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魔宝樹の鍵  作者: 桐谷瑞香
第二章 道と火を巡る夢現
21/242

2‐1 船上での邂逅(1)

 第二章 道と火を巡る夢現 開始

 ドラシル半島では、十八歳の誕生日と同時に自分専用の魔宝珠を持つことができる。まだ何も息を吹き込まれていない――つまり何を召喚するか決まっていない珠であり、初めて自分だけの宝珠を持つということで胸が高鳴るものだ。

 たいていの人は魔宝珠を持つまでに何を召喚するか決めているが、先々のことを思い描けない人は何もせずに保管している人もいた。

 召喚物を何にするかは人それぞれだ。例えば職人を志す者であればそれに必要な工具、医者を志す者であれば医療器具や愛用している書物、探検家を目指している者であれば自衛をするための道具などを召喚物するだろう。もちろん騎士や傭兵を考えている者は、剣などの武器を召喚物とするのが普通である。

 つまり、召喚物を決めた時点で自ずと先に続く道は決まっていくのだ。



 一方、この地では非常に重宝されている職業の一つとして、予言者というものがある。

 これは水晶玉等を召喚物とし、それを利用して過去や現代、そして未来を見ようというものだ。特に高度な能力が要求されるのが未来を見ることだが、どの時を見るにしても一定の才能がなければできない。

 予言者は城や大きな町などでは専属でいることもある。だが気まぐれな性格的の人が多く、たいていは自由気ままな生活を送っているため、接触することが難しいと言われている。たまに資金調達のために道の脇で予言をしている者もいるが、質にばらつきがあった。

 表舞台にほとんど出ない予言者が、なぜ重宝されているのだろうか。

 それは消えてしまったレーラズの樹とドラシル半島を繋ぐ問題を、予言できると言われているからだ。

 樹が消えたのは突然だったが、実は過去にいつかは消えると予言した者がいたという噂がある。つまり逆を突けば、樹が現れることも予言できるのではないかと考えられているのだ。

 そのような中、優秀な予言者であり、ミスガルム城に遣えるアルヴィースが先日ある予言をし、その直後から酷く体調を崩したという。予言した内容は機密事項であるため、王などのごく僅かな上層部の人間しか知られていない。だが大方の人は予想が付いていた。

 おそらくレーラズの樹に関することだろう――と。

 なぜなら体調を崩すほど多大な精神力を使う予言内容が、それ以外思いつかないからだ。

 しかし情報が洩れず、推測の域から出られなかったため、結局噂は宙に浮いた状態となっていた。

 人々が忘れゆく中、予言を聞いた数少ない者たちは、内容を受けて人知れず少しずつ動き出していた。

 長年加護を与え続けていた樹の在り処を求めて。



 * * *



 出発日の明け方、リディスは鏡の前で仕立てた服を体に当ててみた。動き易さを重視して作られており、見た目は普段着ているものと変わりない。だが若干違うところもある。いつもよりしっかりした生地で出来ているだけでなく、思いの他に軽いのだ。

 まず長袖ではなく、半袖のシャツを手に取る。フリートからムスヘイム領はここよりも暑いため、重ね着ができる格好がいいと言われていた。スカートをはき、ベストを着る。

 そして、多めに作ってもらったポケットにセリオーヌから受け取った魔宝珠を入れた。あとは必要になりそな物を肩掛け鞄に最低限詰め込めば準備完了だ。ミスガルム王国で半袖では寒いため、上着を羽織ってベッドの上に腰を下ろした。

 突然言われた大役に未だに戸惑っている。買い物を頼まれてムスヘイム領に行くならまだしも、城の代表として領主から物を受け取りに行くなど、予想を遙かに通り越した展開だった。

 だが行くしかない。これは前に進むための絶好の機会なのだ。

 ここ最近、目まぐるしく様々なことが起こりすぎている。

 リディスの意図に反したような展開の先に何があるのか。

 それともただ単に偶然が重なっただけだろうか。

 予言者に会えば、少しはその理由がわかるかもしれない。好奇心と不安が混じり合いながらも立ち上がり、ドアの向こうで待っている同行者の元に姿を見せた。



 ミスガルム領内は馬車で移動するため、リディスたちは城下町の脇にある馬車乗り場へと向かっていた。フリートとロカセナも薄手の素材を使った服を着ているためか、堅苦しい雰囲気が少し抜けたように見える。

「一般人と同じ馬車に乗るんだよね。経費の削減と受け取っていいのかな?」

 リディスとフリートの後ろを歩いていたロカセナが首を傾げている。朝も早いためか人はほとんどいない。

「あとは護衛も兼ねてだろう。掃討が一応できたとはいえ、モンスターの巣があった場所に最も近づく道を通る。聞いたところ、その道を通る際は必ず騎士は一人以上乗せているらしい」

「なるほど。そういうことか」

 納得したようでロカセナは頷いている。リディスも話を聞いて首を縦に振りつつ、いくつかある疑問点を思い浮かべていた。その内容をロカセナに質問してみる。

「ねえ、騎士なのに、馬には乗らないの?」

「乗るときは乗るよ。今回は急ぎの用事ではないから乗らないだけ。それにムスヘイム領に渡る前に馬を預ける手間を考えると、馬車で移動した方が楽かなって」

「預ける手間?」

 リディスが目を瞬かせていると、ロカセナは一度立ち止まってドラシル半島の全体像が描かれている小さい地図を広げた。指で今回通るところをなぞっていくと、途中でリディスはあっと声を漏らす。

「この二つの領を隔てているのは大きな川と山。行くには小さい船を使って川を渡るか、大きな船を使って海路を通る必要がある。今回は定期便である大きな船が出たばかりだから、川を経由する道を進んでいる。その川を渡るために使用する船には、残念ながら馬は乗せられないんだ」

「そうなんだ、ありがとう」

 お礼を言うと「こちらこそ」と、優しい笑顔で返してくれた。つられてリディスも表情が緩んだ。

 他愛ない話をしているうちに、馬車が停められている場所に到着する。既に数人待っていた。商人らしき男性や家族連れ、紺色の髪を下の方で結っている綺麗な女性がいる。ふとフリートを見上げると、目を丸くして毅然とした表情を崩していた。その視界には何が映っているのか、リディスも振り向こうとした矢先、御者が口を開いた。

「間もなくミスガルム領内の定期馬車、キーカワ町行きが出ます。ご利用する方はご乗車ください」

 そう言うと、その場にいた人々は順々に幌馬車に乗り込んだ。リディスたちを含めて全部で八人。馬車の中は四脚の長椅子が前から一定の間隔で置いてある。リディスたちは一番後ろの椅子に腰をかけた。前には紺色の髪の女性が座っており、視線が合ったリディスは笑顔で朝の挨拶をしたが、彼女は軽く会釈をしただけですぐに背を向けられた。少し残念だったが、垣間見えた横顔は見とれてしまうくらい非常に美しかった。

 馬車が動き出すと我に戻り、右に座っているフリートと左にいるロカセナを交互に見る。フリートは腕を組んで既に目を閉じていた。ロカセナは見とれていた様子を目撃していたのか、口元がにやけている。

 リディスはとっさにロカセナから視線を逸らして、おもむろに一冊の本を取り出した。ムスヘイム領の歴史という題名の薄めの本である。

 急に話がまとまった関係で事前に勉強ができなかったため、せめて道中の時間で知識を得ようと思い、図書室から借りてきたものだ。どれを借りていいかわからない中で、図書室で再会したミディラルがこれを選んでくれたのである。簡潔に載っており、最低限の知識が得られるということで渡してくれた。それを有り難く受け取り、この場に持ってきている。

「その本は自分で選んだのか?」

 左目を開けたフリートがちらりとその表紙に視線を落としている。

「城内で出会った方から薦められたのよ」

「そうか……。その本、俺もある人に薦められて読んだことがある。内容も充実していて良い本だが、薄くて目立たないためか知っている人が少ないんだ。薦めてもらった人物は図書室の常連のようだな。良かったな、その本を薦めてもらって」

「そうなの。早速読んでみる」

 少し古びた表紙、そして日に焼けた紙を捲りながら読み始める。

 最初のページはムスヘイム領の地図。南には海が、北西にはミスガルム領を隔てる川と山が、そして北東にあるヨトンルム領との境界には、川だけでなく広大な砂漠が広がっていた。砂漠は広範囲に渡っているため、ヨトンルム領を陸路で行くにはかなり骨が折れる行程らしい。

 重要そうなところを中心に読みながら、リディスは紙を次々と捲っていった。



 フリートはリディスが本に集中しているのを見て、そしてその横にいる相棒はすでに腕を組んで目を瞑っていることを確認して、こっそり視線を斜め前にいる女性へ向けた。無表情の彼女は姿勢を正して外を眺めている。

 フリートの記憶が間違いでなければ、彼女はミスガルム王国に向かう途中の湖で会った、精神的な圧迫感を与えてきた女性である。紺色の長い髪を下の方でくくり、白いロングスカートを着ている見目麗しい女性。どこの貴族かと思ってしまう容姿だが、腹の中では何を考えているか見当が付かない。

 彼女はいつミスガルム王国に来たのだろうか。そしてこれからどこに行くのだろうか。

 素性が明らかでない彼女を盗み見ていると、不意に視線が左側の窓の先に吸い寄せられていった。そこに広がる風景は悪い意味で見覚えのあるものだった。

「……リディス」

「何、フリート?」

「あの先がこの前俺たちが出向いたところだ」

 鬱蒼とした木々に覆われた森――意味深な言葉を残して消えた、女性や少年のことが思い出される。

 リディスは神妙そうな面持ちで森を見ていた。この森は消えてしまったアスガルム領との境界部分に当たるもの。森の中をさらに何日か歩けば、ぽっかりと空いてしまった何もない空間を目の当たりにするだろう。昔は領同士の往来も頻繁にあったため舗装された道があったが、何十年と経過した今では使用する人などいなくなり、もはや見る影もなかった。

「モンスター掃討をしたのに、雰囲気は良くなっていない気がするけど」

「そうかもな。掃討はしたが残存した気配はあるかもしれない」

 鋭い指摘を受けたが、それはやんわりと受け流す。リディスには掃討直後、モンスターを召喚したかもしれないあの女性や少年については言っていなかった。



 * * *



 馬車に乗り続けて三日経過した昼、この馬車の終点であるキーカワ町に到着した。

 王国から共に乗った家族連れや商人たちは手前の町で降りており、代わりに他の町から乗ってきた客で埋め尽くされていた。満員になったその馬車は町の入り口で停まると、次々と乗客を降ろしていく。最後にリディスたちが降りると、馬車は馬の休憩のために馬小屋へ行ってしまった。

 それを見届けると、軽く食事をしてからムスヘイム領に渡ろうとロカセナは提案した。それを快く承諾して、三人は足早に町の中を歩いて行く。

 キーカワ町はムスヘイム領とミスガルム領の境界線である川の傍にあり、ミスガルム領側からその間を移動する船を出している町だ。交易の町の一つとして栄えており、新鮮な魚介類や、リディスが見たことがない熱帯系で採れる果物などが売っていた。

 ミスガルム王国ではいなかった、褐色肌の人がちらほらと見られる。おそらくムスヘイム領の人たちだろう。土地柄、日差しが強く、雨もあまり降らないため、日に焼けやすいのだ。ミスガルム領の住民は薄めの肌の色なので、ここにいる彼らはより目立って見える。だがこの川を超えた先には、その比率は逆転するのだろう。胸の高鳴りを感じながら、リディスは近場の食堂に入った。

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