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ポルトガルでひと暴れ

「あいででで・・・何度乗っても飛行機ってヤなもんだな」

 空港のロビーでストレッチをしながら、剣崎はぼやいた。大きな体を、カッターシャツを裂かんとばかりに伸ばす。

「日本国内じゃ、乗ってもせいぜい二時間だ。海外に行くときは、こういう長距離移動にも慣れないとな。まあ、俺も偉そうなこと言えた口じゃないけどな」

 苦笑する内海を下ろし、さらに首を回す渡を見て剣崎は思った。

「しかし・・・なんつうか変わったな、今回の面子。海外組が多いの分かるけど、知らねえ奴が何人かいるな」

「ま、俺の場合は今年はベンチ要員で、暇だから来たまでだ。だがヒデ。お前の方はコンディションどうなんだ?」

「まあ・・・正直言って、生まれて初めて・・・いや、サッカーやり始めて初めてだな。『サッカーしたくねえ』って思ってるのは。気持ちは満々だが、身体はガタがきてる感じするわ」

 渡に言われて、内海はぽつりと本音を漏らした。


 今回のポルトガル遠征では、現地でメキシコ代表とポルトガル国内リーグの強豪・スポルツィオFCと試合を行う。メキシコは前回大会王者であり、スポルツィオはここ10年で4度リーグ優勝の強豪、ヨーロッパクラブの頂を目指すチャンピオンズリーグにも2度出場している。どちらも日本代表には格上であったが、メダル獲得を目指す上では格好の試金石でもあった。

 そのメンバーが次の18人だ。

GK

友成哲也(和歌山)

渡由紀夫(川崎)

DF

内海秀人(湘南)

大森優作(鹿島)

降谷慎吾(町田)

吉原裕也(長野)

結木千裕(尾道)

灰村柊哉(鳥栖)

MF

猪口太一(和歌山)

南條惇(独フランクフルト)

茅野優真(豪ゴールドコースト)

小宮榮秦(名古屋)

FW

剣崎龍一(和歌山)

竹内俊也(和歌山)

桐嶋和也(松本)

西谷敦志(伊フィレンツェ)

天宮礼音(独デュッセルドルフ)

薬師寺秀栄(英サンダーランド)


 メンバー発表時に大きな話題となったのが、叶宮ジャパン異例の初召集となったFW薬師寺。複数のJクラブユースのセレクションで不合格を連発し、辛うじて入った高校でも公式戦はおろか練習試合もまともに出られないほどの選手だった。体格自体は剣崎と変わらないのだが、技術の拙さから「素人以下」と指導者から罵られたこともあった。それでも自分を信じて高校卒業後に単身ドイツに渡ると、同国六部リーグに潜り込むと、偶然里帰りの暇を持て余していたスペイン二部リーグの関係者の目に留まり、そこからはとんとん拍子の出世街道。ついに昨年秋にプレミアリーグのクラブと契約を勝ち取り、エースストライカーとして活躍している。

 一方で、五輪最終予選はもとより、長らく代表の主力だった、小野寺や真行寺兄弟、近森らがここへきて落選。叶宮監督は「まあ、内海とか小宮とかを呼んどいて説得力ないだろうけど、J1の選手は疲労を考慮しておこうかと思ってね」とはぐらかしたが、「いざ本番は『実績』よりも『鮮度』よ」ともハッキリ言い切った。

「出たかったら、今持ってる『才能』をしっかり醸し出す『鮮度』を保ちなさいってことよ」



「・・・薬師寺だ。ポジションはFW。俺はお前らとはモノが違う。以上だ」


 その日の宿舎でのミーティング・・・というより、夕食の席上で、叶宮監督に半ば強引に促されて自己紹介することになった薬師寺は、その語り口から選手たちを戸惑わせていた。というのも宿舎で合流してから、明らかに自分たちに対して敵意をむき出しなのである。ただ単に「お前らに負けてたまるか」という反骨心だけならむしろ大歓迎なのだが、自分を切った日本国内のユースのコーチやクラブのスカウトに対する逆恨みだったり、世界最高峰のプレミアリーグでのプレーを勝ち取った自負からくる見下しだったり、放つ敵意の奥には様々な感情が入り乱れている。長い髪を前に垂らして片目を隠している風貌も、その怖さを増長していた。そんな「腫物」に、何の躊躇もなくケンカを売った命知らずが、この叶宮ジャパンにはいたのだ。


「おうおうおう。言ってくれるじゃねえか新入り。点を取るって言うのは俺様の専売特許だ。雰囲気でケンカ売ってねえでまずはこのエースである剣崎龍一様を黙らせてみろってんだよ。ああん?」

「・・・・」

 すごんできた剣崎に対して、ひるむことなくむしろ額をこすりつけてくる薬師寺。互いにごつごつと額をこすりつけあってのガン飛ばしである。

「なあアツ・・・昔のドラマであんなシーンなかったか?」

「ああ~・・・なんかあったな。ヤンキー同士の抗争かなんかのな」

 ささやいてきた猪口に対して、西谷も引き気味に同調する。一方で友成はこの二人を見て、どこか感慨深げに思っていた。


(まだプレーを見てないが、こいつと剣崎バカは似たもん同士っていうレベルじゃねえ。ユースの時に立場が入れ替わってたら、間違いなく薬師寺が剣崎になっていたんだろうな・・・。つくづく、どういう人間に出会うかが本当に人生を左右するっていうのを思い知らされるな)


 そして翌日。薬師寺と剣崎が世紀の化学反応を起こす。

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