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不死を象る世界は遊戯なれど  作者: 茜木
第弐章『奴の濡れ給う隷属を』
34/42

第十一話



 言い切ったは良いが、どうしたものか。

 数分後、鍵をこじ開けようとして失敗したナウジーと似た様な疑問を抱え、魔魅は口内で唸っていた。

 頭目の悩みは、今から向かおうとしている相手との事だ。

 アズィラのらしくない大胆な捜索活動によって、恐らく確実的にグロバードは魔魅たちが訪ねてきた目的を知っているだろう。アレだけ騒げば当然だ。騒いでいたのは主に魔魅とナウジーだが。

 それを相手にして、どう切り崩していくべきか。まどろっこしく考えることは苦手だが、今まで尻尾を出す素振りすら無かった奴がつついただけで簡単にボロを出すとは思えない。疑惑を持ちかけられると分っていながら家内に引き入れた時点で、何かしらの仕掛けをしようとしているのは確実だ。が、其れは推測の域を出ない。確率が高いと言うだけで、現当主に関して殆ど知らない魔魅の考えでは、どう出るかは定かではない。

 直接的な物理押しならば応戦なぞお手の物。臨機応変に対応できようが、会話による相対はそうはいかない。想定しておかなければ痛手を見るだろう。

 つっても、俺、駆引きとか苦手なんだよなぁ・・・ 先程からその問題で魔魅は躓いてしまう。

 会話での説得等は、こちらの考えに向けて相手が納得できる形で話を進めなければならない。その上で、相手の話の趣旨や目的・目論見を看破、もしくは推論が不可欠だが、どうも魔魅はそれが得意ではない。昨晩のナウジーの両親は、何かしらの所以があるのか、同意に達してくれたが、あのように簡単に納得してくれる人間はそうそう居ない。失敗してしまうことの方が多く、その度に騎士団によく追い掛け回されることもあった。その中の一つでアズィラと出会ったとも言える。

 時間をかけて探りを入れれば・・・そう考えたくも、時間はない。本来は異様な女好きの野郎が住む家屋なんぞに連れて来たくはなかったのだが、付いて来てしまった以上そこは諦める。しかし、今は二人だけにしておくと言うのが色々ややこしい。




「何せ、早くしねぇとアイツが勝手に動いちまうし・・・」




 ナウジーがナナシと名呼ぶ少女を思い出して、思わず声を漏らす魔魅。

 彼女はどうも最近単独行動が目立っている。昨日であれば、一人で魔獣の大群に相対したり、凶魔に突っ込んで行ったり。その他にも、ここ一、二年から人の制止も聞かず、飛び込んでいく斜行がある。そんな少女が大人しく帰りを唯待っているだけだとは・・・思い難い。

 加え、無鉄砲気味なナウジーもいるのだから、いつ部屋を抜け出していてもおかしくはない。実際は既に抜け出してしまっているのだが。

 時間もない、懐柔できる自信もない。

 となれば、アズィラには悪いが、アレを使って一気に話をまとめてしまう事も考えておこう。怒られるくらいなら、どうってことない。怒られるだけなら。

 一人勝手に得心していると、召使がエントランスから延びるホールに出た。




「グロバード様は二階の広間にてお待ちしております」




 そう振り返って家の中央にあるであろう二つの階段の左を登る。魔魅もその後に続く。

 と。




「なあ」




 一段登り、二段目に足を掛けたところで少年の赤い目が中と外を繋げる一枚の扉に止まった。




「あの扉、どうしたんだ?」




 足を止めた魔魅に合わせて召使が振り返る。けれど、少年が指し示す物がわかると興味無く、




「随分前に破損したということで、首都から取り寄せたと聞かされております」



「首都、ねぇ・・・」




 魔魅の目が一瞬細められるた。

 召使は無駄話をしているつもりはない、とでも言いた気に少年の呟きを聞こえないものとして無視して階段をさっさと昇っていく。

 魔魅は二秒ほど扉に強い視線を向けていたが、直ぐに足を動かす。

 家の外見とは違った色彩に形。雰囲気に合ってない気もしたが、元からこの家主の趣味は理解できないし、したくもない。

 けれど、あの扉は・・・・




「こちらになります」




 階段を上りきった少し先の通路の突き当たりにある大扉の前で、召使の女性は言った。

 漂っている疑問を押しやり魔魅も乗り切れば、人が通るよりもはるかに巨大な、玄関と似た様な扉が先の部屋を閉ざしていた。見上げると首が痛くなるであろう。本当に物好きな家主だ。

 肩を竦め、女性に促され形で扉の前に立つ。近付いてみれば見るほどますます似ている。

 これは、グロバード訊きたい事が増えたようだ。

 好戦的な笑を浮かばせると同時に扉が開く。中側から押している姿はないので、仕掛けか何かか。

 自動的に開かれた扉は両側とも半分程度開いたあたりで止まった。人一人が通るにしても少し開きすぎたぐらい。

 目に見えるほどの罠っぽさだが、魔魅は堂々とその間を通って中に入る。さっきまで眼を離すまいとしていた召使は何の配慮からか、廊下で待機するようだ。もしくは、逃走経路封鎖のためか。

 何にせよ、入った空間は部屋と言い表すよりも広間、もしくは食卓と呼べるだろう。良くは見えないが中央に長卓らしきものが見える。

 グロバードは奥か。状況確認に移った魔魅の背後で扉が閉じた。僅かな圧風が赤髪と衣服を揺らす。途端に廊下から差し込んでいた光が絶たれ、薄暗いという感想を持った。

 闇の深まり方とこの家主にしては珍しい数少なの家具の配置具合から考えれば、横に長い長方形の室内。その4つの隅に各一つずつの燭台で揺れる焔火と、卓に等間隔で置かれた三本一つの少々大きい蝋燭が置かれているだけ。窓は初めから無いのか閉ざしてしまっているかは不明だが、光量が圧倒的に足りない。朧な視界での行動は自身の不利になりかねない。目が慣れるまでは無暗に動かない方がいい。

 相手に何か言われるまで、もしくは視界が明瞭になり始めるまで動くまいと神経を使うと、コテッとした脂っこい食欲を誘う匂いに鼻が気付いた。




「立ってないで、座ったらどうかなぁ?」




 声がした方を向くと、慣れ始めた目が人影として動くふくぶくとした男が咀嚼と口を動かしたのが見えた。

 長卓には数個椅子が並べられているが、しかし魔魅が言われて素直に従うわけがない。




「俺に何か用でもあんのかよ? グロバード」




 敵意を隠すことなどせずに、悪態で言い返すと、仄かな朱光に当てられた男の顔が的外れだと笑う。




「用があったのはそっちじゃあないのかねぇ?」




 随分騒々しかったじゃぁないか。言いながら食物を口に含むグロバードの言葉に、魔魅はやっぱり知ってたか、と予想内だと片付け気軽に返す。そして、ふてぶてしくも卓に腰をかけた。

 行儀が悪いのは百も承知。その上で、わざとその選択を行う。

 苛立ちは思考の熟考を欠かさせる。短絡的になった相手えあれば自分のペースに巻き込むこともやりやすくなる。

 しかし、そんなにうまくいくはずもなく、分かっているこそか、気にも止めることでもないのか、グロバードは眉一つ動かすことなく皿の肉にナイフを刺し入れた。

 面倒くさい。内心で舌打ちをしながら本題に切り出す。これで駄目だった場合は、強攻策を取る。




「うんじゃあ、ぶっちゃけるが、あんたがやったのか?」



「何を言いたいのかさぁっぱりだがぁ?」




 白々しい返し。時間を掛けられないというのに、語尾だけではなく、性格もねちっこい。

 下服の衣嚢いのうに閉まった紙を片手に、出来るだけ我慢して続ける。




「いつもいつも紛らわしい商売裏でしてんだから、疑われんのも筋っつーもんじゃねぇの」



「紛らわしいとは心外だなぁ。どぉれも合理的だぁと思うけどぉ?」



「何処が」




 吐くように言い捨てる。細々とささやかにやっていると言えど、根源から滅茶苦茶にされた奴隷なんてものを存在させている時点で嫌疑は否めない。知らないことを貫こうと惚けているのか。それとも、認めた上で言っているのだとしたら、とんだあばずれだ。

 文句の一つでも吠えて仰ぐか。この調子ではいい効果はないだろうが。

 数秒の空白は、ガコンッという物音に埋められた。

 怪訝に横目で背後を確認すると、扉があるが、目立つ変化はない。

 否。




「聖法で鍵閉めやがったな」



「せぇかい」




 男の口端がつり上がった。

 刹那、刃が頬を掠める程度で済んだのは、魔魅が体をひねるごとく体勢でバク転宙返りを成功させたからである。




「ッ!!!」




 頭上から突如湧いて出た幾重もの刃の雨が少年の体を貫こうと降り注ぐ。一瞬前まで足を着けていた空間には、瞬きの間に焔に反射する銀によって足場を埋め尽くされた。

 バク転から着地、間髪入れず横に飛ぶ。足がつくと同時に前転したところで、床を喰ばむ音が止んだ。

 一秒にも満たないその時間で、頬に一筋、右腕に深々とした抉り痕、足に無数の切れ目。借り物の服だというのに、よくもやってくれた。




「不意打ちとか、卑怯じゃねぇか」



「巣穴に飛び込んできたのはそっちだったがぁねぇ」




 ナフキンを当てて拭う口元はまだ笑う。

 悪く思ってもいないが、聖法を使えるといってもグロバード本人にそれほどの戦闘力があるとは思えない。なのに、これほどの余裕を持っているのは、まだ何か仕掛けでも施しているのか。

 目を動かして警戒していると、グロバードは嘲るような笑い声を上げた。




「そぉう心配せずともぉ、何も仕掛けはないねぇ。構造上の問題でぇあまりいじれないんだぁよ。もてなしがそれだけで悪いがねぇ」



「にしちゃあ、痛々しいもてなしだな。自分の家壊してんじゃねぇか」



「その点も問題なぁい。何せ、この建造物は扉を基本としてぇ特別なものでねぇ」



「特別、か・・・」




 扉。グロバードの言う通り、すべての術式の大元は扉なのだろう。

 しかし、魔魅はそれ以前に、どうも気にかかっていた。

 あれらは、どことなく見たことがあるあの場所の扉に似過ぎている。あの時はよく見る気も余裕も無く唯がむしゃらに壊していただけだったが、アレだけ何度も見ていればそうそう忘れることはない。それらといかんせん似ているというのは、人身売買の他にも何か裏がありそうだ。

 もしくは、




「決めた」




 すぐ治ってくれるといえど、しばらくは激しく痛む右腕に当てた手を離して立ち上がる。

 グロバードが言っていた通り、建物全体に影響をもたらす式に覆われている様だ。自らの家を破壊しかねない勢いで降った剣が木製の床を貫いてはいるが、ある一定以上の深さには及んでいない。壁、扉、天井もしかりだろう。

 敵陣真っ只中。有利か不利かは暗黙に理解できてしまうが、相手にできるかどうかはまた別問題。

 それに、ようやく見つけた手掛かりを見逃してなるものか。




「お前に聞きてぇ事が増えた。答えろよ」



「素直に答えるとでもぉ?」



「思ってねぇよ!!」




 口が無理なら実力行使あるのみ。

 何故突然仕掛けてきたのかは不明だが、魔魅にしてみれば好都合。手っ取り早く、至極簡単。

 不敵に笑い、背に掛ける大剣の柄を掴み引き抜こうと手を伸ばし、

 すかっ




「あ、あり?」




 何もなかった。




「部屋に置いてきたのかねぇ?」


「げぇっ・・・!」




 グロバードが滑稽とばかりに笑いをこらえる声で思い出した。そう言えば、最初に部屋に入ったとき、座りにくくて放り出した記憶がある。道理で肩が軽いなと思ったわけだ。

 グロバードは、ゆっくりとした動作でナフキンを卓に置き、椅子を引く。




「身の回りくらぁい、考えておいたほうがいいんじゃないかぁい?」



「任せっきりのお前に言われたかねぇよ!!」




 剣がない。だから何だと言うのだ。

 剣技が一番得意であるのは事実だが、体術が不得手であるなんて一度も言っていない。

 薄気味悪い笑顔の下に一足で踏み込み、足を蹴り上げる。タイミングがアウトだとしても避けられる速さではない、たかをくくるも、図体からは予想の出来ない速さで空振りに追いやられる。追撃と空な手を握り、仰け反った男の腹部めがけて打つが、再びあの銀の雨が振り刺さった。




「ッ!!!」




 素早く手を引き戻すも、七八本が拳を刻む。痛みに顰める間すら落下音に消され、魔魅は頭上に迫る前にバックステップの流れで宙返る。追いつかれないようにと壁を足場に跳ね返り、卓を超えた。

 瞬間、グロバードの足元から光りだしている円が視界を掠めた。




「マズッ・・・!!」




 陣の文字は読み取れなかったが青光。水流が来る。

 最後の剣を避けきると同時に、魔魅は突き刺さった初撃の剣を走りざまに一本 抜いとった。

 軽く脆い。が、ないよりはマシだ。

 光が強くなった一瞬、予想通りの水の流れが、管を流れてるかのように真っ直ぐ少年に向かう。

 短い演唱から聖法としての威力は然程ない部類。しかし、滝以上の勢いあれば、手ぶらに等しい人間なんぞ容易いもの。当然、正面から行けば吹き飛ばされるに留まらないだろう。

 防ぐ方法は打ち消すためのそれ以上の力が必要になるが、そんな時間的余裕もない。他も・・・無理だ。

 けれど、ならばこそあらめ。




「っせ、り、ゃぁぁぁぁああああああっ!!」



「ば・・・・・・ッ?」




 直線上にグロバードの驚きに目を貼る間抜け顔があった。

 誰でも、殺傷力を兼ねる水流に自ら突っ込んで行こうとする奴がいれば驚くだろう。

 男も、驚き、そして気が狂ったかと笑った。同時に、魔魅の体が水流にもまれた。

 不定形物体だからこその威力。血まみれにはなっていよう。

 愚か者め。嘲り笑うグロバードの声に混じり、ポツリと




「弱ぇ」




 切っ先が、形ない物質を両断した。

 バシャッ ビシャッ ドバァッ バチャバチャッ

 切り刻むはずだった水が、逆に切られ重力に床へ叩きつけられる。

 小さな飛沫の粒が降りかかるも踏み込み、余裕の消えた立ち呆ける男の首元に、刃をすべらせた。

 ピタリ、と。柔らかそうな肉付く首に、綻ぶどころか、より鋭利になった剣が突きつけられる。




勝負(駆け引き)は俺の勝ち、だな」




 悪戯気に口元を弓なりにして宣言。グロバードは笑うことを忘れてしまった様に目を見開いて少年を見たいた。

 簡易式を用いた聖法の発動より、剣が早い。相手はも打つ手なしだ。




「つー訳で、質問させてもらうぞ、グロバード」




 体制は変えず、相手の応答が来る前に続ける。




「本題。裏方でラービュ家の娘、さらったか?」




 口は噤まれる。応える気すらない、言っているように。

 魔魅は笑顔を消して、「んじゃあ、」




「これはついで。何十年も前に解約された【奴隷族(ブレイセ)】が何で今だにいるんだ?」




 喉仏に向かう刃はさらに近づいているにも関わらず、何も言わない、何もしない。

 図々しい態度に、苛立ちを沸き上がらせながら、魔魅は最後の質問を口にした。




「クブラタの儀式に関わってんのか」




 質問というには余りにも押し付け。

 対して、返答と言うには余りにもふざけている。

 ひくり 喉が喉が動いた。




「お前だったかぁ」




 続けて出たのは、気が狂ったのではないかと思うほど盛大な高笑い。

 虚を突く不可解な行為に、魔魅が僅かに怯んだ隙にグロバードは素早く指を動かしていた。

 魔魅の頭上、グロバードに一重に当たらない絶妙な位置。瞬く間に無数の鉄剣が振り刺さった。




「・・・クソッ!!」




 せめてもの仕返しに男の腹部を思い切り靴底で蹴り押し、その反動で離れるも肩、腕に熱い衝撃が伝わる。抉られた。顔を痛みに歪めながら何とか逃げると、ガス欠か、一二激目よりも数少なに止む。

 勢い任せで転がり、方向転換を行った視界の先では、ふくぶくと男が笑っていた。




「赤髪にぃ赤瞳。まぁさかとはぁ思ったがぁ、本人とはねぇ! くっくっくっ・・・!!」




 可笑しいことに対して笑いを堪えている、というより、あからさまに馬鹿にした笑い方。頭を苛立たせるうっとおしい笑い声だ。

 が、カッとなりかける思考を、一つの違和感が止めた。




「てめぇ・・・何で俺の事、知ってんだよ・・・?」




 最初の傷こそは消えているものの、新たに出来た傷からの出血は止めない。昨日の分も含め、事実に危ない状況になる。現実、不快な浮遊感が脳内に起こり始めた。クラクラする。

 それを踏ん張り我慢し、剣の柄を強く握る。

 回答しだいでは、容赦はしない。

 少年の鋭い睨みに動じず、グロバードは余裕と身なりを整える。




「知ってるも何もぉ、寧ろ知らなぁいと思っている(ほう)が可笑しいじゃあ無いのかねぇ」



「『あんだけ派手に暴れておいて』、とか言いてぇんだろ、どうせ」




 どうやら口内も切ったようだ。不味い。赤く混じった唾を吐き出し、鼻で笑ってやった。




「お生憎だな。あんな何十年も前の出来事をほじくろうなんて考える奴は、とうに爺婆しかいねぇからな。そいつら以外で知ってる奴が居れば、深く関わってる人物だけだろーが」



「つまりぃ、ワタシを炙りだしたぁ、ってことかなぁあ?」



「あんな堂々と置いてりゃ、そのうち気付いただろうよ」




 その上、過剰に『特別』だと言われ、家丸ごと術式に組み込んでしまう聖法等、あそこ以外でお目に掛かった事もない。気付かない訳が無い。

 唯、以前ここに来た時に無かった事が多少気になるが・・・




「何にせよ、お前には聞きてぇことがあんだよ。大人しく騎士にでも捕まってな!」




 貧血が何だ、目眩が何だ。目の前の手がかり以上に今優先すべきことはない。

 しかも、こちらにはまだアレが残っている。

 約八メラルート、歩数にして八歩。詰められない距離ではない。

 再三に武器を握り直す。これは相手が出現させたものだ。いつ消されるか、その前に一本取る。

 煩い傷は黙らせ、拒む脚に力を入れる。

 コレが不発になろうと、次が続けばいい。

 込めた力を床に蹴りだそうとした時、




「つまらなぁい」




 心底から退屈した声で、男が言った。




「・・・・・・・・・んだと?」




 力の加え具合は変えないまま、顔だけが怪訝に顰められる。

 何がつまらないのか。そもそも、面白いどうのでやっていたやりとりでは無い。

 更に睨みつけるが、グロバードは相手にする気もないような態度で一歩踏み出して来た。




「ワタシもねぇ、どれだけ貢いでもぉ知らせられないと門前払いでねぇ。この役目を渡された時、いぃい機会だと思ったんだがねぇ。アテが外れたよぉ」



「何言って、」



「想像以上にそっちが知らなさ過ぎたぁ、ってぇ事だねぇ」




 また一歩、更に一歩、魔魅に近づいてくる。

 何を言ってるのか、何をしているのか、小さな因子が少年を苛立たせる。




「何だよその口ぶり。俺が何も知らないって言いたいのかよ?!」



「ああそうともさぁ。入口にもたぁってないくせにちょっかいを出して状況を掻き回すぅ。【奴隷族】もだがぁ、タチがぁ悪いねぇ」



「だから、何が・・・・・・っ!!!」




 手を伸ばして掴みかかれば用意に殴れる距離まで詰められたグロバードの姿を睨み、だが、依然と薄笑いを浮かべる腹立たしい表情。




「悪いがぁ、答え合わせはここまでだねぇ。自力でやってこれたらぁ褒めてあげようじゃあないか」




 誰が! 剣を放とうと立ち上がった。

 けれど、




()()はぁ、殺さないようにねぇ?」




 ニタリッ ねちっこい笑いが鼓膜に張り付く。

 突いたと思った剣先が、ぶつりと消えた。握った感触さえも。

 武器が消された。冷静さを欠いた魔魅の完全な不注意だ。


 笑う顔が、いつかの記憶と混じりあった。


 薄氷の月下、滴る命に。



 また、いなくなってしまう?



 また。



 残される。



 それは、




「嫌に決まってんだろぉおおっ!!」




 衣嚢のなかで血塗でくしゃくしゃになった人型の紙を掴み、放り投げた。

 いくら怒られたってかまやしない。




「壊せ!!土塊ッ!!!!」




 叫んだ瞬間、あの巨漢が天井を粉砕した。






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