参
原因を挙げるとしたら、いくつかある。
例えば、木々が思った以上に高く、少年が大跳躍することが出来なかった事や、木と木が密集していて走りずらく、狼達の方がこの森を熟知していたことだろう。
そして何より、この森こそが狼の住みかだったと言うことだ。
「が、最大の原因は、お前がちゃんと人に聞かなかったせいだ!!」
「何をいきなり責任転嫁」
背中から飛んできた言い掛かりに少女は怪訝そうに顔をしかめて言い返す。
他愛もない会話を繰り広げる二人だが、現状はそこまで穏やかではない。
二人は自身の剣を構え、互いの背中を合わせる事で死角を無くし、臨戦体勢をとる。そして、その二人をジリジリと責め込む狼達は彼等の回りを隙間無く囲っている。
互いが互いに隙を窺っているのだ。
「そもそも、誰かさんがあのまま北東街道を突っ切れば良かったのに、挑発して怒りを煽ったのが悪い」
「お前こそ責任転嫁してんじゃねぇか!!」
襲い掛からんばかりに低く耳障りな唸り声を上げる狼に負けない音量で、文句を叫ぶ少年。それでも、隙は見せないようにと狼を睨み付ける。
「・・・この状況、どうすれば良いと思う?」
少女が柄を握り直しながら背後の少年に問う。
少年は、うーんと少し考える素振りをし、何かを閃いた様に声を上げた。
「じゃあ、俺が魔法で全滅させるってのは?」
「それ、私も巻き込まれるよね?」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
少年の額に冷や汗が滲み出る。巻き込まれては元も子も無い。
その間にも、狼は少しずつ迫ってくる。
時間は無い。
「ふ、二人で道を作って、お前を範囲外に逃がす作戦!」
「作戦でも何でも無いけどね」
軽口を叩くも反論はせず、狼を睨み付ける。
一瞬の遅れで命に関わるのだ。
にも関わらず、少年は頬を僅かに緩めて「その前に」と、意味もなく笑う。
「なぁ、一つ言いたいことがあるんだけど」