肆
中央に陣取っていた狼を一閃すると、そこだけ通り道が細く出来た。
「今だッ!」
少年が叫ぶと、少女は今にも無くなりそうな道を一気に突き抜け、狼の円の外側へと逃げる。
折角追い詰めた獲物を逃がすまいと、少女の後を追おうとする数匹は、しかし、少年がさせない。
「ッせいっ!」
大剣を勢い任せに振り回し、多数の獣を薙いでいく。数匹が上下で別れるのが見えた。
狼達は、何匹かが森の肥料へと形を変えたことで、逃げた少女を追うべきではないと考え直し、少年だけに集中し始める。
「あ、これはこれでヤバイかも」
少女を逃がせた達成感を感じる暇もなく、山程の狼が襲いかかってきた。
「さ、作戦通り、ぃぃいいいッ!!」
叩きつけた切っ先をもう一度振り上げ、再び叩き落とし、飛び掛かってきた奴と駆け出した奴を一蹴する。そして、一回転で剣を振れば、近くに獣は殆どいなくなった。
この隙を見逃さない。
手を掲げ、叫ぶ。
「荒ぶるが如く業火よ、噴き上げろ!!」
刹那、少年の足元から赤光を発する円図が広がり、一瞬の内に大量の火柱が立ち昇った。
狼は一匹残らず火柱に呑み込まれ、炎の中で悶え苦しむ。
暫し怨嗟の叫びを上げていた狼達も、炎が収まる頃には骨も残らず消えていた。
「あー ・・・」
少年は、青い空を見上げる。
そこへ、
「ちょっと」
いつの間にか戻ってきた少女が、剣を鞘に納めて少年に向かってきた。
「おお、丁度終わった ・・・・・・」
言いかけて、少年は言葉を止める。
向かってくる少女が、剣を納めた手を反対の腰にやり、短剣を取り出している。
「あれ、お前、何でそれを ・・・・・」
嫌な予感しかしない少年は、剣を背に戻してから少女に訊く。しかし、少女は意にも介さない様にどんどん迫ってくる。
「ちょ、まっ・・・・・・!!」
焦る少年に真顔で近付き、手を伸ばせば届く距離まで来た時、少女は、
「失礼」
一言言うと、少年のシャツを掴み上げ、
「は・・・・っ?」
手に持った短剣を、少年の横腹に突き刺した。