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不死を象る世界は遊戯なれど  作者: 茜木
第壱章『偏狭に在りし教会を模す』
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第六話



客室と言うよりは、元は寝室だった物をそのまま放置した感じだった。

定期的に掃除をしているのか、清潔とまでは行かなくとも綺麗に整えられている。




「村の中では結構富んでる方なのか?」




魔魅は早速ベッドに飛び込もうとするのをナナシに止められながら、部屋の隅々を見渡して呟いた。

基本的には必要最低限の物以外は置いていないが、数冊の書物や花が生けてある。




教育施設(ファーブ)に入ってる様だから、驚く事でもない」



(いや)、俺はアイツが教育施設(ファーブ)に入ってる事自体初耳なんだけど」




当然のように答えるナナシに、魔魅は知ってるなら教えろよと言う視線を送るが無視される。

仕方無しに木製の椅子に腰掛けると「変わってるよな」と話し出した。




「今時の子供(ガキ)って、あそこまで楽天的だったか?」



「さぁ?」




興味無さげに一言だけ返すと、ナナシは入ってきた扉を窺う。




「本人に訊くのが一番」



「今は聞けないだろ」




ナウジーは今、何やら父が寝室に隠していた如何(いかが)わしい書物を発見した、ご乱心気味の母親を(なだ)めに、または仲介しに行っている。木刀を振り上げる程なので、他人の二人がどうこうできる事ではない。

よって、迷惑になる、或いは邪魔になる為、先に部屋に案内されたは良いものの、何をするにも何もない二人は暇を持て余してしまうのが現状。

したがって、会話によって次官を消費するしかない。




「珍しいなって話だよ。俺の事を知った後でも普通に話す奴は」



「自分から暴露してたけど」



「うぐっ」




思わず言葉に詰まる魔魅に、ナナシは淡々と言葉を続ける。




「行動が軽率。男の時も」




魔魅に抱えられて荒野を移動した時の嫌な予感。

彼は人外の身体能力でものの数十分程度で村に着いたが、先に逃げていった男の荷馬車では村に着くまで、最低でも二時間程はかかる。男の本来の目的が村の先にある町だとしても、混乱して助けを求めていた状態では、真っ先に村に向かっただろう。そのために鉢合わせしてしまったのだ。




「荒野を出てからは歩いていれば、男も少しは落ち着いていた筈」




しかし、止めなかったとは言え、男より先に着いてしまったことでそれは叶わなくなった。

ナウジーの話から、この村の教会は勘違いされやすく、正しい思考が出来なかった男は【ファブレファ教会】だと思って飛び込んできたのだろう。世界の人々の半分以上がファブレファ神を信じている今では、加護を受けようと思ってもおかしくはない。

その助け先に化け物と呼んだ相手がいたなら、ああなって何も言いようが無い。

無表情の中に責められる魔魅は、けれどナナシの話を理解してながらも不意に思った。




「お前、(ばあ)ちゃんに似てるって言われなかったか?」



「は?」




これとばかりに怪訝な声で魔魅に冷ややかな視線を送るナナシ。話を聞いていなかったのかと。

けれど、魔魅は気にする素振りすらせず、赤髪を引っ掻いてあっけらかんと笑い、




「説教の仕方とか似てんなぁ~って」




何故そんな事を魔魅が言えるのか。ナナシは訊こうとして口を開きかけたが、突然扉が派手な音を立てて開けられたことで中断せざるを得なかった。




「スマンッ! やっと終わったぜ!!」




開け放たれた扉から、ボサボサだった髪をよりボサボサにしたナウジーが無遠慮に入ってくる。本来はナウジーの家の部屋なので遠慮も何も無いが。

そのままずかずかと入ってくると、前後逆の格好で座っている魔魅の腕を引っ掴み、引っ張って立たせると再び扉に戻る。




「え、おい、ちょっとぉっ?!」




いきなりに焦る魔魅を問答無用で部屋の外まで持っていき、最後に顔を覗かせてから「五分で替わるから!」とだけ言い残して、ナウジーは扉を閉めてしまった。僅かな間、引きずり続けられているのか、魔魅の抵抗する声がしていたが、それも次第に聞こえなくなった。

唖然とする暇もつもりもなく、旅仲間が連れ去られたナナシは別段変わることなく一つ瞬きをすると、部屋をもう一度見渡す。

数冊の勉学の本に花を生けた花瓶、一つのベッドに二枚の厚い布。どうやら布団になるらしい。

他には小さな机とおざなりな本棚ぐらいで、本当に必要最低限の物しか無い部屋だが、それでも普通の部屋として成り立っていた。

気持ちばかりに付けられたらしい小さな窓に目をやれば、夕日が赤く燃える様な光を射し込んでいる。明かりが点いていないせいで、物の全てが茜色に照らされる。




「落ち着かない…」




ナナシは、窓の光が足元にまで及んでいる事を知ると、小さく呟いた。

窓は見上げる程高い場所に在るわけでも、人が通れない程小さい訳でもない。

少女の金色の瞳が細められると、彼女の体は窓の外へと飛び出していた。

村全体の例に漏れず平屋のため、すんなり地面に着地し、家が建つ前から生えてたらしい木の一番下の枝に掴まる。

宙ぶらりんの状態から振り子の要領で体を回転させ、今度は掴まっていた枝に乗り、その勢いのまま次々と枝を登っていく。

平屋の屋根を丁度超える辺りで太い枝が無くなり、ナナシは屋根に飛び乗った。

バランスを整えて一番上まで行くと突起部分に腰を下ろす。夕日は殆ど沈みかけており、後数分もすれば紺色に覆われてしまう程。

冷えてきた風にローブや髪が流れ、肌に当たる。すると、段々ナナシの少女らしい顔に安堵が浮かび始める。

膝を抱えて額に当て、ゆっくりと目を瞑り風の音に耳を傾ける。




「何してんだよ」




十数秒もしない内にぶっきらぼうな声がかかり、瞼をあけて横を見やると、不機嫌に怒ったような顔で赤髪の少年が立っていた。

ナナシは、直ぐに視線を沈む夕日に向けると「特には」と応えた。




「落ち着かなかった」



「それだけでいきなり居なくなられるのも困んだけど」




魔魅は、カタカタと足音を立ててナナシに近付き、彼女に影が被さった所で手を差し出した。




「次はお前だとさ」



「汚れてない」



「そう言う問題じゃねぇよ」




見向きもしないナナシの手を掴み、強引に立ち上がらせる。

立たせられたナナシは、嫌そうに手を振り払おうとするが、男女の差で振りほどけない。

不満気に掴む相手を見上げると、少年はナナシではなく、村の中心の方を睨むような表情で凝視していた。




「何?」




ナナシも吊られて見ると、村の中心、教会が在る辺りから青い炎が昇っている。

甲高い悲鳴や逃げ惑う人々の叫ぶ声が聞こえる辺り、村の祭事では無いだろう。

そして、少し目を凝らして見れば、微かに紫煙が漂っていた。




「魔獣か?」



「霊気の漂い方がおかしい」




遠巻きに見ているだけでは、何が起こっているのか等予想の範疇を出ない。

それに、この旅人二人に襲われている人間を放っておく主義など持ち合わせていない。




「ナウジーっ!!」




魔魅は掴んでいた手を離し、下でおいてけぼりも喰らっていたナウジーの元に飛び降りる。大方、体を洗った際に置いてきた剣を取りに行ったのだろう。

対して、手が解放されたナナシは、一もなく屋根から飛び下り、先じて教会前の広場へと向かった。

腰にぶら下げた鞘から飛び出す剣の柄に手を置き、いつでも抜剣出来るようにして走り続け、二、三十秒程で壁によって、狭められていた視界が広がる。




「ーーーーーーッ!!」





同時に、中央で見覚え在る荷馬車の男の首を締める人影を視角するや否や、抜いた刀身を振りかざした。




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