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正義の味方になれない僕

作者: 橋本紘
掲載日:2026/10/06

ご覧いただきありがとうございます。

本作は、クラスの空気になじめず勉強に打ち込む主人公と、彼を巻き込んでいくヒロインの青春を描いた短編小説です。

※本作はnoteにて先行公開した作品です。

 「ちょっと村山も手伝ってよー。」

 クラスの女子が叫んでいる。

 僕は無視を決め込んだ。

 

 正直、文化祭に関わりたくなかった。

 僕は高校2年生になり、東大を目指して2年間勉強してきた。

 それも塾に入らず独自の学習システムを確立し、寝ているとき以外は勉強に打ち込んできたくらいだ。

 それなのにこの女子は何を考えて、僕のことを呼んでいるのか。

 文化祭の準備は実行委員と有志が夏休み前から集まり、ステージで披露する劇の準備をしていた。

 僕は何もしなくてもバレなさそうということで大道具の仕事を引き受けたが、クラスで孤立していることもあり、机が教室の後ろに並べられた隅で準備の最中、ブックカバーに包まれた東大の赤本を解いていても咎められることはなかった。

 

 高校1年生の時、僕は高校デビューをしようとしていた。

 これまで髪を染めたこともなく、友達も少なめ、ましてや中学校での恋愛も経験したことがなかった僕は高校生になったらアルバイトをして、彼女を作ることを目標にしていた。

 大規模校なら多少あるスクールカーストという不文律の制度。僕はスクールカーストが嫌いだったが、その見た目の地味さと真面目だけの取柄で3軍になっていた。

 3軍を脱却するために高校デビューするつもりでいた。


 高校1年生の時は不得手な友達づくりに腐心した。

 入学式当日に後ろの席だった男子に声をかけ、早速仲良くなったり、他のクラスの子とも仲良くなり、1軍とは言えなかったが、2軍くらいには君臨出来ていたと自負している。

 因みに高校デビューと言っても1年間で髪を染めるまでは出来なかったが、中学3年間、学ランのボタンを律儀に上まで締めていたのを高校に入ってからは教師から咎められない程度に第一ボタンを開けることにした。そして、1年の時に好きな子に告白して玉砕するという青春も経験出来た。

 

 そんな順風満帆だった1年間が終わり、雲行きが一変したのが高校2年生だった。

 2桁は友達を作ったのにその友達が一人もいないクラスになったのだ。

 そこから僕は学校や教師に反抗するまでの勇気はなかったので、東大を目指すという人生を懸けた抵抗をすることを決めた。

 僕は東大を目指せるほどの学力ではなかったが、塾へ行かずとも5教科の成績は5を取っていたので、こういった方法での抵抗を示すことが出来たのかもしれない。


 快晴から土砂降りに変わった学生生活だが、僕には傘になってくれる存在がいた。

 それは高校1年生から一緒だった菅井美咲だった。

 菅井美咲との出会いは美術の授業で隣同士になり、定期テスト前に自習になった時に数学を教えたのがきっかけだった。

 美咲は黒髪のストレートで目は切れ長、そして何より明るい性格でサバサバしていた。

 そういったところに強く惹かれた。

 僕は高校1年生の時は他の子が好きだったので告白することはなかったが、ずっと気になっていた。そして、友達としてLINEを交換してもらっていた。

僕が高校2年生になり、東大を目指すことにしたことも美咲には言っていた。

 彼女はこのことをクラスの皆には内緒にするようにお願いしたことをずっと律儀に守ってくれる良い子だった。


 「おい!村山!お前も参加して文化祭の準備、手伝え!」

 担任の先生から怒鳴られた。僕は担任のこういう態度が気に入らず、

 「僕の担当する場所はもう終わっているので……。」

 と反論した。担任の先生も僕の勉強に対する情熱を知っているので言い返せない様子だった。

 僕はブックカバーで隠された東大の赤本を黙々と解いていた。


 文化祭の準備も中盤に差し掛かり、周りは準備で忙しそうだった。

 そんなことは気にせず今日も隠された赤本を解いていく。

 すると、目の前に美咲が立っていた。

 「ねえねえ、村山君ももうそろそろ手伝ってくれない?ダメかな?」

 「え?どうして?何かあった?」

 「大道具の子が今日休みで工程が遅れているみたいで……お願い!」

 と、顔の前で手を合わせた。

 美咲は文化祭の実行委員でこの高校生活最後の文化祭に賭けているようだった。

 「っていっても自分の所は終わっているしなあ……。」

 僕は静かに立ち上がった。上から見下ろされるのが嫌だったからだ。

 「どうしても勉強しなきゃダメ?これがクラスで協力して何か作るのも最後かもしれないよ?」

 そう、可愛い瞳の上目遣いで来られると、流石の僕も怯んだ。

 まるで担任と美咲は北風と太陽みたいだなと思った。

 「菅井さんも知っていると思うけど、僕は――――。」

 というと、美咲は耳元で、

 「分かった。文化祭成功したら一回だけデート行ってあげるから……。」

 と言った。

 そこまでの覚悟なのかと悟り、僕は、

 「分かったよ。少しだけだよ。」

 とぶっきらぼうに答えた。


 そこから文化祭の準備はスムーズに進み、当日、ステージでの劇は大成功に終わった。

 ステージの直後、校門でクラス写真を撮った時の美咲の笑顔はこれまで見たことがなかった。

 約束のデートの日、僕は慣れないおしゃれに迷ったが、清潔感だけを頼りに服装を決め、待ち合わせ場所の駅前で待っていた。

 しばらくすると美咲は笑顔で走ってきた。

 美咲の笑顔は白いワンピースに反射し輝いていた。


 (了)


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

頑なだった主人公の心を動かした美咲の笑顔と、約束のデートに向かうラストシーン。二人のこの先の物語に少しでも思いを馳せていただけたら嬉しいです。

評価や感想、ブックマークなどいただけますと、今後の執筆の大きな励みになります!


【お知らせ】

10月14日(水)12:00より、連載小説『売れないっ!』(全51話)の毎日3回更新連載がスタートします!ぜひそちらもお楽しみに!


【注釈・補足】

※本作はnoteにて公開した原稿をベースに投稿しております。

※本作はAKB48の楽曲『正義の味方じゃないヒーロー』の世界観からインスピレーションを受けて執筆したフィクションです。

(とても素敵な楽曲ですので、気になった方はぜひ検索して聴いてみてください!)


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