壱
事の起こりは、二人が訪れた街での会話からだ。
「二人は旅人さんか何かかい?」
一泊泊まった宿の主人が、少年と少女の装備の具合から何気無くそう言った。
出かけだったので使い古したローブを羽織っていたのだが、動く度に揺れる隙間から見えてしまったらしい。
少女は腰に細身の鞘を、少年に至っては背中に背負っているのだから丸分かりだ。
別に隠す事でも無かったので正直に頷くと、主人は困った様な顔をした。
「なら、北の街道は通らない方がいいよ」
話に寄ると、どうやら旅人が何人も野生の獣に襲われているとの事。
「野獣くらいなら、倒せば良くない?」
「多勢に無勢って言葉、知ってる?」
楽観的な少年の考えに少女が現実的に反論し、結果、東の街道から大回りして北の新たな街を目指すことになった。
「って言うかさ、何で北に拘わんの? 俺達の目的に方向は関係無くない?」
道中、少年が正面突破が出来なかった事が不満に残っているのか、不服そうに少女に訊く。
そんな少年の態度に慣れている少女は、別段変わらない口調で、
「私達は南端から来た。なら、真反対の北を目指すのが最短距離でしょ」
「そりゃそーだけどさぁ・・・」
納得出来ないのか、まだ愚痴を言おうとする少年は、しかし、足が止まるのと同時に先を失った。
「・・・なぁ、確か野獣が出るのは北だっつってなよな、あのおっさん」
「確かに『北の街道』とは言っていた」
少年は少女の返答に嫌そうな顔で苦笑いをしながら、涼しい顔のまま街道の先を見る相方に尋ねる。
「・・・ここは、どの街道だったりする?」
各々の身に付けた武具に手を伸ばし、
「北東街道」
「お前ぇぇええええッ!!」
刀身が鞘走ると同時に、何十匹もの狼が二人に襲いかかった。