第十五話
土塊は、暗闇だった部屋の天井を豪快に突き破った辺りで、力を失くしや様に動かなくなった。持ち主を離れて仮的に使用していた権限が途絶えたのだから、当たり前といえば当然か。
パラパラと砂埃が落ちる様子を見ながら、ぼんやりと考える赤髪の少年。鈍い動作で、土塊の伸びた先を見上げた。差し込む光はまだ高く、日が傾くにはまだ早いが、後一刻か二刻もすれば夕日が訪れる。
「次は、方向を考えねぇとな……」
「それはあの少女を思っての事か」
囁くほど小さな独り言に、聞き知った声が掛かった。
魔魅の背後に散乱した瓦礫の陰から、忍び寄るごとく一人の女性が現れた。振り返るまでもなく、アズィラだ。
「……だったら良いけどな」
「違うと?」
「さぁな」
魔魅は床へヘタリ込み、空笑いを漏らす。敷かれたカーペットは、粉塵まみれで、血か水か、果たして液体だったのか、判別が難しい汚れが染みを作っていた。
その内の小さな一つを横目に、片脚を身に寄せる。
模範的な騎士とは違い、この女騎士はやさしい。身分としては甘いのかもしれないが、このしでかした現状で真っ先に出る言葉が流石ともいえる。
「――グロバード氏は」
切り替えの早さは流石。魔魅には到底真似出来ない。
故に、口が重い。
がむしゃらだったと自分でも自覚はしていたが、殆ど目前で式を発動させた。普通なら直撃を食らって壁の隅にでも無様に気絶しているはずだ。しかし、日が差し込んだ室内にそれらしい姿は見当たらない。勢い余って外へ、と言う可能性は、アズィラが乗り込んできた時点で皆無だろう。
引き受けておきながら、何と情けない。――いや、約束を守り切れないのは今に始まったことじゃないか。
「……逃げられた。悪ぃな」
力無い笑顔で答えると、アズィラは「そうか」とだけ言って頷いた。
「通った場所だけだが、人の気配は感じなかった。既に出払った後の様だ」
「巡回騎士が来たっつっても、手際が良過ぎんじゃねーの」
魔魅達が屋敷を訪ねた時、出迎えたのは本来の役柄である召使ではなく、グロバード本人。中で顔を見た下働きも、三人と貴族としては少な過ぎている。退去するとしても、魔魅達の騒ぎからやっていたのでは、明らかに不自然な早さだ。
「やはり、嗅ぎ付けられると確信できる程の『何か』に手を着けた。と言うのは間違いなさそうだな」
肉付けが出来ただけでも良しとしよう。アズィラは腰に当てていた手を放し、土塊に近づく。荒い割れ目が目立つ表面に平を当てると、全体が光と化し、収縮されるように彼女の手中へ紙切れとして収まった。
割り切りがいいと言えば聞こえはいいが、腑に落ちない部分あれど、推論までに持っていけないというのが事実だろう。撤去が早い理由は付けども、ではリスクを冒してまで無粋な来訪者を受け入れる理屈ははっきりとしない。
納得とは程遠い、喉につかえる様な違和感。それを知るであろう魔魅に追求しないのは、職務怠慢となりかねないが、らしいと言えばらしい。訊かれたとしても、答える気は毛頭ないが。
その性格に助かりながらも、グロバードの手の中で転がされた事に苛立ちが募る。
「――胸糞悪ぃ」
悪態を吐き、髪をクシャリと掴んだ。呪いの様に残された言の葉が脳裏でこだまする。
『想像以上にそっちが知らなさ過ぎたぁ』
言動、建物の構造、奴隷族。あいつが知っているというのは確かだが、魔魅が知らなさ過ぎるというのは、一体どういう事か。魔魅が見た事実以上に、何の真実が在ると言う?
身動きの取れないじれったさ。それに更に拍車を掛けている一番の原因は。
『今回は、殺さないようにねぇ?』
白々しい台詞を思い出しただけで気持ち悪さがぶり返す。
殺すな? 殺した側の人間がどの口で言ってやがるっ?!
味もわからなくなった唾液を吐き捨て、立ち上がる。文字通りの貧血で、グラグラと鐘が頭を鳴らすが、気にしてはいられない。
動きに気付いたのか、アズィラが振り返ったが、彼女にも仕事というものがある。流石に一人、と言う訳ではあるまいから、連れてきた部下の方へ戻るだろう。魔魅は踵を返し、扉へ向かう。
これだけの騒ぎだ。召使も不在であるのならば、いつ二人が抜け出してもおかしくない。
「何処に行くんだ? ヱリ」
怪訝な声を無視して扉の隙間を抜ける。部屋ごと破損させたせいだろう、罅が入って術式が切れたおかげと歪みで、人ひとり分開いていた。
開けた視界に階段と手摺り、柵が見えた。魔魅は左へ曲がり、豪華に飾られた柵に手を掛け、
「何処に行くんだと聞いたんだがっ!」
「ぐえっ?!」
首根っこを掴まれ、引き抜かれる勢いで二階の廊下にすっころんだ。
後頭部の強打と、転がった瞬間にひねった首の衝撃に、思わず間抜けに身悶える。
「い、いきなり何すんだ……っ!?」
「お前こそ、何がしたいんだ」
理不尽な行動に睨みを利かすが、訝しんだ眉を顰めるアズィラは改めるどころか、逆に声を低くする。
「連れの二人のところに行くんだろう」
「今行こうとしてただろーが!! 何で止めんだよっ?!」
掴みかからんとばかりの勢いで起き上がり詰め寄った。が、アズィラは更に怪訝に顔を顰める。そして、不可解と言うように、
「別行動を言いだしたのはヱリじゃないのか?」
返事を待たずに動き出した足が止まった。
遅れて振り返る。
巡回と言えど、端くれの長だ。使う言葉や行動には、正確な意味あって起こしている。特攻的な部隊を束ねる立場なら、なおさら意味にはっきりとした判別をしなくてはならない。
魔魅は、頭から血の気が去るのを感じた。
彼自身が行っていたのは単独行動。何かをあの二人に頼むことなんて、していない。
湧き溢れた焦燥は止まらず、少年は今度こそ彼女の襟を掴んだ。
「何処だっ?!」
襟周りに皺が重なる。傍から見れば首を絞めてるも同じ力加減に、アズィラは眉ひとつ動かさず、唯、一文字にした唇を微かに震わせ、
「――変わらないな」
「あ?」
聞き取ることのできない囁きに更に眼光をきつくし、魔魅は睨みあげる。
が、彼が二の句を口にする前に締める腕を強引に振り払われた。
余りの勢いにくぐもった呻きを上げて少年は再び床に衝突。アズィラはそれを襟を正しながら咳払いした。それでも、跡は残っていたが。
「血が上ると冷静さを欠くのも相変わらずだな」
「落ち着けるわけねぇだろが!?」
「周りが見えなくては本末転倒だろう」
これまた勢い任せな突進は、衣服の端を革靴に踏むという先手によって阻まれた。続けざまに、むんずと一本の大剣を突き出される。
見覚えのある武器に声が上がった。
「な、何でお前が」
「通路は粗方見たと言っておいたぞ。改めて言う。頭を冷やせ」
放り出されるように剣が投げられる。舌打ちを鳴らし、魔魅は受け取った。
血が上っていなかったとは言わないが、そこまで熱くなっていたとは思っていないし、そのつもりもない。まだ、思考を巡らすくらいの余裕も持ち合わせている。
「子供じゃねーんだぞ」
どうだろうな。肩をすくめるアズィラを横目に、鞘ごと背中に回した。
アズィラが魔魅の剣を持っているということは、二人を置いてきた部屋に誰もいなかったというのは本当だろう。高を括り過ぎた自分にも、非はある。あの二人なら抜け出すことぐらい直ぐ考えたはずだ。
ならば、念を押されて彼女らがすることと言えば思い当たる物は一つしかない。
……確かに、改めて考えれば、関係者が殆ど退去したこの場所で、脅威は少ない。騎士長が暴れ馬を諌める悠長に時間を割けると言うのも、それを補うには足るか。
魔魅は一瞬口を噤み、髪を掻いた。
「で、何処なんだよ。どうせ知ってんだろうが」
「ああ。部下が保護したそうだ」
胸衣嚢から魔魅に貸していた物より一回り小さいヒトガタをチラつかせた。手回しが宜しい様で、部下とやらにも式を渡していたようだ。複製式の通伝聖法は何とも便利だ。
それがありながら、何故直ぐに伝えなかったのかは疑問だが。
やっと足の拘束から解放され立ち上がり、早く言えよと続きを促す。
「ニ階最奥の寝室。術が解除された後のようだから、事態は収拾していると考えて良い」
「収拾だあ?」
「断片過ぎて私も何とも言えない。一悶着在った事は確かだろうがな」
さらりっ と出た発言に、魔魅は目を剥いた。
「何で早く言わねぇんだよっ?!」
「火に油を注ぐような馬鹿な事はしたくないんでね」
「どう言う意味だコラ」
答える気が無いのか答えずともそのままとでも言いたいのか、アズィラは返事もせず、靴音二回ほど鳴らして歩き出した。
大人になってますます可愛気がなくなっている。時間の流れをそんな所で感じながら、ハッと息を吐き出した。
一、二歩下がって助走を取り、廊下と吹き抜けとの間に立てられた手摺に片足を掛ける。間を開けずに勢いのままに蹴って、宙で一回転しながらアズィラを追い越して通路に着地。
「先行くぞ」
打見しながら再び飛躍を行い、一気に直線上に見えていた比較的に大きい――と言えど普通の建造物からすれば十分に破格の大きさの――扉の前に降り立った。
言われ様は無いだろうが、小言は飽き飽きだ。歩速が早まった足音が追いつく前に早々とドアノブに手を掛け、
「あ?」
「い゛っ?!」
引いたと同時に飛び込んできた青服少年の姿に、衝突寸前で上へ跳んだ。天井が高いことが幸いし、少年の頭上で一回転して飛び越える。
「――悪ぃ!」
驚くアズィラの部下へ投げやりに言い、崩れかけた部屋の中央部、罅が広がっていない床で法陣を展開させる少女の元へ駆け寄った。すると、膝を付き、祈る様手を組む少女は瞼をゆっくりと上げる。呼応し、ナナシと寝かせられたナウジーに纏っていた光粒の流れが緩やかに消えていく。
光が収まる頃に、ナナシが顔を向けた。何を言うでもなく、無表情のまま無言で。
唯、置いて行った不満だけがひしひしと伝わる。
真っ直ぐ過ぎる目に、魔魅は僅かに目線をずらした。擦り傷・掠り傷、汚れや血が所々に見られども、力を使えるのであればそれ以上の外傷の心配はないのだろうし、必要ないと一蹴されてしまいそうだ。
安堵と複雑な気持ちで苦笑う。
「悪かったな」
「いい」
ふいっと、ナナシが顔を横へ向けた。つられて魔魅も横に――眠ったように瞼を閉じるナウジーに目をやった。
着替えたらしい服に血が赤黒く染み、所々に飛び散っている様子。一番酷い胸元の紅はナナシが治した後、出血も傷跡も消えている。それでも尚、鉄錆の臭いは微かに存在した。
胸元は微かに上下に動いている。ただ気絶しているだけだ。早まりそうになる鼓動を落ち着かせる様に確認し、じっとナウジーを見つめるナナシから目を反らしす。
その眼前に、睨みに近い目尻の吊り上げようでユメが立っていた。
「驚かないのね」
そういう彼女の口ぶりも驚いた風では無いが。
「大体予想はついてたしな」
「全部、計算済みだったって事」
「俺をそこまで高く見てくれるとはありがてぇな」
目を離した間に何があったかは知らないが、不機嫌丸出しのとげとげしい言動にまともに取り合ってる暇はない。
グロバードと召使は、最初から全て退散する腹積もりだった。例え鉢合わせしたとしても悶着に一々時間を割く訳がない。とすれば、誰が相手にするのかは明白だ。
彼女がここまでするとは想定外ではあったが。
「そしたら今頃、お前は俺に切られてただろうけどよ」
「ヱリっ!」
ギッ 二つの鋭い視線が魔魅に向けられたと同時に、焦った様にアズィラが静止を掛けた。時すでに遅しだというのに、つくづく世話焼きな隊長だ。
魔魅は、何もしねーよ。と手をくるくると回した。
ああ、こういう態度が人を腹立たせるっつーんだった。と遅ばせに気付くが、今更直りようが無い。悪びれもなく刺さる目線を軽くかわし、アズィラへ顔だけ向ける。
「んで、どーすんだ騎士長殿。そこの召使だけでも捕まえんのかよ」
ユメの唇が強く結ばれた。が、魔魅は見ていない。
主犯と思しき家主は逃げ去り、追跡は難しい。関係しているであろう他の召使や奴隷も一緒だろう。事情を知らない――と言うよりも、後処理に手を焼くのも面倒臭かったのが正直な所だろうな。あわよくば片付けも……と言う内懐だったのだろうか。
(俺の事知っていやがっただけで、優越感に浸りやがって)
次邂逅でもあれば問答無用で誰かわからなくなるくらいに殴ってやる。内心に決めていると、ガッ と鈍い音が耳元て鳴った。否、響いたに近かった。
「あ゛?」
背後で石同士がぶつかる軽い音がし、つきりとした痛みがこめかみに感じられる。
ナナシが勢い良く立ち上がったのを見て、大体の察しは付いた。
どうしてこうも面倒臭い方へ行こうとするのか。魔魅は構えかけた少女を手で制した。不服だとばかりに腕を掴まれたが、今は無視。
「痛ぇんだけど」
「嘘つきにはそれくらいが丁度良いじゃない」
飛んできた方向には、ユメ。険しい表情は変わらないまま。
「誰が嘘つきだ。冗談だっての」
「さっきの言葉では冗談に聞こえるわけ無いだろう」
もう少し気を付けろ。呆れた様に、同じ様に部下を抑えるアズィラも言ってくる。
冗談ではなかったのだから聞こえないのは当然なのだが。
更に口を挟まれる前に、魔魅は髪を掻きながら溜息一つ。
「小言は懲り懲りだってー……のっ!」
無造作に床を蹴って、素早くユメの背後へ回る。一瞬遅れて彼女が身を翻そうと腕を振ってきたが、軽く弾いて指先を首に当てた。
滅びた筈の集団がおおっぴろげに証を記す事は無い。かと言って、召使となったという事は、『契約』と連動させなければいけない訳で。
「ちょっと見んぞ」
「――っ?!」
首に巻かれたチョーカーを指で押し上げ、上手い具合に隠れていた赤黒い図形が二つ、現れた。
覚えのある刺々しい形と、所有を表す文字が含まれた印。
やっぱりな。一人得心すると同時に問題もはっきりとした。
見た所、それぞれの印は独立した式になっていながらも互いに関係性によって繋がっている。何をするにも先ずは切り離すことが先決か。
「ヱリ、そろそろ大人しくしてくれないか」
考えに耽りかけた魔魅に冷ややかな声が向けられた。
世話好きもここまでくるとやかましい。
「別に暴れてねぇだろ。第一、手を挙げた訳じゃ――」
ねぇだろ。続けようとした言葉を、少年は飲み込んだ。
代わりに、目の前で女性が顔を赤らめて睨んでくるので、
「あ、もしかして首弱かっ」
「――――ッ!!!」
「わ、悪ぃって!」
少年の腹めがけて突っ込んできた拳をひらりと躱し、それで更に腹立ったユメの蹴りをしゃがんで避けてから悪びれずに謝る。
ユメは唇を噛み、諦めたらしくそっぽを向いてしまった。
からかい過ぎたか。悪い癖だと自覚しつつも髪を掻きながら騎士殿の様子をチラ見する。
案の定、部下が飛び出しかけているのをアズィラが抑え続けていた。こちらも、早くしろとばかりに顰めている。
重要参考人として駐在所にでも連行してくれればやりようはあったが、流石に騎士長に誤魔化しは無理問題だったという事らしい。
魔魅はやれやれと肩を竦め、威嚇して警戒する猫の様なユメに「それな」と自分の首筋を指で突いた。
「その『主従契約』の書面、何処にあんだ?」
「そんなこと知ってどうするつもりよ」
契約は絶対。交わしたからには従者から切れるわけもなく、全ての権利は主に譲渡されている。術が直接手を下すわけではないにし、その効力は言葉通りの『絶対』。ユメはそれを身をもって知らされた。
それは聖法であっても破れない。
「どうするかはさておき、何処にあるのか訊いてんだけど」
知らないで言ってる偽善な馬鹿か、あるいは知ってて聞いてくる背徳者か。
考える事も莫迦らしくなって、ユメは「知らないわよ」と答えた。
「そんな重要な物、召使が知ってるわけないでしょ」
例え知っていたとしても、この荒れようでは元の場所に在る訳がない。
「つーこたぁ……めんどくせぇなぁ」
強制的に外せるモノもあるのだろうが、生憎魔魅が知っているのはたった一つ。手順を間違えてしまえば媒体もどうなるか分かったものではない。かと言って、この荒れまくった屋敷の中を探すというのは、後々厄介になりそうだ。自分でやっておきながら、ここでやり過ぎたかと少々反省。
ではどうするか? と辺りを見渡した時、
「……なぁ、おい」
「何」
「あそこに放り投げられてる本ってさぁ……どっから持ってきた?」
寝室と思しき荒れた部屋、特に書物と言ったものが見当たらない空間に落ちた古び傷んだ一冊の本。
一部始終を知るナナシに視線で指すと、少女は目線を落とした。
その先に、魔魅は目を見張り、そしてニヤリと口角を上げた。
「そっか……そうか……っ!!」
くくっ……湧きだした笑いが収まらず体をくの字に曲げる彼の態度に、騎士二名と召使は訝しげに眉を顰める。
そんなことなど知ったこっちゃない少年は、笑いの余韻を残したまま本を拾う。向きを転じてナナシに向けてまた笑うと、少女も幽かに頬を緩め返した。
「運がいいんだか悪ぃんだかわかんねぇな、お前って」
無造作に開いたページから紙を無遠慮に破りながら、少年は若干見上げてユメの顔と向き合う。対するユメは、意味不明な彼の言動から後退りする。
「悪いに決まってるでしょ」
そうで無ければここに残される事も、そもそもこうなる事は無かったのだから。
間を詰め、再び手の届く距離まで詰め寄る少年。
何をするのかと固唾を飲まれる先で、嘆息を漏らした。
「そりゃ、自分がどう思ってんのかはソイツの勝手だがよ、相手も同じ考えかどうかは早計な決めつけは止めろな」
「何の話よ」
まどろっこしい言い回しに苛立ちが募るユメ。
とどの詰まり。自分が不必要だと判断した所でそれが本当の不必要性に繫がるなんて事はありえない。周囲も同義、逆も然り。
その彼女へ、彼女たちへ一つの案として言葉を繋げた魔魅は、
「生きてる内はな」
笑みを含んだ言葉と同時に、最後のページを破り捨てた。




