優男騎士の大切なひと
「どう、美味しい? リディスちゃん」
目の前にいる少女に問いかけると、彼女は頬を微かに赤らめながら首を縦に振っている。それを見て僕は表情を緩ました。僕たちの前にあるのは、小さいながらも様々な果物がのった豪華なパフェ。
今日は非番だったため、城に来たばかりの彼女を連れて、町にきたのだ。慣れない環境だからか、時折彼女が疲れた顔を見たのがきっかけだった。
「ロカセナ、この店、どうして知っているの?」
スプーンを置いて、紅茶を一口飲んだ彼女が尋ねてくる。僕は手を顎に添えて、少し考え込んだ。
何かの拍子に誰かから教えてもらった記憶があるが、誰だったか思い出せない。
「ちょっと美味しいって小耳に挟んでね。他にも連れて行きたい所があるから、早く食べよう」
「わかった。ごめん、休みの日なのに私のために」
「気にしないで。フリート抜きで過ごしたいだけ」
ちなみにフリートは、今日は臨時鍛錬と言われて、隊長に捕まっている。……ご愁傷様。
リディスちゃんとスプーンを動かし続けていると、女性が一人寄ってくるのが見えた。誰だろう。
「あら、ロカセナじゃない!」
声を聞いてようやく判別する。城の侍女だ。普段の化粧はもっと薄く、今みたいな派手な服は着ていなかったので、わからなかった。
そういえば、ここは彼女が一緒に行こうって言っていた店だった。情報が削られて、『美味しいパフェがある店』しか、記憶に残らなかったらしい。
「待っていてくれたの! 嬉しい!」
まさか。覚えていたら来なかった。
「……あら、この子は?」
固まっているリディスちゃんの背中に、怪訝な表情の彼女の視線が突き刺さる。あとで探りを言われるのも面倒だから、はっきり言ってしまおう。
「彼女は僕の大切な人だよ」
リディスちゃんも侍女も目を丸くした。嘘は言っていない。大切な仲間で、友人で、そして――。
そこで言葉を飲みこんで、侍女に対し微笑んだ。
「明日から、よろしくお願いします、マーリさん」
「よ、よろしく、ロカセナ……」
侍女は回れ右をして、店の奥へ移動していった。リディスちゃんが顔を近づけてくる。
「さっきの意味、どういう――」
頬が真っ赤になっている彼女の頭を軽く撫でた。
「大切な仲間っていう意味だよ」
「そういう意味ね……びっくりした」
感情表現が豊かな彼女をいじるのは楽しかった。できるなら、こういう穏やかな日が続けばいいな。
・2016年10月23日開催のCOMITIA118にて配布したペーパーに収録
・時間軸:第1章1-15~18の王国内にて
・コメント:ロカセナ視点の掌編小説です。さらりと言ってのける、彼はなかなか曲者ですね。