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魔宝樹の鍵  作者: 桐谷瑞香
番外編 散りばめられた旅の思い出(掌編集)
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少女の未来を映す鏡

「未来を映す鏡?」

 雑踏が行き交う中、リディスは看板を見て、立ち止まった。その脇には老婆が鏡を前にして座っている。旅の同行者である黒髪の青年は溜息を吐き、小声で言った。

「……あのな、どう見ても胡散臭いだろ」

「フリートの言うとおり、そうかもしれないけど……」

 言葉を詰まらせながらも、リディスは抵抗する。どうしても気になるのだ。すると後ろにいた銀髪の青年が口を開いた。

「ねえ、寄るだけ寄ってみない? 予言者かもしれない」

「ロカセナ、予言者だとしても、俺にはこの人が優れた――」

「人を見た目で判断しては困るねぇ……!」

 老婆が高笑いをあげた。三人はぎょっとして顔を向ける。

「予言ではなく未来を見るのだ。未来に不安があるのかい?」

 リディスは躊躇いながらも首を縦に振る。すると老婆は手で拱いた。口うるさいフリートに止められる前に近づく。

 老婆は鏡を持ち、それをリディス側に向けた。鏡には金髪で緑色の瞳のリディスが映っている。後ろには黒髪と銀髪の青年たちもいた。それは初め三人を映していた。しかし徐々に靄がかかっていく。リディスはごくりと唾を呑んだ。

 やがて靄が少しずつはけていくと、顔の部分は靄がかかった緩く巻かれた金色の長い髪の少女が映った。顔全体は朧気だが、瞳だけは靄の中でも鮮明に見えた。緑色だった。

「なんだよ、リディスが映っているだけじゃねぇか……」

 舌打ちをして、前のめりになっていたフリートは姿勢を正す。ロカセナは苦笑いしながら、彼の肩に手を乗せる。

「まあまあ、どんな予言者でも的中させることはできないよ」

 リディスも同意しつつも、未来を見た老婆が目を大きく見開いているのが気になった。次の瞬間鏡が音を立てて割れた。

「……映っていたのは本当にお前さんかい?」

 老婆が低い声で聞いてくる。リディスは眉をひそめた。

「色が同じと言うだけで、自分と思いこんでいないか?」

「はっきり確認はできませんでしたが、私だと思います」

「そうか。ならお前さんの未来でも映ったのかもしれん」

 老婆は呟いてから、粉々になった鏡を袋の中に入れ始めた。

「お代はいらん。まともに未来が見えなかったからな。せいぜい道中気をつけることじゃ。王国までの道のりは長い」

 突然フリートはリディスの腕をとって自分の方に引いた。引かれた少女は、後ろにいたロカセナの胸に背中が当たった。

「お前、何者だ」

 フリートは警戒心をむき出しにして、立ち上がった老婆に問いかける。彼女は口元にうっすらと笑みを浮かべた。

「未来を見たら嬢ちゃんが映った。だから声をかけたまでだ」

 そう言った老婆は背を向けて、裏通りの奥に消えていった。

「フリート、ピリピリするなよ。服装や持ち物から見れば、僕たちが旅人だってわかるだろ。ねえ、リディスちゃん」

 頷きつつも、鏡に映った人物が頭の片隅から離れなかった。あれは本当に未来の自分なのか。それとも――。

 疑問が渦巻く中、三人は再び歩きだした。



・2017月4月1日開催の第5回Text-Revolutionsにて配布したペーパーに収録

・時間軸: 第1章1-10~11の王国までの道中

      3人の旅の道中で立ち寄った町にて。今後を暗示する内容が……?

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