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俺たちはネタバレしている

 2016年のJリーグは、2月27日にJ1、翌28日に幕が開く。アガーラ和歌山の開幕戦は、アウェーゲーム。昨シーズン20位で辛うじてJ2自動残留を勝ち得た、ハヤトーレ鹿児島と対戦する。



「我々が鹿児島と戦ったのは3年前になるが、当然ながら今のチームは全くの別物だ。釈迦に説法だろうが、各自まずはこれを頭に入れておけ」


 宿舎での前日ミーティング、その冒頭で松本監督は釘を刺した。対して友成が言い返す。

「マッさん、3年もありゃ普通は別物になるぜ。俺たちだってそうじゃねえか」

「ハハ。まあな。ウチみたいに4年5年もいる選手が大勢いるほうがある意味異常だしな。つまり、対策は向こうの方が立てやすい。試合の入り方が大事だ」

 松本監督はそう言うと、ホワイトボードに布陣を書き始めた。書いたのは意外にも、自分達の布陣だ。ちなみに開幕戦のスタメンとベンチメンバーは以下のとおり。


スタメン

GK20友成哲也

DF15ソン・テジョン

DF22仁科勝幸

DF23沼井琢磨

DF14関原慶治

MF2猪口太一

MF24根島雄介

MF16竹内俊也

MF5緒方達也

FW9剣崎龍一

FW10小松原真理


リザーブ

GK27平塚将司

DF21長塚康弘

DF32三上宗一

DF34米良琢磨

MF17チョン・スンファン

MF31前田祐樹

FW11櫻井竜斗

「俺たちの布陣は中盤は横一列、3つのラインで形成する4−4−2だ。なあ友成、お前が監督ならこのチームに対してどう守る?」

「まあ、まずは最終ラインは3バックでいくな。剣崎バカ小松原マコは一対一じゃ抑えきれないから、センターバックは数的有利にしときたい。後は右サイド警戒。竹内トシとテジョンの破壊力がウチの攻撃の代名詞だ。たぶん、誰が監督でもその2点は重視すっだろ。少なくとも、このバカは潰しにくるはずだ」

「てめえはなんで俺のことバカって言うんだゴラ」

「そう読むからだろ」

「なわけねえだろがっ!!」

 友成と剣崎のやり取りは、今年も変わらない。スタメン抜擢で緊張ぎみの緒方は、戸惑いながら根島に尋ねた。

「ね、根島ネジさん。あの二人、ずっとあんな感じなんすか?」

「そ。まあいつものことだよ。ね、猪口グチさん」

「ユースの時からの日常さ。五輪代表でもよくやってるしな」

 猪口の言葉と楽しむような表情に、緒方は唖然とするだけだった。

(あれがウチのエースと守護神か・・・でも今は小学生みたいなやりとりだな)



「まあ、今友成が言ったように、ウチと対戦する場合はエース潰しと右サイドの分断に重きを置いてくる。鹿児島は今年からクロアチア人の新監督を招いたらしいが、この監督は相手の良さを確実に潰すために、入念なスカウティングと戦術練習を徹底するらしい。そして、各メディアから仕入れた話を総合すると、鹿児島はある程度新監督のサッカーにハマり始めてる。この試合の結果次第じゃ、開幕ダッシュを決める可能性もある。未知の指揮官に対する信頼度が一気に上がるからな。が、逆もあり得るわけだ」

 そして松本監督は自分達の作戦を説明した。

「前半の30分ぐらいは相手の対策に付き合ってやれ。まずは相手の力量を量るぞ」

「ずいぶん大胆ですよね。相手に付き合って大丈夫なんですか?」

 松本監督の案に、まず竹内が異議を唱える。

「手応えを得ているにしても、それは成熟度には比例しない。たとえ入念に分析したところで実際にやってみないとわからないことだってある。相手のストロングポイントを潰すことに徹する戦術は、想定以上、想定外に対して脆いもんだ。万全な準備も、結局は机上の空論にすぎん」

「すごい極論ですね・・・」

 松本監督の解答に、竹内は苦笑する。しかし、言われたことは間違いではない。剣崎の言葉がそれを肯定する。

「いいじゃねえかトシ。たかが映像ぐらいで俺の凄さがわかってたまるかってんだ。よく言うだろ?百分は一銭に近ずって」

 ドヤ顔の健一に対して沈黙する一同。

「なんか・・・惜しいな、お前」

「バカが無理に日本語使うなって」

 小松原の吹き出しと、友成の嘲笑に続いて、和歌山の面々は笑いに包まれた。

 一方で赤っ恥をかかされた(というか勝手にかいた)格好の剣崎は、この屈辱感を血肉に変えた。


「くそったれが・・・。こうなりゃ鹿児島の連中をボッコボコにしてやらぁ!!」


 そう鼻息荒く吠えた剣崎に、仁科はあきれる。

「はっ。鹿児島にゃとんだとばっちりだよな、ヌマ」

「ですね」

 同じく沼井も苦笑交じりに頷いた。






 翌日の鴨池陸上競技場。アガーラ和歌山の選手たちを乗せたバスがスタジアムにつくや、剣崎たちはマスコミ関係者の多さに戸惑った。

「ああ?なんかやけにカメラ多くねえか?」

「地元だけじゃないな。それこそ民放各局が来てるって感じだよな」

 剣崎の言葉に猪口が同調する。それを聞いて、松本監督はやや大げさにため息をついた。

「やれやれ。少しは自覚しろ。うちは資金力がある方じゃないが、れっきとしたタレント軍団なんだぜ?何せ、リオ五輪代表のメンバーを4人も抱えてるんだ。これでカメラが地元局しかなかったらマヌケもいいとこだろ」

「そう言えばそうか。なんか、すっかり忘れてましたね。リーグ戦のことで頭が一杯だったから」

「ま、とりあえず、オリンピックまで、J2に特需を振る舞うとするかな。俺様を筆頭に、将来の日本代表の力をな」

「・・・トシまで忘れているとは思わなかったが、友成の言葉もうぬぼれ臭いな」

 開いた口が塞がらないとばかり、宮脇ヘッドコーチがあきれ返る。

「いいじゃないか、ミヤ。それくらい自然体でいてくれた方がむしろ頼もしい。ああいう言葉を自然にいうあたり、友成も大丈夫だ」

 なだめながら、松本監督は宮脇コーチに語った。


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