弐
二人が出発した街は円状に広がっており、街外と面する位置には、壁が築かれている。
その為、出入口は人工的に設けられた四つの門だけなのだが、ここで一つの問題が発生する。
普通ならば、門は真南・真北・真西・真東の四つだが、あの街は何故か東北・北西・南西・南東の向きにある。
「だから、北と言われても二つ門がある。南に向かうわけにもいかないし、選んでみた」
「それで見事に当たりを引いた訳かよ!! くじ運悪いなお前!」
説明と言う名の言い訳を飛び掛かって来る狼を叩き潰しながらにしてくる少女に、少年は投げやる様に叫ぶと、大剣を横薙ぎに払う。
しかし、狼は仲間がどれ程地面で血塗れで動かなくなっても、飽きることもせずに次々と襲いかかってくる。
「あぁクソッ! 何こいつら、本当に野獣かよ?!」
「魔獣の霊気が無いから、野獣でしょ」
狼の毛深い頭蓋を砕き、軟らかそうな腹を真っ二つに切り裂く。
しかし、赤や紫等の小さな内臓諸々が嫌な音を立てて地面を赤く染めようとも、狼の群れは後を絶とうとしない。
「あぁもう面倒臭い!!」
子供が遊んでいた玩具に飽きて、親に構えと言うような乱雑口調で剣を振り回す。すると、僅かながらに狼達が怯む。
その一瞬の隙に、危ないと文句を言う少女を担ぎ上げた。
「な………ッ?!」
「おぉっと、文句は無しだぜ?」
近付いてくる狼を片手で振り切りながら、少し先に見える森を指差す。
「あの森でこいつら撒いて、北に直行!! どうだ!?」
「馬鹿じゃな………ひゃうっ?!」
異論を唱えようとした少女を人並み外れた大跳躍でつぐませ、空高くから森の深さを確認し、着地体勢をとる。
「目的は達成出来る! 問題無し!!」
不敵な笑みで見事に着地した少年は、呆気にとられた狼の集団に振り返り、
「やーい、間抜け野獣ー!」
「ちょっ?!」
少女が止める間もなく、少年が叫んだ。
と、
「がルルルルゥゥゥッ……!!」
言葉の意味が伝わったのかどうかは不明だが、怒りを買ったのは間違いない無さそうだ。
低い唸り声を上げ、狼達の目付きが一瞬で鋭くなる。
「あ、やべ」
後悔の呟き。しかし、後悔先に立たず。
何十匹もの狼が怒り任せに迫ってくる。
「に、逃げようっ!!」
「最初からそうすれば良かったでしょ?!」
少年は文句を言う少女を担いで走り出した。