グループリーグのみならず、決勝まで、とことん暴れ尽すのよ~!!!」


リオデジャネイロオリンピックアジア最終予選

日本代表メンバー

GK1渡由紀夫

MF2猪口太一

DF3内海秀人

DF4小野寺英一

DF5大森優作

MF6茅野優真

MF7桐島和也

MF8結木千裕

FW9剣崎龍一

MF10小宮榮秦

FW11野口拓斗

GK12天野大輔

MF13末守良和

DF14真行寺誠司

DF15真行寺壮馬

FW16竹内俊也

MF17近森芳和

DF18吉原裕也

DF19降谷慎吾

GK20友成哲也

MF21南條淳

FW22西谷敦志

MF23平内圭介


グループリーグ第1戦

VS北朝鮮代表


GK渡由紀夫

DF真行寺誠司

DF降谷慎吾

DF大森優作

DF真行寺壮馬

MF内海秀人

MF結木千裕

MF茅野優真

MF桐島和也

FW剣崎龍一

FW西谷敦志



「さーてアツよ。いよいよオリンピックに向かっての最後の戦いだ。一暴れといこうぜ!」

「言われるまでもねえよ。しかし、当たりの強い北朝鮮相手に肉弾戦か。けっこうキツイ試合になりそうだぜ」

 センターサークルでボールをセットした時、剣崎は2トップを組む西谷に威勢良く声をかける。西谷はそれに頷きながら、予想される試合展開に表情を強張らせる。

「なんだよらしくねえな。ビビッてんのか!?」

「そうじゃねえよ。・・・まあいいや。とりあえず、俺たちがやることは一つだ」

 剣崎の冷やかしがしゃくにさわったか、西谷は口にしかけた反論を飲み込んだ。


 日本代表の布陣は、4バック、ボランチ1枚、2トップの下に攻撃的MF3人を横一列に並べた4−1−3−2。キックオフから、剣崎と西谷の2トップは、北朝鮮代表の最終ラインを、持ち前の馬力で押し込む戦法をとった。サイドからひっきりなしに入れられるクロスを剣崎が前線でキープ。ショートパスを繋いでの地上戦は西谷が強引なドリブルで突っ込む。その競り合いでこぼれたセカンドボールは、茅野がいち早く反応して積極的にシュートを放っていった。

 北朝鮮代表は、オーバーラップの度に生まれるスペースを突こうと試みるが、久しぶりにスタメン起用された真行寺兄弟は帰陣も早くセンタリング一回も一苦労。仮に上がったとしても、大森のヘディング、渡のパンチングにことごとく跳ね返され、受け手のエースFWは降谷が徹底的に潰した。

 しかし、なかなかゴールを割るに至らない。北朝鮮もまた、持ち前の馬力と粘り強さで日本代表に対峙。特にバイタルエリアではなりふり構わず身体を投げ出してきた。


「んぎゃっ!!」

 コーナーキックの場面。剣崎は空中戦の際に、マークにつかれたDFが肘を振り上げてきた。無我夢中の勢い余って、という風に見えたが、顎をアッパー気味に打ち抜かれた為に、剣崎はしばし立ち上がれなかった。

「おいおいレフェリー!ヒジ入ってるって」

「くそっ、モロ入ってねえか?剣崎大丈夫か?」

 茅野がジェスチャーを交えてレフェリーに抗議するもとりあってくれなかった。仰向けにのびている剣崎を、桐島が駆け寄って頬をはたく。


「う〜ん・・・なんだなんだ?頭ボーッとすんなあ・・・」

「とりあえず一回ピッチ出ろ」

 虚ろな表情で立ち上がる剣崎を、西谷が治療を促すが、剣崎は拒絶する。

「冗談じゃねえや!!やられたまんまでいられねえ!!すぐにシュートぶちこんでやる!!」

 そう勇んで、剣崎はピッチに戻る。

「やられたらやり返すってか?どんだけ単細胞なんだよ」

 西谷は苦笑いを浮かべ、取り残された救護スタッフに、剣崎と自分の額を指差し、「あいつ頭おかしい」のジェスチャーをした。



 だが、剣崎の執念で実際にゴールがこじ開けられることになる。中盤で相手のパスをカットした内海が右サイドにつなぎ、受けた結木が相手DFを切り返しで振り切ってアーリークロス。これを剣崎は正対して胸でトラップする。普通ならば、そのまま右足でシュートするところだ。だが剣崎はそれを良しとしなかった。

(ただ打つだけなんざもったいねえや。肘鉄喰らった分、倍にして返してやる!)

 そう思考し、右足をゴールとは逆の方向に踏み出すと、それを軸に反転。左足でシュートを打った。回転の勢いで放たれた一撃は、ゴール右隅のわずかな隙間を貫いた。


「俺に肘鉄喰らわした礼だこんにゃろい!!」



 剣崎は得意気に拳を突き出した。

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