一通の手紙
短期間中に書いた短編ものです。
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レイへ。
あなたがここを出て行ってもうすぐ十日が経ちますね。学園での生活はどうでしょうか。楽しいですか?院内はあなたがいないということにまだなれていません。(中略)
院が始まって以来、学園の入園が認められるのは初めてのことです。なので、あまり力になれることがないと思いますが、ここであなたの応援をしています。頑張ってね!
自分の力を驕らぬよう、自分にできることを精一杯してください。
暇なとき、辛いときは何時でもこの「家」に帰ってきてください。院職員一同待っていますよ。
院長カレン・ローグ・カスティア
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(先生、俺も未だに慣れないことがあります。誰かこの状況を説明できる人はいるのでしょうか……)
俺は割り当てられた部屋で、懐かしい院長からの手紙を読んでいた。
そこまでは良い。
そこまでは良いのだが、何故か周りをうろちょろ飛ぶ物体がいるのだ。そいつが俺に話しかけてくる。
「ねぇ、それは誰からの手紙?」
こいつが現れるようになったのは、学園に入るときのあの儀式の次の日からのこと。それは今より約二日前にさかのぼる。
とその前に、俺がこの学園に通うことになった経緯から話を進めることにしよう。
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俺はカスティア・ローグという名の孤児院で育った。生まれて間もなく預けられ、そして院長たちに十五年間育てられてきた。しかし寒くなってきた一五年目の冬の日、その日常に終わりを告げる手紙がやってきた。
「いんちょーせんせい、いんちょーせんせい!何か手紙が入ってたよー」
「はいはい。そこに置いておいて頂戴、テピ」
「はーい!」
院内で一番小さいテピトがポストから手紙を持ってきた。テピの日課は定期的に院に届く手紙の回収だ。しかし、この日は定期的に手紙が来る日ではない日だった。
「誰からでしょう。あら、これは……」
届いた手紙は三通。全てにおいて国の手紙であることを示す刻印が押されていた。一つは孤児院の院長宛に。残りの二つは俺宛になっていた。
「テピー!いるー?」
「いんちょーせんせー、呼んだー?」
パタパタと小走りで走る音が聞こえ、テピが部屋の扉から顔をのぞかせた。
「ちょっとレイ呼んできてくれない?」
「レイ兄ちゃん?分かったー」
テピはまたパタパタと走り去っていった。
その時、俺は院内に生えている木に登り、そこから景色を見ていた。これは俺の密かな楽しみでもあった。
「レイ兄ちゃーん!」
「ん?テピか。何のよう?」
「院長先生が呼んでるんだぁー」
俺はこの時、毎度のことながら、ただの御使いを頼まれるものだと思っていた。
「わかったー」
テピが走り去ってからその数分後。まだ木の上にいた俺は、またテピによる院長の催促を受けることとなった。
「院長、何の用事ですか?」
院長部屋に入るなりすぐ、俺は院長に問うた。今までのことなら、二度目の催促なんてなかったはず。なのに催促をするなんてよほどのことなのではないか、と思ったからだ。
そんな俺の問いに、院長は二通あるうちの一通の手紙を差し出した。
「……これは?」
見たこともない封筒で、どことなく高級感があふれている手紙だった。それに、二通とも同じところからの手紙のようだ。
「レイ。今その中身を読んで頂戴」
「……わかった」
手紙の内容は一つ。学園の入学に関して。
俺は何故かは知らないけれど、学園の基準を超えたため、学園に認められたらしい。
学園が認める者に関しては、特待生として入園が認められる。それに関してかかるお金は、すべて免除されるということ。孤児院に暮らしている俺にとって、めったにない話である。
「…どうしたい?あなたが決めていいのよ」
読み終わったころ、院長先生が口を開いた。
「……どうしたいと言われても、どうしていいか分かんないよ」
「決めなきゃだめよ。これからの人生は、あなたが自分で決めていかなきゃいけないんだから。それに、今まで苦労ばかりさせてきてしまったし、あなたの好きにしてほしいの」
院長先生は俺の肩に手を置き、苦笑いを浮かべつつ言葉を紡ぐ。
孤児院での生活は、仮にも裕福まではいかないまでも、それなりに楽しく暮らしてこれた。これからもそういう生活をしていくんだとばかり思っていた
「レイは学校に入ってみたい?」
「……まぁ」
「ならもう決まっているじゃない!」
「で、でも俺はっ!」
「……ここの心配はしなくていいわ。むしろあなたが心配よ」
院長はもう一つの手紙を差し出した。
手紙に書いてあったもう一つの手紙のこと。学園に入園することが決まり次第、もう一つの封筒を開けること。それだけ。
「開けなさい。あなたの気が変わらないうちに」
その言葉が後押しとなり、俺は封筒の封をといた。
すると、封筒の中から紙が二通、白い軌跡を描きながら飛んでいった。それらは器用に扉を潜り抜けて外へ、空の彼方へ飛んでいった。
「さて、これからあなたは二日後。この孤児院を出て、学園を目指して行かなくてはならない。荷物の大半は送ってあげるから、荷造りをしてきなさい」
「……ありがとう、カレンさん」
「あら、名前で呼ぶなんて珍しいわね」
何気なく口にした院長の名前。最近口にしていなかったらしく、からかわれた。
そんなこんなで、孤児院カスティア・ローグを、俺は名残惜しくも去ることになった。
その五日後。儀式の一日前の昼あたり、俺は馬車に揺られに揺られ、やっとの思いで学園、ルザリアに到着した。